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雑記

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#ノスタルジー

『メジロマッチ』③

『メジロマッチ』③

前回までのお話 ① ②

「太郎、手を上げろ」ひそめた声が飛んできて、見ると町田と目が合った。私はハッと我に返ったようになり、急いで手を上げた。

 続いて町田は高井という、これも足が速かった男子に声を掛けた。それで高井も私と同じように手を上げた。

 町田は教室を見渡しながら、「誰か、誰か手を上げろ」とささやいた。彼は立候補者を五人以上にして間野を振るい落とすつもりだった。
 しかし、高井のあと

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『メジロマッチ』②

『メジロマッチ』②

前回のお話 ①



 小学校の卒業文集に自己紹介のページがあって、そこに自身の長所と短所を書き込む欄があった。私は長所に、「足が速い」とだけ書き、対照的に短所には、「九九が言えない」「朝起きられない」「急いで喋ろうとするとどもる」「字がきたない」などとビッシリと書き込んだ。

 唯一の長所である足の速さでも、同じクラスにどうしたって敵わない相手がひとりいた。それが町田だった。彼の速さは尋常では

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『メジロマッチ』①

『メジロマッチ』①

 生き方を知らなくて、ずいぶんと長くフリーターをやった。いろんな職場を転々として気づいたのが、どこにも必ず、ギャンブル狂といえる人物がいること。彼らは総じて人が良かった。やる気がないように見えて実はよく働くというタイプが多く、職場の博打好きは大体、ダメなヤツの雰囲気を出しながらも、人に好かれていた。

 私が二十代後半の時に働いていた映画館では、堀田という社員が、そんな役どころだった。
 私は映写

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