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映画評「翔んで埼玉」/全員ボケの心地よさ

ぶっちゃけ舐めてた。

どうせ、面白くないと思ってた。

でも、めっちゃ面白かった。

「翔んで埼玉」
2019年、日本映画、106分

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なぜ本作を観ていなかったかというと、同じ監督・チームが製作した、「テルマエ・ロマエ」があまり好みでなかったからです。
「テルマエ・ロマエ」の最大の難点は、ローマ人阿部寛の一挙手一投足に対して、ツッコミとリアクションをする、上戸彩。正確には、上戸彩の「役回り」である、現代人女性。
笑いのおぜん立てをされると、阿部寛は存在それだけでユーモラスなのに、どうにも笑えなくなる。
くしゃみ寸前の居心地の悪さが全編続くようで、全然ノレませんでした。

ですが、この「翔んで埼玉」、ツッコミ不在です。
これにより、楽しい方向に「翔んで」くれています。

19XX年、東京では埼玉への迫害が続いていた。埼玉県人は通行手形なしでは都内に入ることもできず、過度に虐げられた生活を余儀なくされている。

この世界を舞台に、非常にばかばかしい展開が続きます、
フランス貴族然とした、東京出身者たち。
ほとんど犬小屋みたいなところで暮らす埼玉民。
オーバーアクトを越え、大仰な雰囲気を醸し出す、GACKT&二階堂ふみ。
などなど。

ばかばかしいのに、劇中の登場人物はいたって大真面目。
つまりは、全員ボケの狂気的進行です。
よって、へたくそな漫才形式や、狙いすぎシュールコント化に、陥らずに済む。
存分に雑音なく、心の中で「んなアホな」とツッコミを入れることができ、自然と笑えてきます。

一応、上記のメインストーリーは、ある伝説を題材としたラジオドラマというテイで、「物語内物語」の形式で語られ、現実パートとして、ドライブ中にそれを聴く、ある家族のサブストーリーが同時進行します。
そこでちょいちょいとツッコミははいるのですが、最小限に留まっており、そこまで邪魔にはなりません。
それに、終盤では、「物語」が「現実」に侵食する・・・という仕掛けもあるので、トータルでは必要な要素だと思えます。

もうひとつ、楽しい方向に「翔んで」くれていることがあります。
それは、「パロディ」作品を志向していることです。

昔はたくさん見た気がするんですけどね、有名な作品をベース・下敷きにした、コメディ映画。

「ホット・ショット」とか「最終絶叫計画」とか。
「ギャラクシー・クエスト」とか「トロピック・サンダー」とか。

「パロディ作品」を成立させるためには、観客の大多数と、「あるある」を共有しておく必要がある。
「ギャラクシー・クエスト」なら、「スタートレック」ほか、SFあるある。
「トロピック・サンダー」なら、アカデミー賞・戦争・アクション映画あるある。

もしかしたら、最近の日本映画では難しかったのかもしれません。
映像で「あるある」を表現するためには、何を抜き出すのかのセンスが必要ですし、過剰なスポットライトを当てる(=風刺化する)ために、どうしても費用がかかる。
どうせ費用がかかるなら、パロディ作品をやる前に、正攻法の作品を製作したいだろうし。

だからか、「パロディ」よりも、内輪の結束を高めるための「小ネタ」に走ることが多い。それはそれで好きなんですが、内輪に入り損ねてしまうと、外野から眺める小ネタ満載作品は、観るに堪えない。

でも本作は、真正面から「パロディ」に向き合っている。
地域性という、THE日本人「あるある」の力を借りて、お見事な「翔び」を魅せてくれます。

「グラディエーター」的決戦、「萩尾望都」的やおい感、あとは、スター・ウォーズ、指輪物語、時代劇、等々等々。
「ブレードランナー」っぽくなってる池袋の都市デザインとか、ニヤニヤしちゃいます。
決戦前夜、怯む味方に対して、演説で鼓舞する・・・というハリウッド映画「あるある」な展開があるのですが、カッコよさと笑いが両立しており、特にしびれました。

あー、面白かった。
なめてる場合じゃない。
つまんなかったら、途中で辞めよ
と思いながら、布団に入って観てましたが、展開を追ううちに、襟を正し、自室に移動して環境を整えながら、最後まで観賞しました。

私は福岡県の田舎出身、大学から東京に出てきたいわゆる「地方人」。
東京の腰ぎんちゃくのくせして、
「最寄駅どこ?あーそれなら、メトロ使ったほうが早いなw」
とかなんとか、指南役ヅラしてきた埼玉人どもには、ひとしきり苦い思いをしてきました。
しかし、本作観賞したあとから思えば、こういう風にパロディ化されるに足る、懐の広さがあったのかもな・・・と解釈できないでもない。バカにされたこと自体は、決して許しはしないけどな!

心に残り続ける名作、とは言いません。

しかし、もしかしたら、日本映画の「大作」を10~20年後に紐といた場合、テキスト化してる可能性もある、快作だと思います。
それくらい、楽しい映画でした。
未見の方、どうぞご覧になってください。

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