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【イベントレポート第1弾 高橋泰さん】「秋田はもう少し滅ぶべきかもしれません」

12月8日に行われたイベントCulture driven Management「秋田にいること、秋田から作ること」の様子を2回に分けてレポートします!

前半の記事では、高橋泰さんのパネルディスカッションやコメントの内容をご紹介します!

■高橋泰(ヤマモ味噌醤油醸造元・七代目)
秋田県湯沢市出身。千葉大学デザイン工学科建築系、東京農業大学短期大学部醸造学科卒業後、大手醸造会社で修行。その後、家業であるヤマモ味噌醤油醸造元の七代目として150年続く伝統産業を継ぎ10年目。2013年、GOOD DESIGEN賞受賞。また、バックパッカーの経験、建築やポスターを通じた視覚的な見方、ファッションや音楽を通じた文化的な見方を持って経営を行う。http://www.yamamo1867.com

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Culture driven managementとは「文化を中心に据えた経営」のことです。

当イベントでは、ゲストに高橋泰さんと、矢野智美さん(株式会社秋田ことづくり代表取締役)をお迎えし、トークセッションを開催しました。


『東北にいるから世界を目指せる「こと」がある。この風土、環境だからつくれる「もの」がある。』をテーマに、その可能性を追求しているお二人の考えや経験をお話ししていただき、参加者の皆さんと一緒に、東北だから、秋田だからこそ出来る「もの」「こと」を考え、ひとりひとりが「自分でも出来る!」と挑戦を開始してもらえるような日を目指しました。

イベントページ
https://www.facebook.com/events/545127762351614/?active_tab=about

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左からモデレーターである、高橋泰さん(ヤマモ味噌醤油醸造元・七代目)、矢野智美さん(秋田ことづくり代表取締役社長)。そして今回コーディネーターを務めた三浦知記さん (株式会社Milulan代表取締役社長)

――秋田に戻ろうとしたきっかけや、戻って感じたことを教えてください。 

 秋田というよりは私はもう少し小さなコミュニティである家業についてお話ししたいと思います。


 もともと親から「家業を継ぐ必要はなく、好きなことをやってくれ」と言われていたので、大学では建築家になるための勉強をしていました。しかし大学のゼミの選択の時に就職について考えて家業を継ぐか迷いが生じました。色々な人に相談していくうちに、建築家として成功を収めたとしても、家業を継がなかったことに対して罪の意識を持ってしまうと思いました。そこで東京農大に入り直し、必要な知識を習得したり、修行を積んだりして27歳で継ぐことになりました。

帰る前の反発もありましたが、帰ってから1年がつらかったですね。自分の想像と現場のギャップも大きかったです。また、秋田というよりも私はもっと小さいコミュニティ、自分の会社や家族のコミュニティが狭く、息苦しく感じていました。

 転機となったのは会社のパンフレットを自分自身で手掛けた時です。
「従来のパンフレットとは違う自分の感性で作りたい」と思い、地元の業者に声をかけました。その時に地元の業者が提示してきたものは色が黒ベースのものや職人の作業風景などの「いかにも」なものが多かったです。

私がそこで「従来の味噌・醤油とは違うもの」に変えていこうとした時から、環境を「自分の力で変えることが出来る」ことに気が付き、意識が変わったように思います。現在行っている改築や庭園なども、自分がやりたいと思ってきた建築士としての仕事ができるようになりました。

(泰さんの手がけた中庭~2016年秋ドチャベン現地プログラムより~)

―― 最高決定権を持つキャリア(経営者)において、今までどんなことに意識してきましたか、そしてこれから何を意識していきたいですか?

 少し話のスケールが大きくなってしまいますが、私が生きているうちに味噌・醤油の文化的立ち位置を上げたいと考えています。例えば現時点の醸造業界で一番成功しているのはワインです。エイジングが評価され投機の対象にまでなっています。

日本酒はそういった地位は確立していませんし、味噌や醤油は言うまでもなく及びません。従事者の面でも、例えばワイナリーのワイン職人になろうとか、日本酒の杜氏になろうと思う人はいても、味噌醤油の蔵で働きたいと考える若者は少ないのが現状です。日本文化にもいいもの、価値があるものはたくさんあるとは思いますが、文化的な価値を上げていかないとワインに並ぶ、追い越すということは難しいと感じています。 
 

例えば海外で自分たちの商品を売り込むときに、私は中華料理屋などにはあまり売らないようにしています。中華圏をターゲットにした場合、利益が上がると思いますが、彼らにとって珍しいものではないため、文化としての味噌・醤油を伝えることは難しいと思います。
 日本の悪いところとして、バブルのころは内需が多く、外国に売り込みに行く必要が無かった。それでは、和食の認知や評価は上がっていきません。味噌醤油を含めた和食の立ち位置を世界的にどう推し上げていくかを自分の会社を通して考えています。

―― ローカル発のビジネスに共感してくれる人は秋田に留まらず世界に多くいると思います。そこで世界と勝負するときに意識していること、感じていることを教えてください。

 1点目は日本のへりくだる文化は世界では通用しないというところです。フランスの人々は自分たちの作ったワインを「飲ませてやっている」ぐらいの立ち振る舞いをするんです。だから、我々の素晴らしい日本食を「食べさせてあげる」くらいの気持ちと立ち振る舞いでないと世界で戦えないですよね。

 2点目は進化するための土壌が秋田に一番あるということです。私は人類はある程度の滅びを一度経験しないと進化しないと思っています。ある意味秋田にいることは進化に一番近いと言えるのかもしれません。人口減少などで「滅びゆく」秋田だからこそ、生まれ変わる、進化する確率は非常に高いのではないでしょうか。さらに、台湾やフランスなど他の国とパートナーシップを結んでいくことで進化していくと思います。

――一緒に仕事したい人、コラボしたい人はどのような人でしょうか?

