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【創作 掌編・短編】掌遊び

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拙作の掌編または短編をまとめてあります。
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2022年7月の記事一覧

【掌編】見透かされた悪夢

【掌編】見透かされた悪夢

足がずぶずぶと飲み込まれていく。
泥水のような、もっとねばつくような、スライムみたいな水。
必死で足を前に出す。
重たい重たい。
なんとか抜け出さなきゃ。

ビシャッ…

助かった

今度は上から滝、そして剛流が押し寄せてくる。
そのまま小さな箱に閉じ込められる。
やばいやばいやばい。
どんどん水が溜まってくる。

パリン

助かった

え?え?今度は何?
ここ自分の部屋だよね?
だよね?
なのに

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【掌編】 やさしさほどける “小さな口福”

【掌編】 やさしさほどける “小さな口福”

梅雨が来ない。

そう思っていたら、とんでもない猛暑に襲われ、息も できないような暑さが続いた。
なんとかそれに身体が慣れてきたかと思ったら、今度は梅雨が戻ってきた。忘れ物をした気まずさか、しっとりとしたところのない乱暴な雨が続く。

こんな天気が続くと、湿気が体に染み込んで、ずっしりと重苦しくなってくる。頭はサイズの合わないヘルメットを被らされているようだし、肩や首の周りには鱗

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【掌編】こんな日だからこそ食べるのだ  “小さな口福”

【掌編】こんな日だからこそ食べるのだ “小さな口福”

「よし、やるか!」
台所に立ち、エプロンを締める。

テレビのコンセントを引っこ抜き、スマートフォンの通知も全てオフにする。仕事の連絡も今日は聞かなかったことにすればいい。

ふた昔前、お互いまだ小学生だったあの時は、よく意味もわからず、それでもいてもたってもいられなくなって、「コンビニ行ってくる!」と叫んで、財布も持たずに家の前まで自転車をぶっ飛ばした。
遅くなって家に帰って、こっぴどく親に怒ら

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