【空のかなた宛】桜より早かったあなたへ送る手紙
前略
数日後にあなたが空の上で開封できるように、
この手紙を、4月2日の桜の写真とともに送ります。
最も味わいたくなかった「初めて」を
あなたのおかげで経験することになりました。
報せを聞いて、今日が終わる前にと思い、
家の近所の桜の木を撮りに行きました。
神戸に住み始めて3年目。
3回目の春です。
桜が見たくなったとき、
どこに行けば見れるかわかるようになりました。
近くの美味しい飲み屋さんも
ステキな洋食屋さんも、
ラーメン屋さんも、
パン屋さんも、
ちゃんと見つけました。
食べ物ばっかりですね。笑
直近で交わした会話の中で
印象的だったのは、
僕の家族についての考え方に対して
「それは薄情じゃないか?」
と議論になったことですかね。
あのとき、
怯まずにちゃんと言い返していてよかったです。
物分かりの悪い頑固な孫でごめんなさい。
誰に似たんでしょうね。
あなたですよ。まったく。
板挟みになっていた父が
かわいそうだったので、
ちゃんと謝っておいてください。
僕はおもしろかったです。
昨年の秋、敬老の日。
「演劇の道を歩いてみる!」
と僕が宣言したとき、
ああだこうだ止められると思って
けっこう身構えて覚悟していたのに、
真っ先に、手放しに、笑顔で
応援してくれたことを忘れません。
大学3年か4年の頃、
一人であなたの家に行った時ぐらいから、
なんとなく毎回最後かもしれないと
思うようになっていました。
思うことにしていたわけではなく、
なんとなくそう感じていただけです。
「今度会ったときに喋ろう」という話題を
全部消化して帰るように努めていました。
だから後悔はありません。
強いていうなら、
あと何回か、一緒に日本酒飲みたかったな。
親族で一緒に楽しく飲めるの、
あなたとあっちの祖母だけなんですよ。
父は嫌がっていたけど、
あなたが酔っ払っていろいろ喋り散らかすの、
僕は好きでした。楽しかったです。
こないだのお正月、
最後に一緒に飲んだは賀茂鶴でしたね。
近々、一升瓶買って飲んじゃいます。
いいでしょ? ねえ。
あ、悪いけど熱燗にはしませんよ。
最近、常温でも楽しめるようになってきたので。
ああ、そんな話もしたかったな。
「なんや、飲まん言うて
それはよう飲む奴の飲み方や。
ほんまはけっこう飲むんやろ」
とか言われそうだな。笑
声なき声、みたいなものを
僕はよく考えます。
まあ、都合のいいように解釈しちゃう
っていう、それだけなんですけど。
まあでも、いいよね、解釈させて。
これまで何度か議論を重ねてきたけど、
僕がその場であなたに言い返したのは
直近のあの話が初めてでした。
そして、4月から新しい道に踏み出した、
そんなタイミングでした。
父は今年、管理職の試験に合格したそうです。
4月から管理職なんだそうです。
もうけっこう長い間
意識のないままだったあなたは
近々別の場所へ運ばれる予定でした。
それまでのやりとりでも、
意識のあったいくつかのやりとりでも、
きっと先が見えていたんではないでしょうか。
今、帰れば、全てが丸く収まる。
そう思ったんじゃないかな。
残された人たちが
少しずつ後悔するような終わりを迎えてしまって、
それが一番しんどかったんじゃないかな。
悔いはないとは言ったけど、
一つだけ悔いるとすれば、
あなたのこれからのことを、
僕も一緒に話し合いたかった…かな。
もう少しそのテレパシーみたいなのを
汲み取ってあげられたんじゃないかな。
ちょっとばかり、
後悔っていうか悔しいって感じかな。
僕が自分の道を胸張って歩き出して、
父が管理職までちゃんと昇り詰めて、
従姉妹の就職がはっきりと決まって、
全部見届けて最後に自分の意固地を、
頑固に貫き通したんじゃないかなあ。
僕は勝手にそう思っています。
最後の最後まで家族を困らせて、
あなたらしくて僕は好きです。
あ、あとオール1の1万円札、
なぜか僕にくれた凄い1万円札。
あれ形見にするね。
経理を全うしたあなたのくれた特別、
きっと僕のことを守ってくれるよね。
お願いね。笑
もらったものと、
一緒に食べたものばっかり思い出すけど、
何よりその生き様、
父を困らせまくっていたけど、
その強気な生き様が、
僕は好きでした。
有り難うございました。
なんとなく、
残された父と祖母が心配なので、
僕は明日からそっちに意識を向けるね。
あ、たぶんお察しの通り妹さんは大丈夫。
感情出すのが上手だから。
じゃあ、そういうことで。
しばらく一人でそっちで楽しんでてね。
あ、そうだ。
これから家族で集まるときは、
僕があなたの分もお喋りになるね。
毎日、新聞を隅から隅まで読んでたあなたに負けないように、しゃべり倒せるように知識をつけないとね。
任せとけ。
大物になっちゃうから。
特等席で見ててね。
さよなら。
草々
あなたにとって、私にとって、今日という一日が、
かけがえのない明るく輝く一日でありますように。
2022.4.2 共鳴|わたしは穴を見つけた。
* おしらせ *
■自己紹介のようなもの
「夢を追い続ける、小沢佑太のガイドブック」
■活動紹介
わたくし小沢佑太が企画を立ち上げ、
プロデュースから舞台出演までを手掛ける
初めて尽くしの公演です。
公演名は【産声】
小沢佑太が演劇人として誕生の産声をあげます。
場所は兵庫県神戸市のイカロスの森で行います。
4月23日(土)12:00
15:00
17:30
全3ステージで、開場は開演30分前。
公演時間は60分前後を予定しています。
1回のステージで短編作品を3本上演します。
1回で3度楽しめる、一石三鳥です。
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