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みんながまざりあう街、逗子を目指して。みんなでアート。

(※今回のインタビューを動画にまとめています。よろしければ、動画も合わせてご覧ください。)

みんなでアートとは?

逗子の共生社会を体感するイベントとして逗子アートフェスティバルの
中で立ち上がった企画が『みんなでアート』だ。

「障がいがあっても、認知症でも、高齢でも子どもでも大人でも、自然に
 混ざり合い一緒に楽しむ」をテーマに今年(2021年)で3回目を迎える。

みんなでアートチームは、障害のあるなしに関わらず、自分に足りない
部分をみんなで補い、助け合いながら続いてきた。

そして、このチームを運営メンバーとして中心で支えている、サトウトモコさんとミヤザワクミさんのお二人から、みんなでアートについてお聞きした。

みんなで助け合うチーム「みんなでアートチーム」

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サトウトモコさんは、逗子に住み始めて17年。
普段はお花やアクセサリーの教室を開きながら、社会教育・生涯教育の市民委員を担っている。

みんなでアートには2020年から関わるようになり、主にお金やスケジュールの管理を行う事務局として、周りからとても信頼されている。

みんなでアートには、代表の中島さんから事務局としてサポートして欲しいと声をかけられ、参加することになる。(苦手克服と夢を叶えられる場所。共同代表中島文子さん|逗子アートフェスティバル|note

歳の近い妹が重度の知的障がい者であることから、障がいを持つ方と接する
機会は少なくなかったため、中島さんからの依頼を快く引き受けた。


障がい者の方と関わるというと「お世話」のイメージが強いかもしれないが、みんなでアートで障がい者の方と関わっている人たちは「お世話」ではなく、みんなのやりたいを形にする「サポーター」として、一緒になって混ざり合う時間を楽しんでいる。

この自然とみんなの顔から笑顔があふれる「みんなでアート」に参加することで、障がい者の方に対するイメージに変化が起こることをサトウさんは期待している。

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ミヤザワクミさんは、結婚を機に逗子に住み始めて22年。
普段は自身で立ち上げた会社で、オーダーメイドの服を作成したり、ネットを介してオーダーを受けたりしている。

みんなでアートでは、古着をリメイクして車椅子の方向けのドレスを作成している。

【女の子なら誰でもドレスを着るとワクワクふわふわする瞬間がある。
 車いすを隠すのでなく車いすでも可愛く見えるドレスを作りたい!】

障害のあるなしに関わらず、オシャレをしたいとか、可愛いドレスを着てみたいという思いを、みんなが当たり前に持っている。

障害があることや、自分の体型を気にして、自分が本当に着たい服が着られない人も多い。

みんなでアートでは、みんなが着たい服を着てもらって、
誰かに話したくなるような喜びを感じてもらえることを目指している。


【みんなでアートの仲間達】
アーティスト

・ナカシマフミコ(代表:古着リメーク)
・ミヤザワクミ(代表:車椅子ドレス)
・シリュウ(ワンハンドマジシャン)
・ヤベモトコ(イージードレス)

サポーター
・サトウトモコ(事務局)

この他にも、すこやかいきいき協議会(障がいのある方を集めて、色んなことに挑戦するサークル)の皆さん、そのメンバーをサポートする服部さん。

そしてイベント当日や、ワークショップのお手伝いとして参加してくれる方々。
興味を向けてくれるお客さん、本当にたくさんの方々の力に支えられているチームだ。

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サトウさんは元々、逗子美術協会の事務局長をされていて、その繋がりで
逗子市から要請を受け、2013年から逗子アートフェスティバルの実行委員
として逗子アートフェスティバルに関わるようになった。

初めは行政主導で開催されていたものが、2018年から市民主導で開催される
ことになり、その年を境に逗子アートフェスティバルの予算が0円となった。

その中で、2018年はクラウドファンデイング(オンライン上で企画に対して
経済的な支援・寄付を募れるシステム)を導入するなど、工夫をこらし、
なんとか開催までこぎつけた。

しかし、2019年もまた難所が続いた。

ZAF2018を主力で支えてくれたメンバーは、ZAFを存続させるために奔走し
続けた結果、疲れ果ててしまい、ZAFから距離を取るという選択をした人も
少なくなかったからだ。

そのため、2019年はZAF2018のメンバーが築いてくれたベースを活かしながら、初参加のメンバーを加えた新しいチームで準備をする必要があった。

そして、この年に初参加だったのが、みんなでアート代表の宮澤さんと中島さんだ。

宮澤さんは、矢部基子さんとの出会いで逗子アートフェスティバルに参加することになる。

矢部さんとドレス

矢部基子さんは、針を一切使わず一枚の布からその人の体に合ったドレスを作る「イージードレス」でシルバー世代にして特許を取得したバイタリティーの持ち主だ。

この矢部さんが講師を務める、ドレスの着付け教室に宮澤さんが参加したことが、矢部さんと出会うきっかけになった。

初めは逗子アートフェスティバルには、矢部さんのお手伝いという形で
参加するはずだった…。

お手伝いのはずが、良い意味で巻き込まれていったZAF2019

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みんなでアート誕生のきっかけは、代表の中島さんの「映画を上映したい」
という言葉からだった。