 あえて、いないと言いたいですね。「たった一人でもやっていくんだ」という気概があるチームでないと変わっていくことはできないと思っています。私は世の中がどうなっても自分から何がなくなっても、自分がやるべきことやり続けると思います。魚類が両生類に進化したのはある一個体が陸に上がろうとしたためで、進化には必ずそのような種が必要になってきます。そうした何があってもやり続ける信念を持つことが最も大切なことだと思います。


パネルディスカッションは以上です。
以下は、参加者からの質疑応答です。

Q.プロモーションに手を加えたように醸造の部分にも手を加えていくつもりなのでしょうか、それとも伝統を守っていくつもりなのでしょうか?

 調味料は基本的に変わることが求められていません。私が革新的なことをしたのも10年積み重ねたからであり、10年経ったことでこういったリリースの仕方をとっても違和感がなくなっていったように思います。ワインや日本酒は変えていくのが面白かったり、それが醍醐味であったりと、多種多様な豊かさを持つのに対して、私たちの味噌・醤油は「あの味」と一方的に決められている中で勝負していかなければなりません。だから私は従来のものは昔ながらの製法で行い、私自身が一から作ったものは現代の手法を取り入れています。我々の業界は多種、特殊、革新的なものが求められていないけれども変わっていかないと滅びてしまう、という複雑な状況に置かれています。

Q.進化には滅びが必要だとおっしゃっていたが、自身の滅びの経験、または、滅びを見た経験はありますか?

 文化的な進化という面で直近の例を挙げると、ハンドドリップの文化ですね。本来日本の喫茶店が始めたことが欧米で評価されて逆輸入され、日本人がありがたく飲んでいる状況です。ある意味滑稽ですよね。
 また、インドのチャイも同じように今の欧米で評価されブランド化されつつあります。これらの事例に対して私が危機感を覚えなければならないと感じます。ブランディングをする機能は欧米がかなり強いです。しかし、もともと文化に従事してきた者たちが発信、進化させることのほうが文化、業界的な進化として大事だと思います。

Q.伝統をうたう業界が持つべきものとはあるのでしょうか。

 お酒の杜氏(とうじ)や寿司などは、今も新しい技術を取り入れています。現代に残っているものは誰かが一生懸命残してきたものです。一生懸命というのは、一つのことに打ち込み続け、魔改造というような変化をさせてきた、いわば世界的に見たら変態です。彼らの革新があったからこそ続いてきたと言えます。
 私の代まで7代まで続いてきたのも革新があったからで、私自身も革新を残したいと思っています。残すべきものは残し、変えるものは変えてブラッシュアップしていかなければなりません。その割合は個人の裁量だと思いますし、色々な人に会うなどして知見を高めることでそれは決めていくことが出来ると思います。

Q.これから先、秋田はどういう場所になっていくと思いますか?

 滅びの速度が早いので、それをキャッチする人の濃度も上がっていき、移住する人も増えていくと思います。だから、覚悟や信念の濃縮のようなものが起きてきて、信念のないものには生きていくのが苦しい世界になるし、残る人はそういったものを持つ人になっていくと思います。他の地域も秋田と同じように滅んではいくけれども濃縮の度合いが濃くなるには、一番でなくてはなりません。まだまだ本気度が足りないので、もっと滅びて、危機感をさらに感じるようになれば良いと思います。

Q. 経営するうえで大事にしていることを教えてください。

 私の場合、生きていることと経営が密接にかかわっているので、美しさのために生きるのが良いと思っています。両親から愛情などを受けた私はすでに世代的にも「慈しみ」を返していくターンだと思っています。花鳥風月などの人間が美しいと思うもの、美しさのグラデーションのようなものが人生の面白みだと思っています。そして経営にも美を感じていて、それを追求していくことが大事なのではないかと思っています。

編集後記
「美しさのために生きるのが良い。」頭では思ってもなかなか実行に移していくのは至難の業かもしれません。泰さんのお話を聞くたびにそのスケールの大きさと考えの深さに毎度圧倒されている気がします。
 泰さんには「味噌と醤油の文化的地位の向上」という大きな軸がありました。果たして、自分にそのような太い軸があるのか、できるのか。自問自答を繰り返してしまいます。
 ただ、今現在、私たちが生きている限り、何かしらの使命が各個人に存在しているように思います。多方面で新たな時代への転換期と言われている今だからこそ、私たちが後世に何を残していくのか、何を変えていくのか。時間をとって考え、行動する価値はあると思います。 

 次回は矢野智美さんにフォーカスします!東京で育ち一流企業から退社して秋田に移住し、一から会社を興した方です。ご期待ください!(MAKOTOアシスタント玉井)


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