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日本語で読むか、英語で読むか

前はもっと簡単だった。
基本的に日本語で読む。気に入ったものがあれば洋書に挑戦する。未訳なら洋書で読んでみる。そのくらい。

イギリスに住み始めてから、読書と言語の問題が複雑になった。日本語と英語という選択肢だけでも、ざっと6パターンある。

  • 日本語の本を日本語で読む(一番普通)

  • 英語の本を英語で読む(所謂洋書を読む)

  • 日本語の本を英語で読む(例えば村上春樹を英語版で読む)

  • 英語の本を日本語で読む(英米文学を日本語訳で読む)

  • 英語以外の外国語の本を英語で読む(例えばトルストイを英訳版で読む)

  • 英語以外の外国語の本を日本語で読む(例えばトルストイを日本語訳で読む)

いつ何を読むのか、混乱する。考えすぎずに読みたいものを読めばいい、答えはない。が結論だと思う。でも英語学習者かつ海外在住者かつ読書家(私はどちらかというと愛書家、本屋好きに近いが)にとってあまりにも深いことだと思う。

「洋書をたくさん読む方法」とか「洋書で英語を学ぶ方法」なんかは検索でヒットするけど、どんぴしゃにこの悩みに答えてくれるネット上の記事はほとんどなかった。(何でもネットに答えを求めようとするのも私たち世代の問題だと思うのだが。)
というわけで、言語問題に限らず私が最近「読書」について考えたことをつらつらと書いておきたい。


言語のバランス

そもそもイギリスで暮らしていると日本語だけでは生活ができない。とはいえ、ある程度日本語に偏らせることもできる。これは家庭、仕事の環境に大きく影響されるが、「趣味」に関しては選択肢がある。
日本のドラマを観るのか、イギリスのドラマを観るのか、そういう所で今では選ぶことができる。渡英直後はせっかくだから、できるだけ日本語をシャットアウトしようとしていた。でも、私の母語は日本語で英語のレベルは日本語の6割くらいは表現できるかな…。という感じ。これを数値で表すのはすごく難しいのだけれど。
そんな訳で無理にシャットアウトするのはやめて、日本語の本も再開した。

日本にいるときはあまり考えなかったことだけど、言語の選択肢があるということは日本語をおろそかにする可能性があるということ。逆も然り、日本語に偏ると英語のレベルアップは難しい。これに関しては気が向くときに気が向く方で、というのに尽きる。無理しようとすると疲れる。

併読、精読、多読

色々な読書法があるけど、1つわかったのは私は多読とはあまり相性が良くないということ。これはどういうジャンルの本が好きなのかにも関連すると思う。私は小説が好きなので、じっくり読みたい。
ただ、英語で読むときにあまりにも精読しすぎると読み進まない。英語で読むときはキーワードとなるような単語がわからない場合だけ辞書を引く。だいたい意味が取れる場合はスルーして読み進める。
じっくり読みつつ、量もたくさん読みたい。となると多読ではないんだろうな。

併読に関しては、結構する。違うジャンルや言語で二冊くらい同時に読み進めるのが一番しっくりくるかもしれない。たとえば日本語エッセイと英語の小説なんかだと気分によって読み進められる。
電車移動のときは日本の小説、家では洋書のハードカバーなんかが相性がいい。洋書はペーパーバックでも日本の小説みたいにコンパクトなものは少ない故。

図書館と書店と読む場所

私は「本を読む」という行為よりも、「本がある空間」や「本そのもの」に魅せられているのかもしれないと思うことがよくある。例えば、読書しないでこのように読書に関する考えをまとめていることも然り。

日本でもイギリスでも図書館も書店も大好きだ。旅先では言語的にわからない場合でも、現地の書店や図書館を訪れるのが好き。
日本ではあまりお気に入りの書店を考えたことはなかったが、記憶に残っているのは池袋のジュンク堂かな。梅田の蔦屋書店もいいですよね。欲しい本が決まっているときはAmazonでも注文できる時代だから、書店にはどちらかというとセレンディピティを求めている。だからテーマ別に書籍が置いてある書店は大好き。大半がそうだけど、出版社別にされると困ってしまう。

やはりイギリスでも大型書店(WaterstonesとかHatchards)が好き。番外編だけど、パリのSharekespeare and Companyはめちゃくちゃいい。フランスだけど英語書籍専門店。
ディスプレイがすごく刺さる。このまま私の本棚にしてしまいたいと思うようなセクションがいくつかある。海外文学好きの天国です。

図書館は居心地がよくて、借りたい本があるのが一番。
日本ではオンライン活用して貸し出しサービスにはお世話になったもの。イギリスではあまり借りたりはしない。読むのに時間がかかることが多いので、何だかんだ買ってしまった方がコスパがよく感じる。
イギリスには素敵な図書館が沢山あるけど、ロンドンではどこも人口密度が高すぎてあまり行く気になれない。大英図書館(British Library)の閲覧室は素敵だけど、持ち込み制限がある。

まぁ読書をゆっくりするには、夏は公園、冬はカフェかな。ロンドンの書店はカフェ併設のところも多いので読書しやすい。中心地は人が多いので、近所のカフェチェーンもゆっくりできて良い。入場無料のミュージアムが多いので、そういうところで読書するのも素敵だろうなーとは思うけど、労力がかかるので手軽気軽が一番。とはいえ冬はぬくぬくベッドの上が一番ですね。

