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Do BUY! 中東ゴージャス航空会社入社試験✈②~試験はアフタヌーンティーを味わいながら

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元ゲジーラ(island)宮殿の、マリオットホテルのバンケットルーム(banquet)で、中東ゴージャス航空の筆記試験が始まった。

まず、試験会場の扉を開けたスタッフは、みんな蝶ネクタイを結んだ、マリオットホテルのスタッフたちだった。

ちなみに日中だったので正確には、コンファレンスルーム兼舞踏会場(or 結婚式披露宴会場)の試験会場はこういう感じだった↓

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↑マリオットカイロのバンケット。この部屋で試験が行われました。椅子はこれと同じまま。ただ長テーブルが各列に置かれました


中東ゴージャス航空が、どれだけ本当にゴージャスで、ファンシーでグラマラスでリッチだなんて、当時は一般には知られていなかった。

だから、そもそも元宮殿ホテルのバンケット大広間が試験会場だ、ということ自体に面食らった。


イギリス人採用担当者は五人くらいいた。メインの中年女性が、まずは試験の流れを説明した。

「身体測定をし、そこを通った受験者だけが、英語試験を受けられます。その点数もクリアできたら、次は英語エッセイ試験です。それも通ったらインタビューです。

インタビューは2パターン受けてもらいます。精神科医によるインタビューです。次に我々、人事の採用担当者によるインタビューです。

一日がかりになります。本当は2,3回に分けた方がお互いに疲れなくていいのですが、でも同じ日に一気に試験をすべて終わらせないと、あなたたちは後日には現れないでしょ?」。

「...」

流石だ。"バックレ"が多く、エジプト人の集合の号令をかけるのは、いかに大変なのかよく分かっている。



そうして身体測定が始まった。むろん服装はそのままだった。

まず、女は体重測定でビシバシ落ちた。(規定体重よりオーバーしまくっていた)

男は身長測定がネックだった。

イギリス人の採用担当者たちも手慣れたもので、もういろいろ分かっているらしく、

ちびすけ君たちのふんわりボリュームを持たせた髪の毛は、容赦なく定規でぴしぴし(軽くだけど)叩いて、ペッシャンコに戻させ、そして"上げ底"靴も、鋭くびしばし見抜いていっていた。


身体測定だけで、受験者の3,4割は消えた。最初から受験資格の規定に、はっきりと体重身長のことが明記されてあったのにも関わらず、

全然その数学から掛け離れた体重身長数値なのに、履歴書には堂々と嘘を書いて、書類選考パスし、会場に現れた..

体重はともかく、背は盛髪と上げ底靴で"いける"と思ったのかな..


次の英語の試験は、TOEICのような試験だった。

アメリカ留学の際に"TOEFL 560点の壁"(今と採点方式は異なり、当時の560点というのは大変でした)を乗り越えるため、ああどれだけ勉強したか...

だからこの手の英語試験は、めちゃめちゃ受けてきたので、得意だったが、二つのことでちょっと集中しにくかった。


まず、試験開始するやいなや、露骨に両隣と後ろの列のエジプト人たちが、私の解答用紙を覗いている。

身体を宙に浮かせ半立ちで覗いたり、前列の受験者たちも、ちらちら振り返っては、私の用紙を見る。

しかも驚いたのが、見知らぬ斜め後ろ子なんてプスプス、口をすぼめ音を立てて、私を呼ぶ。

なんだ?と思いきや

「(あなたの解答が)よく見えないから、もっと身体をずらしてよ!」。(←図々しい)


こちが外国人なので英語が得意と思っているのだ。それで私の答案用紙をカンニングしたいのだ。


試験監督のイギリス人たちは何をしているのかというと、みんな雑誌や新聞を読んでいる。全然監督をしていない。

多分、分かっていて諦めているのだと思う。毎回毎回、露骨なカンニングが多く、もういちいち言わないんじゃないだろうか。

しょうがなく、私はガバッとうつぶせになるようにして、マークシートを塗り潰していった。


リスニングセクションが終わると、扉がまた一斉に開いた。

なんだ?と思いきや、この人たち↓が一斉に入室してきた。

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↑ネット拾い画ですが、まさにこれと同じでした。違いは、男の給士しかいなかったのと、ベストも黒で黒ネクタイだったこと。


そして、試験中にひとりひとりに、ソーサー付きのカップに、紅茶/コーヒーのサービスもしてくれた。

むろん、どちらを飲みたいか、美しいクィーンズイングリッシュで聞いてくれた、試験中なのだけど、こっちは問題を必死に読んでいるのだけど。

(今、ふと思いましたが、中東ゴージャス航空は、このマリオットホテルのウェイターたちをスカウトするのが一番だったのではないか、と...)


イギリス人執事風のマネージャーは、ウェイターたちにあれこれ指示をしていた。

「あそこのカップはもう空になったぞ」とか。

小声だったけど、煩かったし、私にすればカップが空かどうかより、カンニングをどうにかしろ、と...

