ライブしたら退職に追い込まれた話-4-

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ライブ当日の3月6日は軽い二日酔いを纏いながら目を覚ました。家中に散らばった水分を多めに摂り、足早に通勤電車に飛び乗った。
あいも変わらず満員の車内。先頭車両にはもう挨拶を交わすこともできるのではないかと思う程によく見た顔が並ぶ。
一度の乗り換えを済ませ職場の最寄駅に到着。朝食にパンとコーヒーを買いオフィスに入った。

いつも通りの朝。いつもと違うのはカバンの中に日付の書かれていない退職届が入っていること、ライブの日だというのに家に機材を置いてきたことだった。
終業時刻は18時30分。今日のライブ会場へは電車一本で十数分の場所だったが、この状況で職場にギターを持ち込めるわけもなく、一度帰宅し機材を取りに行くことを選んだ。

朝礼では改めて盛り場に近寄らないように通告がなされた。強制はできないという前置きからは想像もできないくらいに強い語調だった。僕は台本を読むように話し続ける社長の真上に広がるオフィスビルに目をやりながら朝を感じていた。まぶたの裏側には強い光の跡が残っている。

ようやくキーボードに指を落としたのは午前10時ごろ、少し長い朝礼だった。週末の忙しさに追いつかんと僕はモニターに向かい続けた。

昼休みを終え、15時の休憩が終わった頃には今日の定時上がりの目処がたった。いつもと違う会場へのルートも念入りに調べ上げ、開演直前の会場入りになる事を店主に連絡した。(もちろん、休憩中に)

最後の業務に取り掛かろうとしたその時、部長からのメッセージがモニターにポップアップされた。

「ちょっと別室来れる?」

僕はわざとらしく、少し時間を遅らせて返信をした。
「生きます」こんなにも冷静に誤字を打つことを覚えたのはサラリーマン経験の賜物だ。
馬鹿らしく思いながらノートとペンと録音モードのiPhoneを持ち別室に向かった。

無機質な壁に掛かる時計の針はライブ開演の時刻まで残り2時間を示していた。

続く

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