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【取材編②】相手も自覚していない「本当の考え」を引き出す質問項目



限られた時間内に本質を引き出すためには


前回は、読者の想定を超えるコンテンツをつくるための「取材準備」についてお話ししました。今回は、どんな質問をすれば相手の深くにある言葉を引き出せるのか、具体的な例を挙げて説明します。

まず、「誰でも聞ける質問」があります。例えば「なぜ、その仕事を始めたのですか?」「やりがいはどんなことですか?」「仕事において大事にしていることは何ですか?」といった視点です。

もちろん、これらの質問がマストの場合もあります。例えば、あまり有名ではない方でネットなどに情報がないと場合は、基本的な部分から聞いていく必要があります。しかし、すでに多くのインタビューに答えている人の場合、ありきたりな質問をしても新しい言葉は出てきません。アイスブレイク的に聞くことはあっても、重要な質問ではありません。誰でも聞ける質問では、誰でも書ける記事にしかならないはずです。

とはいえ、新しいことを聞こうとして、まったく別のこと、例えばビジネス記事なのに趣味や家族について聞いても仕方ありません(必要な場合もありますが)。大枠として聞くべきことは決まっている中で、新しい話を聞くためにはどんな視点が必要なのか。さまざまにありますが、今回は10項目を挙げてお話しします。

相手の頭の中をスキャンするための10の視点


①Whyを繰り返す

「なぜ?」を繰り返すことで物事の本質を見極める、というのはよく聞く考え方だと思います。取材をするうえでも、これが基本的な考え方になります。「なぜ起業したのか」で終わらず、「なぜこの業界に興味を持ったのか」「なぜ趣味ではなく仕事にしようと思ったのか」「なぜ就職ではなく起業だったのか」と深掘りすることで、相手の答えの解像度が上がっていきます。よくいわれることですが「自分が納得するまで」聞くことが大切です。


②抽象度を上げる

多くの場合、取材相手は特定の分野でのプロフェッショナルです。例えばプロ野球選手に「ホームランを打つ方法」を深掘りすれば多くの人にとって面白い記事になると思いますが、編集者に編集のノウハウをずっと聞いていても、興味を持つ人は限られます。

そこで、より多くの人に向けた内容にするため、抽象度を上げます。例えば、有名なパン職人に「おいしいパンをつくるために大事なこと」ではなく、「自分がおいしいと思うものをより多くの人に届けるために大事なこと」を聞けば、パンを作る人だけではなく、パティシエや料理人など多くの人の参考になります。さらに抽象度を高め「自分がいいと思うものを世の中に届けるためには」と聞けば、あらゆるビジネスの参考になるはずです。


③具体度を上げる

上記の②とは逆に、具体度を上げることで新しいコンテンツを引き出せる場合もあります。パン職人を例にすれば「おいしいパンをつくる方法」ではなく、「おいしいクロワッサンをつくる方法」「○○産の小麦粉を使う理由」を聞いていく。そこから「原価を抑えることは大事だけど、ここだけは外してはいけない」という答えが返ってくれば、仕事で外してはいけない本質として、パン作りに限らない視点を表現することができます。


④共通点に着目する

相手が大事にしている価値観や仕事にかける想いなど、根っこにある考え方を聞きたいとき、表面的な事象の共通点からヒントを探ることができる場合があります。

例えば、経営者に「御社の事業A・B・C、表面的にはバラバラに思えますが、共通して大事にしている部分はありますか?」と聞く。スポーツ選手に「オリンピックで銅メダルを取ったときと世界選手権で金メダルを取ったとき、それぞれ気持ちは異なると思いますが、共通した喜びのようなものはあったでしょうか」と聞く。そこから、相手が大事にしている根幹が見えてきます。


⑤他者との差を聞く

単に相手の考え方や想いを聞くだけでは、何が特徴的なのかがわかりづらいこともあります。また、謙遜してはっきりと話してくれないこともあります。そこで、「御社が競合他社(同じ分野の人)と比べてどんな特徴がありますか?」と別の視点から聞いてみます。「他者との比較」によって、自分が大事にしていることを話しやすくなります。


