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青いノート 1995年1月28日

今日もTに会えなかった。
私はTを好きだということははっきりと分かる。
ただどこまでのめり込むことが出来るかが問題だ。今は本気でTの事が好きでもまた少し近づくと拒絶してしまうのではないかと不安に駆られる。
今は精神的に少し追い詰められているので、Tのことは好きだが、色々と考えたりするのが嫌になったりもする。これ以上考え事を増やすのが嫌なのだ。とりあえずゆっくりと考えたい。彼のことは後回しにしてもきっと対して変わることはないだろう。とにかく今は現実から離れてどこかへ逃げてしまいたい。どこか遠い島にでも。
多分こういう時、人間は死についてふと考えるのだろう。
幸い今の私はそうではないので大丈夫だ。


奥手だった私は、21歳当時恋人が一度もできた事がなかった。友達同士では誰が好きだとかそういう話に、自然となる。ここに書いてあるTというのは、専門学校のクラスメイトの男の子。物静かで背の高い子でバンドでドラムをやっていた。今考えると、本当にこの子のことが好きだったかというと、きっとそうではなかったと思う。
私の一番仲良しの子が彼の事を褒めていて(もしかしたら好意を寄せていたかも)、それで私も少しいいかなぁと思うようになっていった。私の友達は、自分の意見をガンガンいう個性派で、彼女の好きなタイプは、少し物静かでおっとりとしたタイプだった。普通の人が第一印象で見るような、明るい、人当たりが良い、おしゃれ、容姿端麗、そういう表面的なところで友達を決めるような子ではなかった。
だから、彼女は私の友達になってくれたんだと思う。私は特段おしゃれでもなければ、特別美人でもないし、東京近郊のパッとしない土地出身で、どちらかというと世間知らずのボーッとしたタイプだった。友達は、ボーイッシュで高円寺で買った古着を着るような独特の雰囲気のあるおしゃれな子だった。学校の新入生説明会で初めて見かけた時は、その雰囲気に「うわぁ、東京の子だ」と圧倒されたのを覚えている。それでも、私に声をかけて来たのは、外見で判断せず人の中身を見るタイプだったのかもしれない。

一方私はというと、明らかに目立つタイプの男の子が好きだったと思う。
見た目がカッコよかったりクラスでリーダーシップをとるような目立つタイプの子を好きにる。でも結果そういう男の子達はあっという間に可愛い彼女が出来るし、そうなれば暗黙の了解でただの片思い。しかも、そんなことを一ミリも外に出さないように、その裏返しで自分の友達には、他の子が好き。なんて言ったりしていたように思う。しかも奥手で、臆病ときたら当然彼氏なんかできる訳がない。

だから、ここに出てくるT君のことは、多分好きではなかった。だって、本当はクラスですごく目立っていた年上でお調子者のリーダー的存在の子のことが好きだったんだもの。でも、当然、学校が始まってすぐに彼は同じクラスの女の子と付き合いだした。なので諦めなくてはいけなくて、他に無理やり誰かを探そうとしていたんだと思う。

その後分かる事だが実は、このT君は私のことが好きだった。
私は、自分の気持ちがわからないのに、なぜか彼に告白して、彼から僕も好きと言われて両思いになってしまい、結果私はビビって逃げてしまったんだ。T君はおとなしかったけど、芯はしっかりした子だったと思う。そして彼は自分の気持ちをきちんと知っている人だったんだと思う。だから、彼は「僕、諦めずに待ってる」と言ってくれた。
でも、私はそれを聞いてさらに怖くなって逃げてしまった。
その結果彼はその後、辛い学生生活を送ることとなる。(本当に申し訳なかった)

まぁ、自分自身で冷静に見ても、最低で臆病なビッチとしか言いようがない。
私は、今まで自分のことをモテない女と思い続けてきたけれど、今振り返ってみると私を好きになってくれた人もいたんだと気がついた。
ただ、自分が好きな人には、相手にされて来なかったというだけだったのかもしれない。自分のことだって分かっていなかったあの頃、本当の恋や愛なんて到底知る由もなかった。


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