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ライブしたら退職に追い込まれた話

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時は2020年、新型コロナウイルスが猛威を奮い、その脅威に世界中が震えていた頃、信念と現実の狭間で揺れ動く1人の青年がいた。
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ライブしたら退職に追い込まれた話-6-

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ライブの翌日はいつもより早く目が醒める。勢いよく流し込むアルコールのせいなのか、鼓膜を伝った振動が眠りを浅くするのか、それともただの脱水か、はたまたそのどれもが原因なのか。

この日もそれは例外ではなく、スッキリとした目覚めだった。台所で水を流し込む。そこから動けない。全然スッキリじゃないじゃないか。

ライブをした事に全く後悔はなかっ

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ライブしたら退職に追い込まれた話-4-

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ライブ当日の3月6日は軽い二日酔いを纏いながら目を覚ました。家中に散らばった水分を多めに摂り、足早に通勤電車に飛び乗った。
あいも変わらず満員の車内。先頭車両にはもう挨拶を交わすこともできるのではないかと思う程によく見た顔が並ぶ。
一度の乗り換えを済ませ職場の最寄駅に到着。朝食にパンとコーヒーを買いオフィスに入った。

いつも通りの朝。いつもと違うのはカバンの

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ライブしたら退職に追い込まれた話-5-

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部屋に入ると部長が1人座っていた。
先輩のバンドマンがいない。仕事でのポカはしていない。どうしたことかと思った。

口を開く部長のテンションは異様に低い。

「今決まってるライブのスケジュールと、実際にキャンセルしてるのかの事実確認だけしたいんやけど。」
「正直に言って欲しい。」
「会社として止めてるのに…」
「損害賠償にもなりかねない。」

いま

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ライブしたら退職に追い込まれた話 -3-

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抜け殻になるまでキーボードを叩き続けた帰り道、ライブ出演に向けて普段とは違った細かな事務作業を始めた。

手始めに職場の先輩バンドマンのツイッターをブロック。自分のアカウントに鍵をかけた。
-僕たちは発信者だ。発信ツールの一つを大衆の目に触れないようにしてしまうことにはかなりの違和感を覚えた。

5日後には僕のもう一つの職場であるライブバーに伊豆からのツアーミュージシャン

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ライブしたら退職に追い込まれた話-2-

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部屋に入ると男が2人座っていた。
僕を呼び出した部長と、職場にもう1人いるバンドマンだ。
2人ともが何か緊張を隠すようないびつな笑顔を作っていた。

「コウジさんは昨日社長から直電で…」

僕の直感は当たってしまった。(悪いことばかりこうして当たってしまうのはどうかと思う!)

「いまコロナウィルスの件で、、、まあもちろんわかってると思うけど、かなり気をつけなければいけない、えぇと、

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ライブしたら退職に追い込まれた話-1-

ある日の仕事中、僕は別室に呼び出された。
今年に入ってからというものの、働いていた部署の人員の入れ替わりが激しく、業務整理が追いつくか追いつくまいかといった状況だったのでその類の話だろうかと思った。もしくは、3月の頭から晴れて社員になった僕に何かしらの書類を渡しそびれていたのか、などの考えがよぎった。この日は3月3日だった。「(もしくはあの話だろうか…)」僕には思い当たる節があった。

-3月

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