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#家康

【小説】秀頼と家康の会見⑤

【小説】秀頼と家康の会見⑤

秀頼は、相対する相手をじっとみつめた。頭を垂れるその姿勢は一見すると主君を敬う家臣のそれであったが、その内側にある野心を隠さんとするもでもあった。

面をあげよ

秀頼は柔らかに声を放った。居丈高な調子も衒いもなかった。秀頼は家康を一人の武将として、丁重に対応したいと考えていた。それが戦国乱世であった。

江戸での暮らしはいかがだろうか。

.....はい、ただただ広い平野でござる。今は多くの陣

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【小説】秀頼と家康の会見②

【小説】秀頼と家康の会見②

その男は、実に苦労人だった。鳴くまで待とうなどというのは、戯言である。三河生まれの持ち前の気性の荒さで、すぐに頭に血がのぼる性格だが、一方で、多くの経験を通して、冷静さと一種の潔さを身につけていった。そして何より、執念が凄かった。徳川家康である。

幼少期はずうっと人質として今川氏や織田家で過ごした。転機は桶狭間の戦いであった。今川義元が討たれ、人質身分から解放される。21歳で信長と同盟関係を結ん

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【小説】秀頼と家康の会見①

【小説】秀頼と家康の会見①

衣擦れの音でさえ、その男は颯爽としていた。齢18歳、豊臣秀吉を父に持ち、生まれた時から数多の大名の上に君臨することを運命付けられた青年は心中穏やかではなかった。彼にとって普通でないことが普通であった。己の命令一つで人の人生を簡単に変えることができる、人の命を奪うこともできる。そのことの大きさは、常人であれば権力に心を奪われ、権力の走狗になってもおかしくはない。しかし、彼は違った。年齢は関係ない。彼

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