【詩】瓦解
ひび割れた大地の裂け目から
緑の生命体が顔を覗かせている
その奥の奥では、赤いマグマが
爆発のときを今か今かと待っている
世界は一秒前と変わらず静かに回転し
何の合図も聞こえなかったが
とある一秒がカチッと過ぎたとき
緑の生命体が大地の裂け目を押し広げながら
目覚めた龍のごとく空へ空へと伸びていった
大地の奥底から赤いマグマが負けじと噴出し
溜めに溜めたエネルギーを走らせて
地表を覆い尽くしてゆく
人間どもが敷いたアスファルトなんぞは
ちらと気に留められることもなく
剥がされ砕かれ飲み込まれ
マグマの一部と化して地を這いずりまわった
緑の生命体の太い茎は
あの唯一の本当の光を掴もうと ぐんぐん突き上げては
やがて枝分かれし、網の目に星を囲ってゆく
縦横無尽の蔓は、ビルに橋に寺社に幾重にも絡みつき
人間どもがこしらえた灰色の無機物たちは
一瞬で締め上げられ、粉々に散り散りに、無へと帰した
網の目の茎からは
無花果の葉よりもはるかに大きな葉が茂り
地上数百メートルで有無を言わせず星を包み始める
葉脈を透かして照らす、あの本当の光は
じっと耐えて時を待った生命への慈悲だった
とある小さな島国の 名も知られぬ小さな町の
誰も気づかぬ大地のひび割れから始まったそれは
ビッグバンの速さで世界を浸食し尽くした
赤いマグマで地を覆われ
濃い緑の葉で包み込まれた星は
もう汚されることもなく、安泰であった
【制作裏話】
家の近所に、アスファルトにひびが入っている場所があります。
よく見ると、そのひびの奥から草が伸びようとしているんですよね。
草には申し訳ないけれど、地面が割れて通行に危ないので早く舗装し直してくれないかなあ……などと考えていたら、浮かんできた詩です。
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