これ↓そっくりの一口サイズケーキと一口サイズのをサンドウィッチも出てきた。

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そういえば、知り合いのバブル世代が

「就活で、企業にフレンチフルコースをご馳走された」

と言っていたので帰国後、

「中東ゴージャス航空でも、試験中にアフタヌーンティーが出てきたよ」。

「いや、あたしは試験の真っ最中にフレンチを食べたわけじゃないから」。

「...」



マークシートの試験の後、しばらく休み時間になった。

アフタヌーンティーは続いている。次々にミニサンドウィッチ、ミニケーキ、紅茶やコーヒーを飲みながら、みんなで雑談。

お互い、初対面と言っていたけど、笑って冗談を飛ばしあって、手の平でパシッと叩きあったり、ずいぶん打ち解けている。

そしてあくまでも英語オンリーで、ウェイターにも英語でしか話しかけていない。

でも、ツッコミはやっぱりウェイターたちの英語の方がはるかに上手い...



どのくらいしてからか、退出していたイギリス人たちが戻ってきた。

そして受験番号を読み上げていった。

「今、番号を呼ばれた者は、出ていってください」。

これで一気に三分の一ぐらいに減った。次は英語エッセイだった。内容は何でもいいと。


何でもいいというから、私は思う存分のびのび書いた。とは言え、読み手が、エジプトという国をよく知っているイギリス人たち、というのは意識して書いた。

この中東ゴージャス航空の筆記試験(テーマ自由)で出した、私のエッセイは以下のものだ。所有時間は30分ぐらいだったかな;


"アメリカに留学して、毎日ハンバーガーとホットドッグを食べていた。

ところが卒業間もない頃、ドーム(寮)のテレビ(日本製、もちろん)で『アラビアのロレンス』の映画をみた。

その雄大な砂漠と美しい光景に心を奪われた。そこで

「エジプトに行ってみよう!」とカイロ行きの航空券を買った。一年オープンの航空券だった。


ところが、カイロ空港に到着すると、入国審査で

『"おしん"はまだ生きているか?』

と聞かれた。"おしん"とは"大草原小さな家"のローラの日本版だ。

誰も気づいていないが、個人的にはおしんはローラの、パクリだと思っている。唯一の違いは、おしんは親に売り飛ばされ、ローラは売り飛ばされなかったことだけ。

空港を出ると、タクシーに乗った。走行中、扉が外れた。運転手に『ドンキーに乗り換えてくれないか』と言われた。

ドンキー?

それってエジプト版のジャガー車かなと思った。

ジャガーという名前の車がイギリスにあるなら、ドンキーという名前の車がエジプトにあるのはおかしくない。

だから、イエス、オッケーと答えた。

ところが、目の前に現れたのは本物のドンキーだった。びっくりした。


お腹は壊すわ、お金も何度も盗まれるわ、痴漢の方が警察官よりも多いわ、すぐにこんな国を出ようと思った。持っている航空券は一年オープン。

エジプト航空オフィスに何度も足を運んだ。

が、いつ行っても、オフィスが閉まっているか、カウンターに誰もいないか、予約システムのコンピューターが壊れているか、

はたまたストライキをしているかで、全く帰りの便の予約が取れない。

やだやだ、と思いつつもそうやってなかなか出国できない。そうこうするうちに、旅行会社にも勤め始めてしまった。

それを父親へのエアーメールで

"エジプトのtourismで働きだした"と書くと、すぐに国際電話がかかってきて

「エジプトのterrorismで働くとはなんだ!」。

...

うっかり英語でtourismと書いてしまった私の失敗だが、まさかterrorismと読み間違えするとは、と我が父親ながら呆れ果てた。

ところが、実際にエジプトのtourismに数年働いて分かった。tourismもterrorismもこの国では紙一重。案外、うちの父は鋭かったかもしれない。


最近は毎日、シシカバブとコシャリを食べながら、テレビ(←偽の日本製、もちろん)でアメリカドラマを見て、

そのニューヨークの高層ビルときらびやかな都会の街に心を奪われている。

最後に、アメリカとエジプトで多くの経験をした日本人の私なら、中東ゴージャス航空という、多国籍のスタッフ/パッセンジャーの職場で、フルに活躍できることをお約束します。

インシャアラー"。


提出した後、ちょっとドキドキした。

「ふざけすぎたかな」。

林氏だったら、激怒だろう。

真面目に書けばよかったかな。でもモンティパイソンのお国柄だから、これくらい大丈夫かな、どうかな。



「ヘイ、マイフレンド」

待機している間、今度は紅茶とコーヒーだけがサービスされた。

私の隣にいたエジ男君は、砂糖を"七杯"いれた紅茶を飲みながら、私に声をかけてきた。(←この国では香水と砂糖の量は常にtoo much)

「マイフレンド、お前は何を書いたんだ?」

「うーん、エジプトに来た時のエピソードよ。あなたは何を書いたの?」

「俺か。へへん、俺はな、"イスラム教はなぜ最高なのか"を書いたんだ。イスラム教の美点を片っ端から書いたぜ」。

...


絶対、こいつは落とされる、

と心の中でそう思った時、メインの扉が開いた。

イギリス人たちが書類の山を抱えて、優雅に入ってきた。


つづく


次;



マリオットホテルカイロの裏口、大型観光バス発着の場所。(絶対"写りこんじゃう"ホテルだった...)

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