さすらいごころ

本当に、こんな面相になるんだなあ


すすっても戻らなくなった鼻水を拭いに洗面所までティッシュを取りに行った、そこの鏡に映った、目の下の真っ黒なしずく模様に苦笑いする。


ウォータープルーフのマスカラだったら、こんな風にはならなかったのかしら。
手でゴシゴシこすっても消えないその痕跡を、クレンジングで一から洗い流す。


―――何に惹かれて、私はあの人がこんなにも好きなんだろう。


そう問いかけた時、空白になった。全てが静止した。
目の前のものの輪郭をクリアに感じるのと反対に、
数年前に感じていた、そこに、確かにあった確固としていたものは
真っ白な壁の向こう側に、ぼんやりと見えた。


寂しかった。

切なくて、悲しい空白だった。
だが、心の一部がホッとしたことに私は気付いていた。



何もかもが取り払われた少しつっぱった肌に、化粧水をのせる。
冷たい水分に満たされていくのを、感じる。



―――わたし、あの人の何にも、魅力を感じてない。いや、“なにも”ないというのには、まだ自信がないわ。
それが、切っても切れない繋がりのためなのか。
はたまたその繋がりに無意識に頼ってしまう、自分の弱さなのか。

だが、その空白の間、その瞬間は、あの人に対する感情が何も湧き上がってこなかったことは確かだった。

72時間も経てば、また戻ってしまうのだ。今の関係に。
72時間も経てば、ここにこう書いたことを、後悔するのだ。
そして96時間後には、またこれを、書き続ける自分がいるのだろう。

むかし、本当にとてもまえのこと。
あの頃は、すぐにいくつも挙げられた、「私があの人を大好きな理由」。
いくつも、いくつも。

楽しくてあたたかかった思い出を、鮮明に映し出しながら。


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