見出し画像

映画評「レジェンド&バタフライ」

観てきましたよ、「レジェンド&バタフライ」いや、「THE LEGEND & BUTTERFLY」。

木村拓哉が織田信長を演じる時代劇。その妻、帰蝶(濃姫)は綾瀬はるか。

総製作費20億。
168分という長尺の大型時代劇
「るろうに剣心」の大友啓史監督×「コンフィデンスマンJP」の古沢良太脚本


私の琴線に触れない惹句のオンパレード。
極め付けは、なんといってもタイトル。

レェージェンド・エンダ・ヴワァータフラァーイですよ。
正気じゃないセンスじゃなかろうか。

正直、別に観たくはない。
でも、観なくてはならない。
なぜなら私は映画ファンなのだから ー 。

注意/ネタバレします



「THE LEGEND & BUTTERFLY」
168分

あらすじ
織田信長の話!




映画が始まってみると、いやこれそんなに悪くないぞ?という感覚が、徐々に強まっていく。

木村拓哉演じる信長(以下キムナガ)のもとに、綾瀬はるか演じる帰蝶(以下バタフライ)が嫁いでくる。

この二人、全く馬が合わず、夫婦の営みはそっちのけで反目しあう日々が始まるのですが、この辺、戦国夫婦コメディって感じで楽しい。

キムナガとバタフライが一緒のシーンは、息ぴったりで華があります。

今回のキムナガの人物像、導入は良し。
ポスタービジュアルに反して、今回の信長、かっちょいい信長ではなく、この序盤の「うつけもの」時代は、

「顔が良いだけで能力はない、かっこつけナルシスト男」

ってことになってるのです。
木村拓哉、これを演じるのが自然体でうまい。
等身大というかなんというか。語弊ありますが。
自身のパブリックイメージを逆手にとって映画を面白くできるのは、トム・クルーズと木村拓哉にしかできない芸当なのです。

キムナガはただのナルシスト男なので、切れ者のバタフライがあの手この手でキムナガのご機嫌をとりながらアドバイス。
そうすると、あれよあれよとキムナガは成功を収めていく。

「直球」信長モノかと思いきや、「信長はアホで、手柄は全部妻の帰蝶」な、変化球な信長作品だったのね。
良いじゃん。

そして、振り返れば序盤最後のシークエンス。いきなり何じゃこりゃシーンがスタートするのです。
(ちょっと長いですが、振り返ります)

お互いに相変わらず悪態をついているが、数年かけながらようやく打ち解けてきた、キムナガとバタフライ。
平民に化けて、街を見物にしにいくことになる。

キムナガは金平糖を出店で購入、一口食べると、その甘さに感動。
(いや、殿様なら甘いモノくらい食べたことありそうなもんだが)
これはバタフライにも差し入れしてやろうと思っていたら、金平糖はスラれて無くなっていた。

「チョ待てよ!」

と万引き少女(7歳くらいか?)を追いかける、キムナガ。
そんなキムナガを追いかけるバタフライ。

スリ少女を見失いつつようやく姿を発見。そこは浮浪者のスラムだった。

少女は、先ほどキムナガから盗んだ金平糖を独り占めにせず、仲間たちに配って、みんなでその甘さに感動している。


「なるほど。これは金平糖は貧しい少女たちに譲って、
『俺がいつでも誰でも金平糖を食べられる世の中を創ってやる』
と、楽市楽座構想に繋がるシーンなんだな」
「なんなら、出店の金平糖を買い占めて、みんなに配ったりするんだな。そして、なんだ意外と良い男じゃない。とバタフライが頬を赤らめたりするんだろな」

とか思ってると!

キムナガ、力任せに金平糖を少女から奪い返す!
奪われまいと抵抗する浮浪者たち。悲しそうな少女。

キムナガ&バタフライ、浮浪者たちに面と向かって「臭え」と言い放ち、乱闘に発展。
2人は力を合わせて、領民であるほぼ丸腰のホームレス集団をバッサバッサと刀で斬りまくる。

なんという殿様&奥方様だろうか。
先ほどの少女の親兄弟もいたかもしれないのに。

そして逃げ込んだ廃屋で二人きりになると、返り血をふんだんに浴びた状態で、初めての夫婦の営みが始まるのでした。


あらロマンチック、、、なのかこれ?

以降、これに対して反省したり良心の呵責があったりはしない。

こんなあんまりなシーンが、本作始まって最初のチャンバラなのでした。

いきなりの珍展開にドン引きしている自分と、いやこれが戦国の論理ってやつで、こっから映画もどんどんと勢いを増してくるんだろうと期待に胸が膨らむ自分もいた。

良いぞ!どんどん面白くなれー!