⑥別ジャンルの視点をぶつける

インタビュイーは、その道のプロです。事前準備は必須ですが、どれだけ勉強しても相手より詳しくなることはできません。また、相手と同じ土俵で話しているだけでは、どうしても発想がその業界の中に限られてしまいます。

そこで、別分野の話を出します。例えば、革新的なビジネスを生み出した経営者に対して「デザイナーの○○さんにお話をお聞きしたとき、新しいものを生み出すためにはセンスより論理的思考が必要だと話されていました。○○社長のお話と通ずるところがあるように感じますが、いかかですか?」と聞くことで、相手のジャンルを超えた、より広い世界での本質が見えてきます。


⑦自慢をさせる

誰でも、自分の話を聞いてくれることは嬉しいものです。単なる自慢話になっていれば遮らなければいけない場合もありますが、面白い話を引き出せそうであれば、そちらの方向に話を進めます。

ただ、単純に「すごい!」「なるほど」と聞いているだけでは、相手も「話し過ぎかな」とセーブしてしまいます。「そのとき、なぜそちらを選ばれたのですか?」「同じことをできる人とできない人がいると思います。その差は何だと思われますか?」と話を繋いでいくことで、「これは記事に必要な話なんだ」と感じてもらうことができます。


⑧逆の意見をぶつける

どんな考え方にも、正しいか間違いかは別として、反対意見が存在しています。「○○と考える人もいますが、どう思いますか?」と聞くことで、取材相手にとっては、自分の考え方を話すだけではなく「別意見との比較」が前提になります。そのことで話に説得力が生まれますし、「(別の視点もあるが)自分はこう考えている」という想いを引き出すことができます。


➈「いちばん」は聞かない

「○○の経験の中で、いちばん印象的だったことを教えてください」という質問は考えやすいですが、逆効果です。この質問で本当に「いちばん」が聞きたいのなら問題ないのですが、多くの場合「そこから何を学んだのか」といったように、印象的な出来事を通した相手の想いを聞きたいはずです。それを「いちばん」と聞いてしまうと、発想が限られてしまいますし、どこかで話したことのある内容になりがちです。

「○○の中で、印象的だったことはありますか?」と聞いて、面白い答えが出てこなければ、「ほかにはありますか?」と聞きます。そこから「この2つに共通していることは何でしょうか」「2つ目より1つ目が先に出てきたのはなぜでしょう」と重ねることで、本当に聞きたい部分が見えてきます。


➉敢えてあいまいな質問をする

取材のうえでは、何を聞いているのかがわかるように、明確な質問がよいとされています。これはその通りで、自分の聞きたいことをしっかり言葉にして、ズレなく相手に聞けるようになるのが、インタビュアーとしての最初のステップです。

そのうえで、あえて抽象的な質問をすることで、相手に深い思考を促すことができます。「お客様に対して大事にされていることと、従業員に対して大事にされていることに、似た部分があるように感じます。いかがでしょうか」「御社が大事にされていることが世の中に広がったとき、私たちの生活はどう変わるでしょうか」。思考の枠を広げて、これまでに考えたことのないことを考えてもらう。そこから、価値あるコンテンツを引き出すことができます。


以上、事質問項目を考えるための視点について考えました。このように、事前に質問項目を考えることも大事ですが、それ以上に、実際の取材の場で出てきた話からどのように展開していくかが、コンテンツの質を決めます。取材時の展開については、別の記事でお話しします。


まとめ

・「誰にでもできる質問」では「誰にでも書ける記事」にしかならない

・質問項目の考え方は10の視点。①Whyを繰り返す、②抽象度を上げる、③具体度を上げる、④共通点に着目する、⑤他者との差を聞く、⑥別ジャンルの視点をぶつける、⑦自慢をさせる、⑧逆の意見をぶつける、➈「いちばん」は聞かない、➉敢えてあいまいな質問をする。

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