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20090710 江戸時代の蛙の奇形

 「千虫譜$${^{*1}}$$」という江戸時代に書かれた博物誌$${^{*2}}$$を見ていたら面白い挿絵があった。著者は幕府の医官であり高名な本草学者であった栗本丹洲(くりもとたんしゅう)$${^{*3}}$$である。「虫譜」という名前であるが、虫ばかりが載っている訳ではない。ナマコ$${^{*4}}$$や河童$${^{*5}}$$、コウモリ$${^{*6}}$$なども載っている。昔の人は「蟲」と言う漢字を人間以外の生き物の意味$${^{*7}}$$にも使っていたらしいので、千虫譜はまさに「人間以外の動物博物誌」という意味なのだろう。

 面白い挿絵とは、五本足の蛙$${^{*8}}$$である。説明には「五足蛙 安永七年閏七月」とある。右の前足が二本生えているので、都合五本足になる。

 カエルの奇形は農薬$${^{*9}}$$や環境ホルモンなどの公害の影響$${^{*10}}$$としてよく採り上げられている。ところが五本足蛙が描かれた安永七年は1779年で230年前である。アメリカ合衆国十三州が独立宣言をした頃$${^{*11}}$$だ。こんな頃に農薬や環境ホルモンはなかった筈だ。

 そもそも蛙など両生類や爬虫類などは、奇形が発生しやすい種なのではないか。それにも関わらず「農薬」「環境ホルモン」などの影響だとことさら大袈裟に書くのはどうも煽動している様に思えてならない。「農薬や環境ホルモンがなかった昔の自然状態よりも発生している頻度が高い筈だから環境汚染の影響」と解することはできる。しかし「農薬や環境ホルモンがなかった時代でも奇形は発生していた」という情報も併記されなければ、間違った判断を下すことになる。環境ホルモンはそのものの存在自体が朦朧としているので別として、農薬などはそれなりの便益を得ているので、その便益と害との天秤で物事を判断しなければならない。

 環境ホルモン$${^{*12}}$$にしてもこの蛙の奇形にしても、昨今の環境問題$${^{*13}}$$では偏った情報が発信されている例が多いような気がしてならない。しかしそれが偏っているのか公平な情報なのか判定するのは非常に難しい。今回の江戸時代の蛙の奇形を見つけて初めて蛙の奇形は農薬や環境ホルモンだけの影響ではないのではないかと考えることができた。それまで自分は農薬の影響だとばかり思っていた。

 とにかく新聞などで得られる自分の知識外の情報はまず疑うことを習慣にすべきだろう。特に環境関連は注意をする。むしろ環境関連は常に偏った情報だと思っておいた方がいいかもしれない。

*1 千虫譜 | サムネイル一覧 | 描かれた動物・植物
*2 慶應義塾大学所蔵 博物誌コレクションより
*3 栗氏千蟲譜
*4 千虫譜(拡大画像 3-29) | 描かれた動物・植物
*5 千虫譜(拡大画像 3-42) | 描かれた動物・植物
*6 千虫譜(拡大画像 3-68) | 描かれた動物・植物
*7 20060131 バグ
*8 千虫譜(拡大画像 2-60) | 描かれた動物・植物
*9 奇形カエルって?
*10 環境ホルモンと生活環境(環境ホルモンの影響)
*11 アメリカ独立宣言
*12 剛の千夜千冊『メス化する自然』 デボラ・キャドバリー
*13 20041213 環境に優しい弾丸

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