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イチョウとリボン

◇11:00

友達と待ち合わせている。
学生時代の友人で、先週末にも会ったばかりだ。

2週も連続で会うなんて、毎日のように顔を合わせていた学生の頃だって無かったかもしれない。
(人と出かけるとわりと疲れてしまうタイプなので、昔から予定を詰めすぎないよう
調整している。)

とある施設のロビー。
老若男女誰でも利用できる施設で、まだ午前中だからか利用者の姿は少ない。
眼鏡をかけた女性が柱にもたれかかるようにして誰かを待ち合わせていたり、高齢の男性同士が丸テーブルで身ぶり手ぶりを交えながら談笑したりしている。

この施設の側面から正面入口にかけて植えられたイチョウの木々が、紅葉の盛りを迎え、通りを歩く人々の目線を集めている。

建物の角は小さな広場になっていて、イチョウの木に囲まれて噴水とベンチがある。
若者たちはイチョウを見上げながら広場を抜け、子ども連れの家族は足を止めて、小さな鳥の形をした葉を拾い集めていた。

私も駐車場からここに来るまでの間、頭上から足下まで広がる見事な色彩に、スマホのカメラで何枚も写真を撮った。
壁一面ガラス張りになっているロビーからも、黄金色に染まったイチョウ並木をゆっくり堪能できる。

ロビーにはガラスの壁面に沿うように長テーブルが置かれ、カウンター席のように脚の高い椅子が並べられている。
きれいに並んだ椅子たちは、一緒に仲良くイチョウを眺めているようにも見えた。
私は右から2つ目の椅子を引いた。



◇11:30

施設の2階にあるレストランは、ロビーよりも天井が高く、テーブル席にもゆとりがあって開放的なスペースになっていた。
同じように一面ガラス張りになっており、レストランに入るとすぐ、視界いっぱいに鮮やかな黄色が飛び込んできた。

いつも見上げてばかりだったイチョウたちをこの高さで見られることが不思議で、イチョウたちと初めての顔合わせをしているような気分になった。
私と友達はイチョウをより間近で見られるテーブル席を選んだ。

ふたりで同じメニューを選び、ドリンクはそれぞれ違うものを選んだ。

私たちのほかに夫婦が一組と女性がひとり、離れた席で食事をしていた。
夫婦は向かい合って、女性は景色の方に体を向けて、どちらもガラス面に近い席で椅子に深く腰かけている。

友達の近況を聞き、考えさせられることが多くあった。
同い年の人と話すことで得られる刺激を存分に感じ、比べてしまいそうないつもの思考パターンを何とか拭った。
私のありのままを受け止めてくれる友達だから、私も遠慮せずにありのままを話してほしい。

会うのは数年ぶりなのに、お互いの間に流れる空気は何ら変わりがなかった。
あの頃と同じ話し方で、間合いで、ゆるさで、たくさん笑い合った。

この日用事を済ませたあとに入ったカフェで、

「久しぶりに会ったはずなのに、何だかうちら変わらないよねぇ」

と友達が言ったので、本当にその通りだと思った。

確実に年を積み、社会での立場は変わり、抱えているものや目指しているものも違う。
だけど、歩いてきた道や眺めた景色のたった一部が重なっているだけで、こんなにも強く心を繋いでくれる。

お互いに手をのばして結び合った心のリボンが、時にはゆるんで長くなってしまったり、ねじれて形が曲がってしまったりしても、必ずどちらかが結び直そうとする。
そしてどちらかも必ず応じて、一緒に色褪せた部分や擦れた部分を懐かしむのだ。




◇13:15

たっぷりとランチタイムを過ごし、予定していたイベントの時間まで余裕があるからと外に出る。
午前中のときよりも風が強く、揺さぶられたイチョウの葉が青空いっぱいに舞いあがり、ひらひらと吹雪のように降ってきた。

寒さを忘れ、この美しい瞬間をスマホの動画におさめた。
友達と何度も「きれいだね」と言い合った。
自撮りが上手な友達がスマホを向けてくれて、今日の記念の一枚を撮ってくれた。

帰ってから写真の整理をしていると、「楽しかったね」と友達から連絡が来て、写真もたくさん添えられていた。
私も自分が撮ったイチョウの写真とともに「楽しかったね」と友達に送った。

私たちふたりだけが見られるフォルダには新たに写真が加わって、開くと幸せの色があふれている。


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