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私とノーラン/「TENET ーテネットー 」の前に

もともとは「TENET ーテネットー 」の映画評とするつもりだったが、どうにも話がまとまらない気がするので、準備体操として、私が思う、クリストファー・ノーランという監督について、まとめておきたい。

なんだかんだ、「監督の名前」が先行する、それだけで贔屓にしたい人である。
私との相性が良いのかというと・・・ちょっと別の話なんだけど。

「ダークナイト」「インセプション」「ダンケルク」を代表例として、私見を。


「ダークナイト」(2008年):実はそんなに好きじゃない。

ノーランと言ったら、「ダークナイト」。

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「ダークナイト」が公開されたのは、2008年の8月。
私が大学3年生の頃。

その時の大絶賛ぶりは異色だった。メジャー作品で、あれほど、「凄い作品を観た」という評価でお祭り騒ぎになったのは、あまり記憶にない。

アメリカでの大ヒットに対して、日本では大して売れなかったことも、逆に祭りの盛り上がりに拍車をかけた。

初見の際の衝撃は、確かに凄かった。ヒース・レジャー(すでに遺作とは伝わっていた)のジョーカーがかつてないほど「悪」だったし、中盤のトゥーフェイス登場は、全く告知されていなかったため、驚きだった。
アメコミの映画化に対する、これ以上ない切り口。
152分という長尺を感じさせない、サスペンスとアクションの寄り切り。

がしかし・・・。

私は、実はそんなに楽しめていなかった。

当時、理由はよくわからなかった。自分の感性と世評があまりにも食い違うので、「これは、自分がおかしいに違いない」と、合計3回観に行った。
ブルーレイも買った。

それって、十分「ダークナイト」ファンじゃない? と我ながら思うし、何回観ても面白い作品で、退屈しないことは間違い無いのだが、なんか大好きにはなれなかったんですよね・・・。

ただ、それを今言い出すこと、めちゃくちゃダサい自覚はある。

近年では、「自称映画通(というか男?)がやたらと薦めてくる映画」として、アイコン的な立ち位置すら確立してきた、そんなタイミングで言い出すなんて。

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東村アキコ「東京タラレバ娘」第四巻より

秀逸な指摘・・・。

このシーンを読んで、偏見に腹が立ちつつ、おかしくて笑いつつ、その後もう一度「ダークナイト」に向き直って、ようやく考えがまとまってきたのですが。

このコマ、「ダークナイト」のみならず、ノーラン監督作品全般で、陥りやすい傾向な気がする。

ダークナイトに限った話としたら。

舞台が、というかロケーションが、もろ「シカゴ」なんですよね。
純粋日本人の私ですら判る、ただの「シカゴ」。
全く、「ゴッサムシティ」という架空の街の雰囲気がしない。
前作の、「バットマン・ビギンズ」ではもうちょい抑制的で、「ゴッサム鉄道」みたいな、作中だけの乗り物が出てきたりしたので、まだ許せるのですが。

「ダークナイト」では、ただのシカゴなのである。

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「さっさと捕まえればいいじゃないのよ」

と、女性が喝破しますが、それもそうで、ゴッサムシティ警察というよりも、ただのシカゴ市警なので、サボってるようにしか見えないといえば、その通りである。

アベンジャーズシリーズのように、ニューヨーク等の実際の街という設定ではなく、ゴッサムシティという架空の都市なのに、都市としての空間を描く気は、意図的にさらさら無い。

シカゴで、コスプレ蝙蝠男とピエロ奇人が対決する。
それが、斬新だった所以ではあるのですが、妙にノリきれなかったのは、こういうところに理由があった。

ノーラン監督作、同様の傾向が強め。

90%はがっちり作り込んでいるんだけど、スルーされた10%が発する、強烈な違和感。

でも、もはや作家性であり、これが良いとか悪いとかって話ではないのだけれど。

「インセプション」(2010年):大好き

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「ダークナイト」にはうだうだ言ってる私だが、「インセプション」は大好きだ。
「メメント」より好きかも。つまり、ノーラン監督作の中で一番好き。

バカっぽいアイディアに真面目に取り組み、きっちりと話を構築し、エンタメも忘れない

これが、ノーラン監督作の共通した傾向であると思うが、その良いところが存分に出ている。

本作のバカっぽいアイディアとは、「夢泥棒」

人の夢に入れたらなぁ、みたいなことを寝る前で考えた人は多いと思うが、それを映画のストーリーにできるのは、数少ない。

泥棒チームものとしての、仲間集めから始めて
夢泥棒のルール説明を、テンポをもたつかせず、映像でも魅せながら紹介して
いざ夢の中へとなれば、アクション&サスペンス全開

そもそも、あの「夢に入り込む装置」ってどういう原理?
なんで、夢の階層が深くなっていくと、時間の感覚が引き延ばされていくのか
とか、疑問はあれども、「そういうものだぁ!」と主張が激しいため、気にならない。

