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『ジャングルの夜』第六話

 何度か道に迷い遠回りして、ヒヤッとする場面もありながら、最初に予定していた到着時刻より二時間も遅れておきなわワールドまで辿り着いた。  チケット売り場で親切なスタッフのおばちゃんがエイサーやハブとマングースのショーなど上演時刻が決められているイベントの時間割を書いたパンフレットを指しながら、「こういう風に動くといい」と千多のタイムスケジュールを決めてくれた。

 素直にそれにしたがって、千多はまず鍾乳洞へ行き、入り口で団体客だろうとひとり者だろうと容赦なく同じ陽気なポーズを要求してくる記念撮影の押しつけサービスを受け、ひとりでハブのポーズをとらされた。もう少し若ければだいぶ恥ずかしい思いをしただろうが、四十年近く生き、恥ずかしいことに馴れた今となっては大したことではなかった。それよりも、想像していたよりも遙かにすごい洞窟を、連れに気を使う必要なく自分のペースで見てまわれることに、「やっぱりひとりで来てよかった」と思った。

 こんな天候の日に自分以外でここへ来る人間がいるのか? と思ったが、鍾乳洞を入ってすぐのところには、他にも人が沢山いた。それが、人が洞窟を見てまわるペースにはそれぞれ大きな違いがあるらしく、すぐに先にも後にも人の姿は見えなくなった。一キロに近い洞窟のなか、地球の下にひとりきりのような状況は、怖ろしくて幻想的だった。

 洞窟から出ると、ハブとマングースのショーまで時間がなく、南国フルーツ園や沖縄の古い街並みを模したような一角を足早に通り過ぎ、ハブミュージアムパークなる建物へ向った。

 少し施設内を迷い、着いたころには、「まもなく開演です」と呼び込む声が聞こえてきた。
 チケットをもぎってくれた女に急かされるように、建物の奥にあるショースペースへ行くと、思いのほか埋まっている客席のなかから出来るだけ見やすそうな場所を探して座った。千多が息つく間もなく、ステージにはヘビ使いの男が現れ、前説を始めた。

 すこしぽちゃっとして大柄な男が、冗談を交えながら、ハブについての知識を語る姿に千多は好感を持った。二十代とおぼしき彼の若さと、地方のテーマパークのキャスト特有の泥臭い一生懸命さがそういう気持ちを抱かせた。

 ハブを使ってのパフォーマンスと、マングースとウミヘビの水泳対決、コブラの頭を叩くという演目は二十分ほどで終了した。
 そこから十分程度しか間隔がなく、別の場所でエイサーのショーが行われるというので、千多はハブミュージアム内の展示物に後ろ髪を引かれつつ、人の波に着いて移動をした。

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