がしかし。

これ以降、急に物語が前に進まなくなる。

時代が過ぎて二幕目が始まると、突如としてキムナガはアルコールの日々。
観客の知らぬ間に酒浸りになっていて、周りは敵だらけだわ、味方もいまいち信用できないわ、疑心暗鬼なダークサイドに墜ちていた。
序盤をけん引した、キムナガ様の愛すべきうつけっぷりは、みじんもない。
暗いうえにテンポも悪いし、ユーモアもない。

身の丈に合わない権力を持ってしまった、アホの悲喜劇。

みたいな意図なのかなとも思ったけど、演出のテンションは、一向に大真面目なので、そんなお話でもないらしい。

この辺から、全然レジェンド「&」バタフライじゃなくなって、物語上で2人がバディとして活躍しなくなっていく。全然一緒のシーンがなくて、ばらばらに動くのみ。
スケジュールが抑えられなかったのかしら。

その後もシーンとしては複数回に渡って、数年後くらいにジャンプはしたりはするのですが、時は進めど話は進まない。

最後の方にちょっとだけ二人の中が回復して、もう一回「レジェンド『&』バタフライ」したら、直後に「本能寺の変」が始まって、終。





劇中、いくつか面白くなる要素が顔を出すのです。

・ナルシストうつけ夫 VS キレもの年上妻!戦国夫婦コメディ

・(身の丈に合わない)権力を持ってしまった男の孤独

・時を経てようやく気付けた、真実のパートナーと愛


ジャンルを変更しながら映画は進むんですが、あれが立てばこれが立たず、それぞれが食い合わせ悪い。

ちょっと時代がジャンプしただけで、いきなり人物像が変わるので、「こいつこんな奴だっけ」と雑念が邪魔して集中できない。
登場人物を絞った物語としては、結構致命的である。

良い点もあります。

特に、美術面が素晴らしいと感じました。

本作きっての英断。
金はかかるわ、少しでも安っぽくなれば興醒めだけするわ、物語は止まっちゃうわの合戦シーンはほぼカット。
桶狭間も長篠も、戦いの場面はなし!

その代わりに、美術・衣装・ロケーションに予算を投入したのでしょう。
普段のシーンで戦国から目が覚めてしまうような、安っぽいカットは全然ありません。

ただ、これはマイナスポイントでもあって、ただでさえ「うつけ」なキムナガの、「戦場では無敵」なシーンもないので、魅力を感じ辛くなってしまってはいます。
最後の「本能寺の変」は、美術とアクションが融合していて、大変素晴らしい見せ場になってるんですが、いかんせんそこに至る前に、映画への興味が失せてしまっている。

良い点二つ目、それは明智光秀。

魅力あふれる織田信長の配下たち、秀吉も、柴田勝家も、丹羽長政も、全然出てこない。
その代わりに、明智光秀にはポイント絞った描写多数。

なぜ明智光秀は「本能寺の変」を起して信長を殺害したのか。

この歴史上のミステリーに対する、映画上の回答をしているのですが、

狂信的信長ファンとしての明智光秀

こういう解釈になっていて、とっても新鮮です。
こんな切り口の明智光秀って今までいたっけ?私は知りません。

この明智光秀が絶妙にきもち悪ーく、でもなんか共感しちゃう。

キムナガ様、好き!
でも最近、俺の好きだったキムナガ様じゃないんだよね・・・バッシングしちゃお。


そんな、アイドルオタク的明智光秀を説得力たっぷり、表情や立ち振る舞いで表現しています。

物語として停滞する中盤以降はほとんど、明智光秀が醸し出す危なげな雰囲気で、テンションを保っているようなものでした。

明智光秀を演じるは、宮沢氷魚さんという方らしくてね。
彼、新人さんですか?良い役者になるんじゃないかな。私はそう思うよ。

ただ、この明智光秀も、映画全体としては一長一短で、
「なぜ明智光秀は織田信長を殺したのか」の答えではあるけれど、
「なぜ織田信長は明智光秀に殺されたのか」の答えにはイマイチなってない気がするのが、織田信長主役の映画としては、惜しい気がします。

うまいこと言いたかっただけではあるけど、実際そんな感じで、それくらい、キムナガの人物像に一貫性がない上に深みもなく、致命的でしょう。

というわけで総評としては、

面白くなる要素が現れては、実を結ばずに、いつの間にか煙のように消えていく。
そう、それは戦国の世の武者たちのように。


そんな映画でした。

悪くはない。でも良くもない。
見て損はないけど、得もない気がする。

よかったらどうぞ。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

自分に何ができるかはわかりません。 しかし!夢への第一歩として、一層精進いたします。 どのような形でも、読者の方々のリアクションは励みになります!