夢ってのも、相性が良かったのだろう。
起きたら、夢と現実が混濁していって、よくわかんなくなることは、誰しも経験があるし、気になるところは、「夢ってそんなもん」で片付く。

キャストも素晴らしい。
中でも、ケン・ワタナベが際立ってる。
渡辺謙だと、存在感がありすぎて、オーバー気味アクトが浮いてしまうんだけど、ハリウッド映画での絵面の良さといったら!
夢の中に入った瞬間、撃たれて足でまといになるが、それでも邪魔にならないケン・ワタナベ。
雰囲気はすごいけど、実はあんまり役に立ってない、ハリウッドでのケン・ワタナベを、私は偏愛している。
これだけで、傑作扱いするのにはやぶさかじゃない。


閑話休題「インターステラー」(2014年)

言及するつもりじゃなかったけど、「インターステラー」は・・・。

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10年・20年、もしくはノーランの全フィルモグラフィが出そろったときに全て見返す機会があるとしたら。
個人的に、ノーラン監督作と相性が悪くなっていく、分岐点になった作品な気がしている。

最新作、「TENET ーテネットー」でも触れることになる気がするが、ここから、ちょっと変質が始まっているのでは。

バカっぽい映画に真面目に、「俺流」に取り組む

これが、ノーランの作家性だと思うのだけれど、この作品から、「真面目」と「俺流」を、「最新の学説」みたいなのが補強し出した。

理論物理学者キップ・ソーン氏に助言を貰いながら、理論づけしていったとのことだが ー 。

全体的に小難しくなり、以前まで見られていたような、良い意味での「大見得」が減っていっている気が。
「俺はこう思った!」という力技が弱くなり、窮屈になった印象。
でも、エンタメ性は失わないのが彼の良いところなので、より突発的な見せ場とサスペンスと実写主義が顔を出し始めるのだった・・・。


「ダンケルク」(2017):はっきり嫌い

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「ダンケルク」は、はっきり嫌いだ。

今までなんだかんだ楽しんできた、「メメント」から「インターステラー」までの全作品を嫌いになってしまうような勢いで、本作はどうにも肌に合わなかった。

「私と相性が悪い部分の」ノーラン節が、悪い意味で全開になった作品だった。

・チクタクチクタクと、劇中鳴りっぱなしの音楽
サスペンスの演出として、安直すぎやしないか

・実写にこだわりすぎた余りの、絵的な説得力のなさ
海辺の砂浜に落ちる砲弾、船を襲撃するドイツ航空機、撤収のために決死の覚悟で集まってきた、漁船たち。それらの描写が意図的に排除されており、消化不良が否めない。の癖には、音量はバカでかく、鬱陶しい。
「ほとんど実写で撮影したんだよ」というプロモーションを事前に見ていなければ、感心するカットはほとんど無い。

・史実に対して不誠実
「海岸の一週間」「海の一日」「空の一時間」を同時並行的に描き、クライマックスを統一させる手法は面白いが・・・。
それって、まだ70年程度しか経過していない、戦争という事実を描く上で、必要な手法だろうか。
この違和感がどうしても拭えず、「俺って結構真面目な奴だったんだな」と再認識してしまったくらいである。
「戦争」ていうテーマであれば、かつ「往年の戦争大作」を志向する作りであればなおさら、正面から向き合う姿勢であって欲しかった。

と、こんなことを思うわけです。

前述してきたように、ノーラン監督作、非常に個性的な作品たちで、独自の作中「ルール」があるため、そこにノレないと、とっても居心地が悪いのでした。


まとめ:注目の監督であることは間違いない

あほっぽいまとめですが、ここまで全作一定以上のクオリティを出し続ける監督は、やはりノーランは当代随一の人物である。

「ノーランにしては」「ダークナイトの方が」「期待外れ」
いろいろ評価はバラつくが、ここまで広く注目を集める人もいない。

あとは、賽の目次第。

再三言ってしまってますが、

・バカっぽいアイディア
・アホっぽい映像表現
を思いついたら、
・誰よりも真面目に取り組み
・物語を構築し、
きっちりエンタメしていく。

そんな人なので、あとはそれが受け入れられるかどうかは、個人次第。

そう考えると、ノーラン作品の登場人物ってのは、
ノーランが考えた設定にひたすら苦悩し、立ち向かっていく
方々ばかりで、脚本も彼が書いてることを思えば、一人ボケツッコミ的な作品たちですね。

勝手ながら・・・。

ようやく「TENET ーテネットー 」に言及する準備が整ったので、それは次項。

やっぱりあれですね。どうしても、自分なんかがノーラン批評をしようとすると、めちゃくちゃ上から目線になって、好感度低めの文章になってますね。



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