初めは、周りの人から「本当にできるのだろうか」と心配されていた。

なぜなら、上映をするための場所の手配や、上映に必要な機材の準備を自らで行う必要があったし、逗子アートフェスティバルとして出せる資金がほとんどなかったため、当日の集客次第では、それら全ての準備にかかる出費のほとんどを、負担せざるをえない状況であったからだ。

しかし、意外にも代表の中島さんはこの状況を楽しんでいた。

【映画上映だけじゃ、人来てくれなそうだし、地味になるな。
 それなら、片腕マジシャンのシリュウさんにマジックショーを
 やってもらおうかな。
 あと矢部さんと宮澤さんにも声をかけて、服の作成をしてもらおう。
 それで障害のある方や子供たちに参加してもらって、ファッションショー
 をしよう。
 そうだ、逗子で活躍するアーティストのNIM2に司会をお願いするのも
 良いな。】

しりゅうさん

どんどん色んな人に声をかけ、気づけば数十人にも及ぶ協力者を
抱える大所帯になっていた。

そして、「中島さんの映画上映企画」として始まったものが
「みんなでアート」と名前を変えて、大きな企画となった。

宮澤さんは、この声かけに応じてファッションショー担当として
参加することになった。

なぜこれだけ多くの人に協力していただけたのでしょうか

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それは、中島さんの人柄と、企画の内容が魅力的だったから
ではないだろうか。

【誰かが苦手なことは、誰かの得意なことだからね。】

この言葉と、ZAF2019で、中島さんが上映した「地蔵とリビドー」の内容が少し重なった。

誰かが、その人の才能に気づいて、伸ばしてあげたから、この映画に出てくる施設の子たちは、一つのことに没頭し、それを楽しめている。

こうやって人の欠点に目を向けるのではなく、その人の長所(リスペクト
できる所)を認めて伸ばしてあげよう。

この思いに共感した人たちが集まって「みんなでアート」になった。

チームで作る喜びを感じた「みんなでアート」

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宮澤さんが、みんなでアートで感じたことを教えてくれた。

【私は何でも一人でそれなりに上手くこなしてきました。
ですが、みんなでアートで色んな人と関わりながら、ひとつのものを作り
上げた時に感じたんです。
ひとりで考えられることやできることは自分以上には出来ない。
でも、みんなで同じ目標に向かい力を結集すると自分以上の想像もしなかったパフォーマンスが生まれるんです。
何よりその感覚が心地よかったし、楽しかった。だから今はみんなで作る
ことも良いなって思ってます。】

ひとりで全部うまくやろうとしなくて良いということを、教えてくれるのも
みんなでアートの魅力かも知れない。

障害のあるなしに関わらず、私たちは皆んな誰かに支えられて生きている。
だから頼ればいいし、助け合えばいい。

みんなでアートに感動して…

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みんなでアート2019(初年度)は、「障がいがあっても、認知症でも、
高齢でも子どもでも大人でも、自然に混ざり合い一緒に楽しむ」この目標
どおりの風景を、たくさんの人の協力によって実現させた。

この時、お客さんとして参加していたサトウさんは、このように感じたの
だと言う。

【障害をもった人は、元気がないとか暗いとか、そんなイメージを持っていた。だけど、みんなでアートに参加している人たちはエネルギッシュで、自分の個性をありのままに表現していて、そこで私の固定概念が覆された。】

そして、この感動を次の年にも繋げたいという思いで、2020年から
みんなでアートの運営に携わることを決めた。

2020年、集まれない中での決断

この年は、コロナウイルスの影響で今まで以上に制限の多い年になった。

他のイベントは軒並み中止になったが、逗子アートフェスティバルは違っていた。

【逗子アートフェスティバルは、アートを通じて街の社会課題を解決する。
をテーマに続いてきた。そしてアートは、人々に勇気や喜びを与える道具であり、生活の中に無くてもいいけど、あると心が豊かになる。】

だから、逗子アートフェスティバルは開催することを決断し、
みんなでアートも引き続き実施することに決まった。

しかし、今までのように直接会場に足を運んでもらって、皆さんの記憶に
残るイベントを開催することは難しいと考えた。

そこで考え方を変えて「記憶」に残すのではなく「記録」に残すことで、
より多くの人に、みんなでアートを届けようと考えたのだ。

2020年のテーマは「みんなでファッションショー」として、古着を
リメイクして、ここにしかないオリジナルのドレスを制作した。

そして、そのドレスを知的障害のある方や、車椅子の女性だけでなく、
知的障害のある子を持つお母さんにも参加いただいて、みんなの最高
な表情を「記録」として残した。

その記録は、コロナ真っ只中のZAF2020が、初参加となった映像担当の
嶺さんと、写真担当の風間さん、そして映像内で使用している楽曲
を提供してくださった伊藤さんの力で素晴らしい作品になった。


