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【海外赴任】ソニーの新規ビジネスを、海外市場で立ち上げた話し。

今回は、ソニーの一眼レフカメラ、Alphaを台湾で導入した時の話しを書こうと思う。

台湾で、ソニーがデジタル一眼レフカメラを市場に導入したのは、2006年。
ソニーはコンパクトデジタルカメラ「Cyber-shot」では、既に、市場一位のポジションを獲っていた。

台北の駅の近くには、カメラ街と呼ばれるエリアがあり、そこには、100店舗を超える個人カメラ商店が軒先を所狭しと並べいた。
その内の、50店舗近いお店と、我々はコンパクトデジカメの商売を展開していた。

当時、一眼レフカメラというと、キャノン、ニコンの2社が市場を席捲していた。個人カメラ商店からすると、儲かるのは、一眼レフカメラに関連するアクセサリー(カバン、三脚、照明)、レンズ、そして最後に一眼レフカメラ本体という順序で、コンパクトデジカメは儲からなかった。

コンパクトデジカメは、量販店やon-lineでも販売されており、売れるのは、だいたい上位の5機種くらい。コンパクトデジカメは特にアクセサリーが不用なので、お客さんは単純に機種名を言って、値段を聞いて、一番安いところで本体だけを買う。

時間のある学生などは、値段を聞きながらカメラ街をぐるりと回り、一番安い値段のお店で買っていく。当然、お店の利益はとても薄いものとなった。

我々は、TV CFを含め、インターネット広告などでも、「Cyber-shot」の派手なブランディング広告を行い、その優位性のあるデザインとline upの豊富さをアピールして、コンパクトデジカメNo.1のビジネスをエンジョイしていた。

「すべての人に自分だけのCyber-shot」当時の広告。

そういった中、コニカミノルタ事業をソニーが継承し、一眼レフビジネスに参入するということになったのである。

発表とともに、早速なじみの個人カメラ店を訪問して回ると、店主は口々に、一眼レフの商売は、デジカメと違って複雑だし、古くからのお客がリピートで購入することが多い、そもそも、カメラ本体だけでなく、レンズも重要だから、いくらコンパクトデジカメでNo.1のソニーといっても、簡単にはビジネスにならないと言われた。

ソニーの一眼レフAlphaが出たら、お店に商品を置いてくれる?と聞いたら、ほとんどのお店は興味を示さない有様。
置いてもいいと答えてくれるお店でも、置けるのは、キャノンやニコンのline upがズラーッと並んだメインコーナーではなく、お店の隅を指さして、その端っこでいいなら置いやると、といった有様であった。

お店の隅っこに新参物のAlphaを置かれても、お店からも、お客からも注目されず、すぐに埃を被って、全く売れないというのが容易に想像ができた。更には、新しいカテゴリーの市場導入は一度きりなので、こころしてかからないと、長期的なダメージを受けることが心配された。

それから導入まで、商品の勉強、ターゲットとなる顧客、販売チャンネルについて、内部で喧々諤々議論をした。
そうして、Alphaビジネスのミッションを設定した。

「ソニーは、単純に商品を販売するだけではなく、Alphaコミュニティを作り、一眼レフによる高品質写真の楽しみを、お客に広げていく」

それを実現するために、以下の3つの重点戦略を定めた。

1. Alphaは、将来に渡り、厳選された優秀なお店だけで販売する。
2. お店では、単に商品の販売だけでなく、カメラ教室を併設して、お客がより美しい写真を撮れるようにサポートする。
3. Alpha clubのプラットフォームを作り、Alpha撮影会を頻繁に行う

そして、Alphaの販売店になるのに、以下の2つの条件を要求した。

1. 店頭の半分か、それ以上をソニーAlphaのイメージにする。2
2. お店の会議室をAlphaの教室活動に使用する(ソニーが教室の内装をする。必要であれあば、講師もソニー社員が担当する)

実力のあるカメラ店は、店頭の半分がキャノン、残り半分がニコンの展示と相場は決まっていた。まだ海のものとも、山のものともつかぬ、ソニーの一眼レフに店頭の半分もスペースを割くことはできない。余分な会議室もないと、最初は冷たくあしらわれた。

そこを営業が頑張った。
お店からしても、キャノンやニコンのカメラは、よく売れたが、右隣りの店も、左隣りのお店も同じカメラを販売しており、値段は買い叩かれ、あまり利益は出なった。お店からすると、ソニーの選ばれた少数のお店でのみ販売するというのは、とても魅力的であった。

また、我々のミッション「単純に商品を販売するだけではなく、Alphaコミュニティを作り、一眼レフによる高品質写真の楽しみを、お客に広げていく」
に夢を感じてもくれた。商売は大事だけど、お客が綺麗な写真を撮って喜ぶ姿は、カメラ店にはとても大切だった。

そして、何よりも、ソニーAlphaの将来を信じてくれたお店があった。最終的には、台湾全国で13店舗の個人カメラ店がAlpha shopに手を挙げてくれた。

Alphaの市場導入に際して、我々は一生懸命だった。そして、個人カメラ店のオーナー達は、我々以上に真剣だった。当たり前だ、このビジネスが上手くいかないと、お店の売り上げが半分近く落ちてしまうかもしれない。死活問題であった。

2006年7月にソニーの最初のDSLR Alpha100が発売された。
そして、僅か2年後には、Alphaのシェアは既に30%を越え、Canon, Nikonと肩を並べるようになる。今日においては、圧倒的なNo.1のポジションを獲るに至っている。

Alpha store

Alpha導入から台湾を離れるまでの約5年間、私は、Alphaカメラ店と仕事をした。Alphaビジネスは、私のキャリアの中でも、とても意義深いものであった。

ソニーチームのセールス、product manager、Alpha講師が一体感を持って働いただけでなく、Alphaカメラ店との共同戦がとても、素晴らしかった。

カメラ店は、Alphaミッションへの共感があり、人生(商売)を賭けて、Alphaビジネスに取り組んでくれた。そこには、単なるお金儲だけではない世界、一緒にお客さんにカメラをとおして夢を届ける、ということを経験させて貰った。

Alphaの導入から、約10年後、台北駅近くのカメラ街を訪問した。
以前は100店舗以上あったカメラ店の半分以上が廃業されて、ホテルや花屋、コーヒーショップに代わっていた。
スマホの普及により、コンパクトデジタルカメラの市場が激減したためである。

初代のAlpha shopに手を挙げてくれたお店は、いずれも元気一杯に商売をしていた。コンパクトデジタルカメラ市場は激減したが、一眼レフ市場は好調に推移していた。そして、ソニーのAlphaは市場を席捲しており、カメラ店オーナーは口を揃えて、ソニーを信じてよかった、ありがとうと言ってくれた。
お店のAlpha教室を覗くと、そこには、お客さんが撮った写真が綺麗に展示されていた。

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Alphaのミッションに共感するカメラ店と、単なるお金儲けを越えて、お客さんにFocusして、働いた経験は、以前、書いた「パーパス経営」の記事に繋がる。
共感を持って働くことの充足感や、やりがいというのが、とてつもなく大きいことを学んだ。

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