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詩・ショートショート

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想像の世界を主にまとめています
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記事一覧

しろいポンチョ【詩】

きみたちは しろいポンチョをわすれたのかしら たよりない、うすいからだで わきめもふらず、「まえ」にすすむ それがどこかもわからぬまま きみたちに しろいポンチョがあったなら たよりない、そのからだはまもられ ふわふわと、ゆうがにただよっていてた そこがどこかもわからぬまま しろいポンチョがないきみたちは きょうもひたすら「まえ」へすすむ いつか どこかにはたどりつけるのかしら

ある街のオルゴール 【詩】

針が8を指したら オルゴールが鳴り響く 昨日も今日も 明日だって 2音目と同時に 町中のドアが開く 隣も向かいも 5軒先だって 規則正しいリズム 不確かなメロディー そこに合わせるのは 一糸乱れぬステップ 迷いの無い腕の運び 冷えた視線が空間を切り 怯えた表情が地面を濡らす ……お隣さん、そんな人でしたっけ ……お向かいさん、もっと溌剌としてたよね オルゴールは鳴り止まない その針が8を指すまで

羽化 【詩】

大人になれなくて 間に合わせの仮面も見当たらなくて 中途半端な顔をむき出しにして ジタバタするたびに転んでいた それは本当の話? それとも御伽噺? 実はすでに脱皮したあとで 仮面なんて必要なくて 薄い膜が触れて チクチク痛むだけだった そしたら気づいた あの子の顔の隙間 大人に見せかけて オートクチュールの仮面を被って 中途半端な顔を隠して 嗤っていただけだった それは本当の話? それとも御伽噺? どっちでもいいよ それではおさきに

ガラスの箱 【詩】

とつぜんの破裂音とともに きれつの入ったガラスの箱 オモイが詰まりすぎたかな 今はもう、スカスカだけど いまさらだけどお直ししよう かわいげのないOPPテープで かんだかい声をあげるテープが すきまを問答無用に埋めていく 歪なまま治されたガラスの箱が 光を乱反射してこっちを見てる きみはずっとこのままだけど ぼくの絆創膏はとれそうだよ

歯車と鶴 【詩】

2つの歯車 隣り合って回ってる どちらも微かに歪らしく 時々ギギギと擦る音 何かが磨り減って 雨の置き土産=錆 赤茶に染まる歯車2つ それでも無理やり回ろうと 四方に飛び散る小さな火花 何かが磨り減って そこに降り立つ一羽の鶴 純白の羽はすべてを包みこみ…… 赤く染まった鶴が飛び去っていく 燃えるような夕焼けを残して

カプセル旅行【詩】

カプセルに入って旅に出よう 飲めないなら忍び込めばいい 簡単に開けられることもなく こっそり抜け出すにも最適だ 長い長いトンネルに飛び込み 側面の地層をひたすら眺める 急にポンと吐き出されたのは 星たちがつどうパノラマ世界 こんにちは、と挨拶しながら 星たちの間をぬって滑ってく みんなの内から輝く微笑みで お腹がぼうっと温まってきた いつしか目の前に大きな月 「1番いいときに来たね」 文句なしの三日月姿で笑う 「君はこれからどこへ?」 ぼくにもわからないんだ 「それで

オーロラ・ブックストア 【ショートショート】

『あーあ、なんか面白いことないかなぁ』 職場からの帰り道、電灯がポツポツと寂しくついた商店街を歩く。 入社して3年目。仕事にも職場にも慣れた。俺の業務は毎年同じことの繰り返しだから、今年は本当に流れ作業のように過ぎ去っていった。後輩も来たことがないからずっと下っ端だし、なんというか、張り合いというものが全く無い。 『これで、いい出会いがあったら話は別なんだけど、さ』と心の中で呟く。流れ作業のくせに毎日しっかり残業があるせいで、職場以外の人間と会う時間も無い。今日は定時2

「オーロラ・ブックストア」 あらすじ

新卒3年目の「俺」は、流れ作業のような日々に嫌気がさしていた。そんなある日の帰り道、見覚えのない書店を発見する。そこはちょっと変わっていて、専用の腕時計が自分の本の好みを学習し、手に取るだけで振動で知らせてくれるらしい。そしてゆくゆくは、触らずとも本が勝手に光るという。 職場の同僚に話を聞くと、光輝く「運命的な出会い」があったという。出会いに飢えていた俺は本気で通い出すが……。 本編↓↓

積み木 【詩】

いつも答えを探している 穴に合う積み木を探して そっとはめこんでみる ここは四角 ここは三角 ここは丸……と思いきや楕円で 直前で必死に引き伸ばしてみる いつも答えを探している 心の部屋に帰ってきて やれやれと一息つく ここにも四角 あっちに三角 だけど手元にあるのはIだけ どちらの”わたし”が正しいの いつも答えを探している はまらない積み木を抱えて

起き抜けのモーニング 【ショートショート】

目覚ましの電子音が、頭上で鳴り響いた。 布団から右手を出し、ノールックでボタンを押す。全く起きる気がないときの押しかた……というわけでもなく、スヌーズを発動させすぎて癖になってしまっただけだ。といっても、今はもう1度寝るんだけど。 布団を頭まですっぽりと被ろうと、左手もちょこんと出して掛け布団の端を引っ張り上げる。そのとき、自分の目を疑った。白いはずのカバーが、オレンジ色に見えたからである。 一度、目を閉じてみる。そして開いてみた。オレンジ色である。今度は天井をしばらく

コード 【詩】

イヤホンコードが絡まっている 絡ませた覚えなんてないのに ごちゃついた塊が ポケットから吐き出された はじまりはどこですか 3本の先端をつまんでみるも 干からびたパスタのよう おわりはどこですか くぐらせ、引っ張る間にも どんどん冷えて固まっていく もう熱麦でも取っちゃえば 見知らぬ声が囁いてくる 一瞬、残骸から手を離そうとして それでもしぶとくこねくり回している

クリスマスの夜に【ショートショート】

クリスマスイヴの夜。21時。 足早にベッドへ滑り込む。本当はまだまだ夜ふかしするはずだったけど、もうどうでもいい。外界と遮断するかのように掛け布団を頭まですっぽりと被り、電気を消した。 何回か寝返りを打ちつつ、やっとうとうとしてきたところで、小さな物音が聞こえてきた。足音のようなものがゆっくりと、だが徐々に大きくなり、すぐ近くでピタリと止まった。直後、ゴトンという音がして、「バカッ」というささやき声。 この時点ですっかり目は覚めていたけど、目を開けるのは怖い。もしも泥棒

「クリスマスの夜に」あらすじ

クリスマスイヴの夜、まゆみは心にわだかまりを抱えたままベッドに入った。時刻はまだ21時。もっと夜更かしするつもりだったが、もうふて寝するしかなかったのだ。 そんな彼女の前に、信じられない訪問者が現れる。「これは、夢?」戸惑いながらも彼らと心を通わせていくまゆみに、ささやかなクリスマスの奇跡が起こる。

ガチャガチャ・ガチャ 【ショートショート】

週末、私はとあるガチャガチャコーナーの前で腕を組んでいた。 ここは、町に端っこにある商業施設。昔は平日も週末も関係なく人が入っていたようだが、巨大モールができてからは一気にさびれてしまった。 テナントが撤退した空間を埋めるべく設置されたガチャガチャコーナーで、以前から探していた某映画シリーズのマグネットを発見した。意気揚々と100円硬貨を3枚投入口に滑らせ、レバーを回す。 しかし、一向に出てくる気配がない。1度コインを戻し、再び入れ直して回してみるも、結果は同じ。中が減