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本棚はその人の生きた歴史の堆積かもしれない


最近本が増えてきました。
2つある本棚からは溢れ返り、仕事用の机を埋め尽くし、ついにはベッドまで侵食し始めました。
定期的に間引きはしていたのですが、今回思い切って断捨離をすることにしました。
どの本を手元に残そうと考えながらぼんやり本棚を見ていると、その本棚が自分の人生の地層のように見えてきました。
あーこの時代は中二病をこじらせてニーチェばっかり読んでいたなぁとか、なんかこの時すごい恋愛小説読んでるなとか、社会人になって急にビジネス本が増えたなとか、それぞれの時期に読んでいた本たちが地層として降り積もって、これまでの自分の人生がストーリーとして繋がり、浮き上がってきます。
また、それぞれの地層の中で、価値観を大きく変えられた一冊だったり、好きな人におすすめされた一冊だったり、つらいときに救われた一冊だったり、下鴨納涼古本まつりで買った一冊だったり、その時代の自分にとって重要な化石が埋もれていたりします。
断捨離をするというのはこれまで積み重ねてきた地層を壊すことでもあるので、これまでの読書の変遷(といっても大したことはないですが)を少しまとめておきます。
また、これまでどんな本を読んできたかを辿ってみることで、自分がその時々でどういうことを考えていて、何に悩んでいたのかを掘り起こし、その集積である今の自分についての理解も深まるといいなと思います。

高校以前【読書暗黒期】

高校に入る前は夏休みの課題図書で少し読んだことがあるくらいで、殆ど全く本を読んだことのない人生でした。
ただ、中学の時から宇宙が大好きだったので、科学雑誌の「Newton」や「ホーキング博士宇宙を語る」など一般向けの宇宙の本は読んでいた記憶があります。
当時は宇宙の本をめくる時にいちいちワクワクし、「人間の体は超新星爆発の時にできた原子で構成されている」みたいな宇宙の知識に対していちいち驚いていました。
読んだ冊数は少ないですが、三重の田舎に育った自分に大きな世界を見せてくれる重要な体験だったなと思います。

高校初期【淡い青春と読書黎明期】

高校一年生の頃、好きな人がいたのですが、いつもひとりで本を読んでいて、ほとんど声を発しているのを聞いたことのない人でした。
何が楽しいんだろう、理解してみたい、あわよくば話すきっかけにならないかなと思い小説を読み始めました。
この頃周りでは「氷菓」とか「ビブリア古書堂の事件手帖」とかが流行っており、自分のこのあたりの本を読み、小説の面白さを少し感じ始めました。
ちなみに結局一年間でその人とは一度も話せず、ただ本を読んだだけで終わった恋でした。

高校中後期【読書による屈折矯正期】

高校2年生の頃、好きだった人とはクラス替えによって別々になり、一旦読書熱は落ち着きました。
ただ、完全に消えたわけではなく、伊坂幸太郎とか東野圭吾、湊かなえあたりの小説はずっと読んでいたと思います。
高校三年生の時に、中島義道の本を読んだことをきっかけにニーチェに傾倒します。
当時は休み時間に2ちゃんねるのまとめを見ては社会に対して毒を吐くことを生きがいにしているような、まさしくニーチェが言うようなルサンチマンに敗北した末人予備軍だったので、「これは自分かもしれない…」と自分を見た気になり、そこから超人を目指すことになります。その意志はすぐに挫折しましたが。
当時の自分を放っておくと、コンプレックスにまみれ、それをネガティブな方法でしか吐き出せない人間になっていた可能性もあったので、あのタイミングで自分を客観視できる考え方に触れられたのは良かったなと思っています。
結果コンプレックスはありつつも、それに対して向き合い受容し、時にはそれをエネルギーとして生きていけるようになったのかなと思います(少し大袈裟ですが)。
あとはアドラーの「嫌われる勇気」もこの時期に読みました。ニーチェが自分との向き合い方に影響を与えたのに対して、アドラーによって他者との関わり方の基本的なスタンスが形成されたと思っています。

大学初期【好みの発見時代】

入学当初、辻仁成の激情的な恋愛小説に一時期はまっていました。
その中で「冷静と情熱のあいだ」という江國香織と共同で書かれた小説をきっかけに江國香織の本を読み漁ります。
ありふれた日常の中の複雑な人間関係や非日常を、詩的で軽やかな文体で繊細に表現されているのがとても好きになりました。
そこから女性作家の文体が自分の好みだと気づき、小川洋子、川上弘美、角田光代、林真理子あたりをたくさん読みました。
特に川上弘美は今もとても好きで「センセイの鞄」「大きな鳥にさらわれないように」がお気に入りです。
今でも、本やnote等を読んでいると、優しさや温かさを纏いつつも、ほのかにユーモアや知性が散りばめられており、その人の思考や感情が繊細かつ心地いい温度感に統制されて表現されている、みたいな文章が好きなのですが、そういった「好み」はこの頃にぼんやりと形成された気がします。