コロナ禍での「みんなでアート」を通じて、宮澤さんは次のように感じた。

【コロナ禍とはいえ、私たちは家族や近所の人と話をしたり、少し散歩してみたり、そうやって小さな息抜きが自分で出来る。だけど、障害がある人たちにとっては、私たちが当たり前にやっている息抜きさえも制限される状態になっていた。
だから、すごく色んなことを我慢していたと思う。
その我慢し続けて溜め込んだ表現(気持ち)を発散させてあげられて良かった。】

アートを通じて彼らの思いを、宮澤さんは感じ取ったのかも知れない。

これからの「みんなでアート」

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宮澤さんは、「みんなでアート」のテーマを忘れることなく、この企画を
育てていきたいと教えてくれた。

【街の中に、障害のある人も、ない人も境界なく“まざりあう時間”を表現していきたい。
そして、街の風景の一部として「みんなでアート」が溶け込んで行くようにしたい。】

障害のある人と、ない人という線引きが、どこか常について回る部分があった。

それは、お互いが遠い存在だと思い込んでいたからではないだろうか。

そんな思い込みで引かれた境界を、飛び越えるきっかけが「みんなでアート」であれば良いなと思う。

また、サトウさんは「みんなでアート」に参加してみて、このように感じたという。

【今までは、障がい者向けのイベントとか、特定の人しか参加できないイベントが多かった。だけど、みんなでアートは違っていた。障害の有無に関わらず、みんなが本当に笑顔で楽しんでいた。だから感動したし、一緒にこの企画を支えたいと思った。
そして、みんなでアートを前例に“まざりあう”スタイルの企画がもっと増えていって欲しいと思っている。】

みんなでアートは、あくまでもきっかけで、将来的には「みんなでアート」で見た風景が、当たり前の風景になることを、本気で望んでいるのだと伝わってきた。

福祉とファッションと、あなた

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2021年のみんなでアートも「福祉×ファッション」を手がかりに
開催する。

その中で、古着のリメイクの構成・デザインの段階から障がい者の方に参加していただいて、一から自分の着たい服を作ることに挑戦してもらっている。

このような挑戦をした意図を、宮澤さんが教えてくれた。

【自分の好きを、自分で形にして、それを着て歩く喜びを感じて欲しい。
そして、誰かに着せられた服ではなく、自分が着たいと思える服と出会って欲しい。】

障がい者の方たちの、素直に好きを表現する姿を、あなたに見て欲しいし、
作品を通して感じて欲しい。

外に広がって行くイメージで、続けていきたい

今までも、みんなでアートでは境界の無い“まざりあう”時間を
表現してきた。

しかし、まだ理想の形には辿り着けていないという。

【“まざりあう”風景を、当たり前の日常にするには、作品づくりの段階から
境界を越えた、人との繋がりをもっと築いていきたい。
アートを通じて、障害の有無に関わらず、色んな人が自然に参加してお互いに教え合ったり、作品へのこだわりを語り合ったりするような風景を、逗子での日常のワンシーンにしていきたい。】

こうやって、じわじわと外に広がって行くイメージで、浸透して行って欲しい。

そのためには、意気込まないことを目標に行動して行くことが、大切だと教えてくれた。

【何をするにも、体が資本だから一人で無理はしない。その代わり、お互い助け合い人に頼りながら、ゆるく私たちのペースで頑張る。常に自然体でいることが大事だと思ってる。】

突然大きな変化は、起こらない。だけど、逗子の人たちの優しさに支えられて、ここまでやってこれた。

街に広がる「みんなでアート2021」

みんなでアートでは、イベント当日の前から数回のワークショップを通して、作品づくりを行っている。

そして、2021年は念願だった地元の小学校と、コラボレーションをして、ワークショップを実施する予定だ。

こうやって、続けてきたことが認められ「みんなでアート」が街の中に微かな広がりを見せたのだ。

作品情報

みんなでアート
開催 :2021年11月12日(金)
​時間:13:00開演〜21:00(予定)
​開催地:逗子文化プラザホール
​料金:​要予約(一部有料:映画鑑賞 1,000円)
予約フォーム:https://minnadeart.peatix.com/view?fbclid=IwAR1iJ-GsivUdLTvrCn-_F8MN-Igeneptk6GVeIhW7MLEo5KDY565LNefr18

みんなでアート作品展示
開催 :2021年11月10日(水) - 11月14日(日)
時間:10:00 - 17:00 (初日13:00 〜)
​開催地:逗子市文化プラザ ギャラリー
​料金:無料
​予約:不要

インタビュアー/ライター:中島理仁
撮影/編集:嶺隼樹

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