見出し画像

20051023 いかの金玉

 「そうはいかの金玉」という地口$${^{*1}}$$というか駄洒落がある。「そうはいかない」と「いかの金玉」が掛けてある。共通なのは「いか」の二文字だから、掛けことばとしてはすれすれである。それにしても「いかの金玉」とは一体何なのか。

 いかの金玉が何を指しているのかが解らないのではない。いかの金玉はイカの内臓か器官$${^{*2}}$$だろう。web上を検索してみるとカラストンビ$${^{*3}}$$が入っているイカの口$${^{*4}}$$の周りが球状になっているので、それを金玉と表現したのだ、と書いているページが多い。この器官は「口球$${^{*5}}$$」と呼ばれるらしい。足の付け根に付いている丸い物だから「金玉$${^{*6}}$$」と言っても違和感はない。

 そのいかの金玉が何故「そうはいかない」で出てくるのか。他の地口を考えてみると「その手は桑名の焼き蛤$${^{*7}}$$」「恐れ入谷の鬼子母神$${^{*8}}$$」「どんどんよくなる法華の太鼓$${^{*9}}$$」とかかる言葉に因む代表的な物事が続いている。そうなるとこの駄洒落が成立した時にはイカと言えば金玉だったのか。江戸時代の川柳に「金玉も入れなと女房烏賊を買い」というのがあるらしい。出典がはっきりしないので本当にあるのかどうか判らない。本当だとすると江戸時代でも魚屋でイカは開かれて売られていたのか、わざわざ「金玉をくれ」と言うぐらいだから珍重され、現代と同じでうなぎの肝$${^{*10}}$$やたらこ$${^{*11}}$$のように一まとめにして売られていたのだろう。

 「いかの金玉→美味い」と「そんなに巧くはいかない」とを掛け合わせて地口ができあがったと考えられる。となると「そうはいかの金玉」ではなく「そうは巧くいかの金玉」が本来の形になるはずだ。

 しかし何かしっくり来ない。「そうはいかの金玉」は否定語なのである。いかの金玉が不味い物の代表であればこの考え方ですんなり納得できる。ところがイカの口は不味くはない$${^{*12}}$$。

 「そうはいかぬ」の「いかぬ」に終助詞の「の」が付いて「いかぬの」になり、語調を整えるため「ぬの」の部分を「の」だけに短縮して更に四文字の言葉を付け加えて七文字にする。イカに関わる四文字言葉なら何でもいいのだが「きんたま」が当時の感覚に一番合っていたのだろう。「いかのしょうべん」でもいいし「いかのふんどし」でもよかったのではないか。それにしても一体この地口はいつ頃どういう由来でできたのだろうか。

*1 20000324 ナセル
*2 イカのさばき方(胴の皮/げそ/ワタの各部位ごと)の紹介:白ごはん.com
*3 顎板の各部位名称と特徴
*4 イカの体
*5 第2回 まるで宇宙生物! イカを解剖してみよう
*6 20050820 重力を感じる
*7 桑名市物産振興協会/桑名の特産品
*8 入谷散歩道
*9 20010622 法華の太鼓
*10 厳選したうなぎの肝 きも煮 鰻の佃煮セット
*11 20040305 たらこ
*12 矢野っち・魚ちゃんのおまけコーナー 好き嫌いキング・魚ちゃんの不思議な好み!? 11月25日放送 #608 「イカ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?