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【詩】レクイエム

名も知らぬ者たちよ

誰を愛し
何を喜び
何に傷つき
どんな日に希望を見たのか

声を聴かせておくれと請うたとて
引き留めようと手を伸ばしたとて
名を知るすべもなく、いっさいは届くはずもなく

ある人は、歌うことが好きだったかもしれない

ある人は、鳥の名前をたくさん知っていたかもしれない

ある人は、どこにいてもムードメーカーだったかもしれない

ある人は、年少者の面倒をよく見たかもしれない

ある人は、コメディアンの真似が上手かったかもしれない

ある人は、パズルに熱中したかもしれない

ある人は、スポーツ中継に釘付けだったかもしれない

ある人は、風に触れることを心待ちにしたかもしれない

ある人は、デザートに歓声をあげたかもしれない

ある人は、家族写真を宝物に数えたかもしれない

ある人は、犬を飼う日を夢見たかもしれない

ある人は、雨音に心踊らせたかもしれない

ある人は、テーブル磨きの達人だったかもしれない

ある人は、夏のにおいに目を輝かせたかもしれない

ある人は、正義のヒーローに憧れたかもしれない

ある人は、きれいなシールを集めたかもしれない

ある人は、人が気づかぬ小さな花を愛でたかもしれない

ある人は、友の溜め息を慰めたかもしれない

ある人は、笑顔で世界を満たしたかもしれない

けれど
輪郭は閉ざされたまま

名も知られぬ者たちを
追いやったのは誰
閉じ込めたのは誰
断ち切ったのは誰

無視したのは誰
目を逸らしているのは誰
忘れようとしているのは誰

名も知られぬ者にしたのは、誰

名も知らぬ者たちよ
名も知られぬ者たちよ
どうか、せめて永遠とわの安寧を……

7月26日
 



※この詩を改題・修正した「名も知られぬ者たちよ」が、詩誌『月刊 ココア共和国』2023年8月号に傑作集Ⅰとして掲載されました。

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