紙の本と電子書籍

わかってる、絶対にKindleの方が合理的。圧倒的に軽いし嵩張らない。
それでも私は紙の本がどうしても好き。ビジネス書であれば一歩譲ってKindleでも許せる。小説は絶対に紙の本で読みたい。
とはいえ、海外在住だと日本語の本を気軽に紙の本で購入できない。大型書店であればとてつもない金額で日本語の小説が売っていたりもするが、何といってもラインナップが限られている。あとはKindleにない本も意外と多い。というわけで、コスパは悪くても日本から取り寄せるのも手である。一時帰国時に沢山買い込んでおこう。

紙の本が好きな理由は得に説明する必要もないだろう。
ページをめくる感じや本の物理的な重さが好き。あとは装丁も物理的に愛でるのが好き。同じ作品を版違いで揃えるのも好き。
洋書だとPenguin Classic Seriesでもいくつかあるし、私の一押しはPan MacMillan。薄いブルーとゴールドの装丁が美しい。紙は薄めで閉じたときの断面(小口というらしい)もゴールドで特別な一冊という感じが粋だ。見返しのウィリアムモリス風な植物も素晴らしい。是非手に取ってみてほしい。

大学の頃は書物論ゼミの幽霊学生だった。10数人で書物に関して論じるという貴重な時間をほぼ不意にしていたなんて、大馬鹿者である。

アノテーション

よく図書館で本を借りていたこともあってか、日本語で読む時はiPhoneに気に入った箇所や感想をメモしている。付箋を貼ってみたりもしたけれど、作業っぽくなるので頻度は低い。
一方で、洋書だと付箋を貼る頻度が高くなる。何故か抵抗がないことと、英語で気に入った文章を転記するのは面倒だからか。いや、ほぼ感覚的にやっている。大きめの付箋に考察を書いて貼ることもある。第二言語故に、思考プロセスが違うことも要因だろう。

基本的には好きな文章の引用、わからなかった英単語のメモ、その章での感想・考察なんかがメインだけど、大好きな島本理生さんの小説では「食べ物に関する表現」や「他作品への言及」なんかをメモしたりもする。彼女の食べ物の著し方がすごく好きで。千早茜さんもその部類に入りそう(まだ一冊しか読めてない)。

あまり得意ではないけれど、Kindleでは直接本文をマークしたり、メモをつけたりがデジタルでできるので確かに便利だ。
でも、お気に入りの文章をiPhoneの画面に打ち込んだり、洋書にメモ付きの付箋を貼ったりする方が好き。便利と好き、快適はイコールではない。(職業柄この考えは興味深い)

読書メーターへの登録

2014年頃からだろうか、読書メーターというアプリで読書管理をしている。SNSとしてはかなりレガシーな部類だけど、それがまた良かったりもする。つぶやきや感想は255文字まで。1バイトである。
255文字で表現しようと思うと濃縮された感想が出来上がる。他のユーザーの感想も濃縮されている印象。書く側も読む側もベストな文字数だ。

読んだ本、読んでる本、積読本、読みたい本の4カテゴリが使いやすいし、読書データもシンプルで見やすい。月や年別でのトラッキングができる。先月3冊だったから、今月は5冊読みたい!など。そして冊数だけでなく、ページ数もあるのが良い。

最近のモダンなアプリやサイトにはない良さを是非変えずに続けてほしいと思う。何だかんだユーザー歴10年程度とは!

読書を優先するということ

2020年と2021年は読書が捗り、80〜90冊読了している。2022年こそは100冊読了したいと意気込んでいたが、すごいスピードで減速してしまった。イギリスへの移住が決まり、せかせかしているうちに年を越していた。
決して自分の時間を取れなくなった訳ではないが、すぐに日本語本を借りたり買ったりできないということと(洋書ならアクセスが良い)、余暇を旅行に使う事が多くなったということが大きい。

英語力アップのために、極力日本語を遮断しようとしていた時期がある。Netflixも本もYouTubeも英語のコンテンツのものばかり。限界があった。言語だけではなく、やはり私は日本人なので日本のコンテンツにしか動かせない心の部分がある。とはいうものの、日本語本へのアクセスは悪い。

やはり、読みたいと思ったときに書店・図書館・古本通販のいずれかで大抵の紙の本は手に入る日本とは違う。自分を囲んでいる本が少なくなると、読む量も減ってしまう。こういう訳で日本にいた頃よりも読書のプライオリティが下がっている気がする。

読書以外のことの優先順位が高くなったことは、必ずしも悪いことではない。イギリス国内もヨーロッパも旅をするにはとても魅力的な場所。日本からヨーロッパというと少なくとも1週間はないと勿体無いが、イギリスからであれば週末だけでも外国に遊びに行ける。

読書自体の量は減っているけれど、旅行と読書を紐づけている。多くのイギリスの美しい書店を訪れた。ジェイン・オースティンが一時住んでいたBathに行った。パリのShakespeare and Companyという英語書店を訪れた。ヘミングウェイが住んでいたカルティエラタンのアパートの外観をみた。ウェストミンスター寺院やナショナルポートレートギャラリーでディケンズ、オスカー・ワイルド、ブロンテ姉妹など英国作家にまつわる記念碑や肖像画を見た。ヨーロッパ各地の図書館や書店を見学した。ヘルシンキ図書館とポルトの書店が特に印象的だった。

今まで読書してきたからこその旅の仕方であるし、各地で読書欲が高まる。そして洋書も頑張って読んでみる。日本語で読みたい時は取り寄せる。そんなサイクルで量は少なくても、濃く深く読書していきたい。


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