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『メジロマッチ』③

前回までのお話  

「太郎、手を上げろ」ひそめた声が飛んできて、見ると町田と目が合った。私はハッと我に返ったようになり、急いで手を上げた。

 続いて町田は高井という、これも足が速かった男子に声を掛けた。それで高井も私と同じように手を上げた。

 町田は教室を見渡しながら、「誰か、誰か手を上げろ」とささやいた。彼は立候補者を五人以上にして間野を振るい落とすつもりだった。
 しかし、高井のあとに続く者がおらず、面白そうに事の成り行きを眺めていた担任が、締め切りを宣言した。男子の立候補者は五人。定員ちょうどだった。


 翌日には、体育の時間を揃えて、他のクラスと合同で、運動会の予行練習がおこなわれた。組み体操だとか騎馬戦なんかをやり、そのあとに、リレーをすることになった。
 リレーといえば一番足の速い者がアンカーをつとめると思っていたが、担任は、「速い者を最初に持ってきたほうが有利だ」と言い、確かに他のクラスもそういう順番で組んでいた。
 それで、私たちのクラスは、第一走者が町田で、アンカーが間野ということになった。町田が大きなリードを作り、私たちがそれを守って、間野へバトンを渡す。そういう作戦だった。

 途中までは作戦通りというか、もはやそれ以上。町田はみんなの期待をこえる、大きなリードを作った。私、高井、根岸がリードを守り最終走者の間野へバトンを渡すと、彼は太い手足をちぎれんばかりにバタつかせて一生懸命に走った。その姿を見て、一組の嫌な奴が、「地震だー、地震がおきるぞー!」と冷やかした。他のクラスの連中の笑い声のなか、間野はみるみる内に差をつめられ、無残にもゴボウ抜きにされてしまった。

 その光景を見て、

「これじゃあ、あまりにも残酷だ・・・・・・」と町田がつぶやいた。

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