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ガチャガチャ・ガチャ 【ショートショート】


週末、私はとあるガチャガチャコーナーの前で腕を組んでいた。

ここは、町に端っこにある商業施設。昔は平日も週末も関係なく人が入っていたようだが、巨大モールができてからは一気にさびれてしまった。


テナントが撤退した空間を埋めるべく設置されたガチャガチャコーナーで、以前から探していた某映画シリーズのマグネットを発見した。意気揚々と100円硬貨を3枚投入口に滑らせ、レバーを回す。

しかし、一向に出てくる気配がない。1度コインを戻し、再び入れ直して回してみるも、結果は同じ。中が減っているわけでもないから、接触が悪いのかもしれない。少し迷ったが、総合カウンターにいる店員に声をかけることにした。

対応してくれたのは、白髪交じりの男性店員だった。「すいませんねぇ」と眉を八の字に下げ、私が先導する間ずっと文字通り腰を低くしたままだった。

「こちらですね」と私に確認をとると、店員はジャラジャラとたくさんの鍵がついた中の1つを穴に入れ、カバーを開いた。

「どうぞ、お好きなのをお取りください」

「あ、選んでいいんですか?」


以前、別の場所でこういう事態になったときは、店員が無造作に取ったのを渡された。しかし、目の前の店員は「ささ、どうぞ」と手のひらをガチャガチャへ差し向けるのみ。お言葉に甘えて、第1希望を取らせてもらった。6種類あったから無理だと思っていたのに、日頃の行ないがよかったのだろうか。


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それから数カ月後、またしても私はコイン返却ボタンを押す羽目になっていた。

先日とは違う列の、ゲーム機を模したケーブルマスコットである。いくら店の奥にあって利用者も少ないとはいえ、管理が雑すぎではないか。私は小さく溜息をついて総合カウンターへ向かった。

しかし、歩いているうちにはたと気づく。ということは、好きなのを選べるのでは……?


その予想は現実のものとなった。数カ月前の再放送のごとく、白髪交じりの店員が申し訳なさそうな笑顔でやってきて、鍵をジャラジャラさせながらカバーを開け、「お好きなのをどうぞ」と言うのだった。



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こうなってくると、もはや故障しててくれと思うのは仕方のないことなのではなかろうか。二度あることは三度あるという言葉もある。三度目の正直は無視するとして、また数カ月後、ガチャガチャコーナーへ足を運んだ。


狙いは、非常に精巧な造りの虫フィギア。精巧である故に、1000円もする。5種類中カブトムシだけが欲しいので二の足を踏んでいたが、一発でゲットできるならやらない手はない。


流れるようにコインを入れ、レバーに手をかけた。



ガチャリ、ガチャリ、ゴトン。



正常だったぁぁぁ……!

そして中身はダンゴムシ。よりによって1番困るやつ……。



その場で立ち尽くしていると、「すいませんねぇ」という、懐かしい声が遠くから飛んできた。振り向くと、あの店員が少女とその母親と共に歩いてきたではないか。

彼らはそのまま私のいる通路へ進み、私のすぐ横で立ち止まった。そこにあるのは、アニメキャラクターの顔がついた指輪。店員は例のごとく、ジャラジャラした鍵を手にしていた。


「そっちだったか!」

思わず口から飛び出した叫び声に、少女は「どうしたの?」と首をかしげた。






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