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さよなら。そしておはよう

 私の記憶から消したい存在の女性がいる。友達期間が長かったし、女性として非常に魅力的でその人との初めての経験が多く忘れられそうにもない。でも忘れなければならない。

 4月になり私と彼女は違う道へ進んだ。距離も遠くなってしまった。彼女は毎日楽しそうにしていた。私は積年の夢が叶い、希望する企業の一員となったが、楽しさというのはあまり無かった。毎日朝の通勤電車に揉まれ、研修期間は覚えることも多い。余裕がなくなっていき少しずつ変わっていく私を見て辛かったと別れ際に言われてしまった。

 彼女はよく言えばフレンドリー、悪く言えば距離感が近くて危機感が少ない人だ。だからこそ浮気を心配していたし、自分の性格的に距離が離れた彼女の事を信じられなかった。また、価値観や考えが変わっていってしまって我慢ばかりしていた私にも非がある。ぶつかることを恐れて自分が我慢すればいいと思っていた。仕事でも我慢、恋愛関係でも我慢。我慢するのが男と言われても私は我慢の限界に達してしまった。(嫉妬深いし、様々な経験があって人のことを信用出来ない。我ながら自己嫌悪に陥る。)
 「社会人は秘密ばかりで忙しい。」別に好きで企業秘を保持しているわけでもないし好きで忙しくなったわけじゃない。約1ヶ月前までは学生でいきなり社会という厳しい環境に投げ出されて生きるために必死に働いている私に対して深く傷つく一言であった。それに、一番言われたくない人から言われた言葉だし、就職前に私が貴女に対して学生は暇でいいねと言ったら別れるし、逆に貴女も言わないようにねという話をした。そのことを忘れてしまったのだろうか、私は今でも思い出すと深い怒りと悲しみを覚えてしまう。

 あのあと私は彼女が褒めてくれたところを変えられる範囲で変えた。髪型も短くして香水も変えた。ほんのり香るぐらいが良いと言っていたのでハーフプッシュであったのを2プッシュと増やした。また、優しさなど微塵もない冷淡な社会人となった。同期の子に「筆者君、おこ??」と恐る恐る声が掛かるぐらいには厳格な雰囲気を纏う人になっただろう。別に大切にするものも無くなったから仕事をとれるだけ取って遂行している。先輩は「きちんと休まないと仕事どんどん振られていずれ帰れなくなるし、体調崩すよ?」や部長も心配そうにわざわざ私のデスクまで来て声を掛けてくれる。でも、こうでもしないとあの人の事を考えてしまう。ご飯作るのも面倒くさくなって外食や間に合わせのものを喫食し、食後はリキュールを飲みながら本を読むかサブスクを見る。寂しくなったらお気に入りの柴犬の公式アカウントに話しかける。(最近、おて、ふせ、お座りと送るとちゃんとスタンプで返ってくることに気がついた。)昔だったら女性に振られたらかなり落ち込んで荒んだ生活を送っていたが冷淡な社会人という仮面を着け続けることで寂しさが極限になくて日常に影響はほぼない。我ながら強くなった。

 価値観や考えでこんなに変わるものなのだろう。好きあった人がここまで変わるものなのだなと思った。でも、許せないという思う反面、あの人が心の底から楽しく過ごせていればそれでいい。いずれかはきちんとこの気持ちが昇華できるのを知っているから今は忙しくしていようではないか。でも、貴女といた期間は長すぎた。だからこそ簡単には忘れられないのも事実だから困ってしまう。

 夜明けの臨海副都心を歩いてコンビニで買った安物の決して美味しいとは言えないけどほんの少しだけ酔えるハイボールを開けて薄明の都心部を見ながらそう思った。家に居ると退屈だし色々と考えて病んでしまうから外に出た。貴女が死んでも何も思わない。別れる前の連日の喧嘩で私はそういった。でも、それはいつぞやか貴女が言った「私が死んでも何も思わないでね、泣かないでよ?」という言葉を私が憶えていたからだ。貴女は忘れたかもしれないけどどんなに忙しくても私はそのくらいのことは覚えている。ちゃんと泣かないで生活できてるから安心してほしい。

 お互い納得した上で訣れているし、やりたい事が完璧に私とは違う。何より環境や距離が変わってしまった。考えも合わなくなったから仕方がない。あなたが幸せそうに楽しそうにしている環境を私の苦労話や愚痴で水を差したくないし、社会人になって変わっていく私を見て辛かったと言っていたからこれ以上そのような思いをさせないで良かったと心の底から思っている。貴女は貴女のやりたい道を。その隣に私は居ないけれども貴女は進める人なのは知っている。がんばってね。

 Goodbye my love. Good morning TOKYO.

5/6 払暁の臨海副都心にて


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