大学中期【黒髪の乙女への憧れ期】

インドに一人旅に行くときに遠藤周作の「深い河」を持って行ったのですが、テーマの奥深さと人間に対する哲学的な洞察が静かで落ち着いた文体で書かれているのがとても魅力的でした。
森見登美彦にも大ハマりしてました。彼の描く主人公像への親近感と、軽快でユーモラスなストーリー、京都への憧れ等がクリティカルヒットし、ほぼすべての作品を読んだと思いますが、「夜は短し歩けよ乙女」「恋文の技術」あたりが特にお気に入りです。
当時一方的に好意を寄せていた黒髪の乙女から、森見登美彦が好きなら万城目学も面白いと思うと勧められ、冴えない理系大学生は勧められるがままに「鴨川ホルモー」を読み始めた記憶があります。
のちに京大の大学院に進むことにしたのですが、この2人の作家の影響はとても大きかったです。

大学後期【読書停滞期】

大学4回生あたりの時期は研究室配属が決まり、物理熱が高まっていた時期だったので、物理の専門書を読むことが殆どだったと思います。
継続的に小説や新書は読んでいたと思いますが、あまりこの頃熱心に読書をしていた記憶はないです。
その中でもいくつかはお気に入りはあって、「ご冗談でしょうファインマンさん」やシュレーディンガーの「生命とは何か」等は知的好奇心をくすぐられるいい本でした。
オードリーの若林さんが書いた「社会人大学人見知り学部」「ナナメの夕暮れ」もこのあたりの時期に読み、まんまとリトルトゥースに引きづりこまれました。

大学院前期【続・読書停滞期】

京都に引っ越したのですが、この頃もあまり本を読んだ記憶はありません。
森見登美彦の小説で出てくる下鴨納涼古本まつりで本を買ってみたく、いくつかの詩集や宇宙物理に関する古書を買いました。
その時に買った村野四郎の詩集は今もつらいときに定期的に読んでいます。

大学院休学・中退後【知的好奇心のカンブリア期】

これまでは研究者を目指していましたが、自分の人生において何が重要で何が幸せなのかを考えた時、研究者ではそれは実現できないと思い至り、休学することにしました。
1年間の休学の後、研究者ではなく企業に就職しようと決断し、大学院を中退しました。実家に帰り、さらに1年間ほどは自分のやりたいことだけをやり、のんびりと過ごしました。
この時期にはそれまで宇宙物理ばかりに向いていた知的好奇心が、哲学や経済学、政治、歴史、人類学、生物学、神話、心理学などいろいろな学問領域に矛先を変え、名著とされている本をとにかく読み漁りました。
頑張って(見栄を張って?)「プロ倫」とかにも挑戦しましたが殆ど内容は覚えていないです。
この一年はこれをしないといけないという制約が全くなく、自由に興味のある本を心ゆくまで読めたことで、物理学以外にも面白い学問領域はたくさんあると認識できましたし、自分のこれまでの視野がいかに狭かったかを理解することができました。

就職後1年目【ビジネス書全盛期】

無事社会人になりました。
社会人一年目はとても忙しく、精神的にも小説などを読む余裕はなく、実務に直結するようなビジネス本ばかり読んでいました。
この時に要点だけ読むという速読技術が飛躍的に発展したと思います。

就職2年目~現在【興味ベースの読書】

2年目の後半あたりから少し会社にも慣れてきて読書をする余裕が出てきました。
当時、会社の同僚たちを見ていると、すごく良く似た属性の人たちが多く、永遠に仲良くなれる気がしないなと思っていました。
彼らと自分の違いは何で、何が仲良くなれないと思う原因なんだろうと考えるようになり、社会の階層構造について研究したブルデューの「ディスタンクシオン」を読み始めました。
シンプルに東京出身vs地方出身みたいな二項対立で済ませることはできるのですが、もう少し粒度を上げて理解したいなと思いました。
結果的には出身がどこかによって外部環境が大きく異なるので、この二項対立は一定正しいと思ったのですが、外部環境の違いによってなぜ差異が生まれるのかのメカニズムを理解できたのは良かったです。
これ以上詳細には踏み込まないですが、自分の生きる戦略として集団に同化する(例えば東京っぽい人間に憧れてそれを目指すとか)のではなく、擬態しつつ集団にネガティブな影響を与えない程度に独自性を出していけたらなと思うようになりました。
ちなみに仲良くなれないと思っていた同僚たちの一部とは仲良くなれました。

この頃、コンカフェに通い始め、秋葉原に対してすごく愛着と居心地の良さを感じ始めたのもあり、秋葉原の歴史に関する本なども読んでいました。
あとはいつも会話してくれる人がどんな世界で生きていて、何を感じていたのかを理解したいと思うようになり、アイドルを学問的に研究した本なども読んでいました。途中で「直接聞いたほうが早いな」と気付きましたが。

最近は会社の後輩にすごく話しかけてくれる人がいて、よく「一緒にコンサルを脱構築しましょう!」と言われるので、ポスト構造主義系の本を読み始めています。
これまでの自分だとかっこつけて最初から原著を読もうとしてすぐ挫折していたと思いますが、最近は「現代思想入門」みたいな平易な本を選ぶようになったので成長したなと思います。

大学院中退後はいろんなジャンルの本を乱雑に読み漁っていましたが、社会人2年目以降のこの時期は、普段の生活での自分が感じた疑問や好奇心から読書をすることが多くなった気がします。

書いた以外にもいろいろと思い出深い本はあるのですがここまでにします。
次はどんな地層ができるのか、楽しみです。

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