愛しい者。王と妃の会話から
家に籠る日々。いろんな感情が起きますよね。ストレスから大切な人を傷つけてしまうといったことが増えていると聞きます。
非常事態だから無理もないとは思いつつ、愛することについて説かれた仏典の教えを見つけました。
ある日、古代インドのある王が、宮殿の見晴らしのよい所で外を眺めながら、王妃と話をしていた。
王は質問した。「王妃よ。世界であなた自身よりももっと愛しい者はあるだろうか?」
聡明で知られる王妃はこう答えた。「王様。わたしは、自分ほど愛しい者はありません」
王と王妃は意見が一致した。「私もそうだ。自分より愛しい者などない」
しかし、どこか違うとも思った。二人は、釈尊(ブッダ)のもとを訪ねた。王は今しがた二人で話していたことを釈尊に伝え、教えを求めた。
釈尊は詩をもって答えた。
「人の心は、いずこへも行くことができる
されど、どこに行っても、自己より愛しい者を見つけることはできない
同じく、他の人々にとっても、それぞれの自己がこの上なく愛しい
それゆえ、自己を愛しく思うなら、他者を害してはならない」
(サンユッタ・ニカーヤ(相応部経典)に収められたマリッカー経から。増谷文雄編訳『阿含経典2』ちくま学芸文庫等を参照しました)
自分が一番好き、大事だという偽らざる心境、現実。それに向き合う真摯な姿勢、認め合う二人。そして師に教えを乞う探求のなかで、閉ざされた愛ではなく、他者に開かれていく。美しいお話です。■
写真は東京葛飾区にある水元公園