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なぜ「アベンジャーズ」は全映画の中で最も評価が高いのか?

先々月、ディズニープラスに入ったのをきっかけに、先ほどやっとMCU全23作品+最新ドラマ2作を見終えました。

興奮冷めやらぬとはまさにこのことで、勢いのまま筆を走らせています。

というのも、前々からすごく疑問に思っていたことがあったからです。

それは

「なぜ『アベンジャーズ/エンドゲーム』はあらゆる映画の中で最も評価が高いのか?」


です。


まずこの画像を見てください。

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「Filmarks」という映画好きの中では有名な映画のSNSがありまして、僕も愛用しているのですが、

全映画の中で最も評価が高いのが、この『アベンジャーズ/エンドゲーム』(☆4.5)なのです。

全映画なので、それこそ『風と共に去りぬ』から『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』までです。


で、ここからが今回考察していきたいポイントなのですが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(以下、エンドゲーム)が他の追随を許さないくらいぶっちぎり1位なんです。

僕は映画を年間300本近く鑑賞していますが、こんな評価が高い作品見たことありません。

Filmarksの有料会員になると☆(評価)が高い順に映画を並べることができるので、この記事を書くにあたって課金しあらためて調べてみましたが、『エンドゲーム』が圧倒的に1位でした。


現在(2021年4月)、Filmarks内でどういう順位かというと

1位:アベンジャーズエンドゲーム
☆4.5
2位:劇場版ヴァイオレットエヴァーガーデン
☆4.4
2位:シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
☆4.4
4位:ショーシャンクの空に (他12本)
☆4.3

(一定数以上のレビューが付いている)全映画の中で、☆4.4以上の作品はたったの3本しかありません。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』はつい最近の作品で、『劇場版ヴァイオレットエヴァーガーデン』は去年(2020年)の作品です。

なので『エンドゲーム』が公開された2019年では、☆4.5はぶっちぎりの独走状態でした。
(しかも2020年までは☆4.6でした)


僕はこれがずっと謎でした。


それまでは☆4.3が最高得点で、

『ショーシャンクの空に』
『レオン』
『きっと、うまくいく』
『ワンダー 君は太陽』
『七人の侍』

など

の傑作映画があり、どんなに良い映画でも☆4.3どまりでした。

にも関わらず、それらを軽々飛び越えて☆4.6がついてしまった。

このスコアの異常な高さ、おかしくないですか!?


『エンドゲーム』と他の映画とではいったい何が違うのか?


この☆4.6の理由が知りたくて、シリーズ全23本+最新ドラマ2作品、鑑賞してまいりました。(やっと!)

SFはあまり得意ではなく、はまれるか不安だったのですが、完全に杞憂に終わり、本当に素晴らしい作品だったことは言うまでもないとして、

結論から言いますと、「なぜ『アベンジャーズ/エンドゲーム』は全映画の中で最も評価が高いのか?」という謎はしっかりと解くことができました。

前置きが長くなりましたが、今日はその疑問を解き明かす気付きを書かせていただければと思います。

(※『アベンジャーズ』を見ていなくても楽しめる内容となっております)


■「好き」は積み重なる

まず大前提として、映画の主人公は観客に好きになってもらわなければなりません。

これは最後まで楽しみながら見てもらうために絶対に必要なことであり、当たり前ですが、映画に限らず、マンガやアニメ、小説といった全ての物語にあてはまります。

なので、脚本家は主人公を好きになってもらうために、あの手この手で様々なテクニックを駆使しながら、観客が主人公に感情移入できるようにし、その結果、ラストは感動しておしまい、としたいわけです。

これは、『アイアンマン』トニー・スタークみたく、傲慢でエゴの塊のような主人公だったとしても、です。

謙虚さの欠片も無く、女遊びは激しく、金で買えないものはないと言わんばかりの厚顔無恥な態度。

僕はトニー・スタークが嫌いでした。

MCUの記念すべき第1作目である『アイアンマン』を見て、正直、かなり不安を覚えました。

なぜなら、「こんな嫌味な主人公をあと22作も見れんぞ」と思ったからです。見ていて友達になりたいと思った人は一人もいないはずです。

しかしこれが本当にすごいことなのですが、不愉快で見ていてムカムカしてくる高慢な主人公を、最後には気づいたら好きになってしまっているのです。(ネタバレになるのでこれ以上は書けませんが、おそらく誰もが最後はアイアンマンに涙したと思います)

そんな主人公に感情移入させることこそが脚本家としての腕の見せ所であり、キャラクターを魅力的に見せる技巧がたくさんたくさん詰まったお手本のような脚本が本当に素晴らしいので、ぜひ見てみてほしいのですが、

さて、ここからが重要なポイントです。


「観客に主人公を好きになってもらわなければならない」ということですが、これが続編の映画となると、1が面白ければ面白いほど、「観客はすでに主人公のことが好き」という状態から見始めることになります。

つまり、「お客さんに主人公を好きになってもらう」というめちゃくちゃ大変な作業が省かれた状態で、見始めることができるのです。

これが続編の映画と初めて見る映画との大きな違いです。

もちろん、1がヒットした映画の続編を作れば、毎回高い評価が付くのかというと、ご存知まったくそうではありません。

むしろ酷評がつくことの方が多いです。
(1を超える2を、処女作を超える最新作を作ることこそ全クリエイターの宿命です)


では、他の映画の続編とアベンジャーズシリーズ(以下、MCU)とではどう違うのかというと、まずMCU作品は続編の映画というより「海外ドラマ的」に作られています。

その証拠に、毎回映画の終わりに、次回作の映像が流れます。これはまさにドラマで言う「次回予告」です。

なので、一話完結の完成されたストーリーでありながら、毎回次の作品が気になるような形で終わるようになっています。

『バクマン。』的に言うと、一話完結じゃない一話完結、です。この点が決定的に違います。


先程「続編の映画では、観客はすでに主人公のことが好き」という状態から始まると言いましたが、

この【好き】という感情は、もちろん面白くないものを作ってしまえば下がるものの、基本的には積み重なっていきます。

これは社会心理学で言うところの「単純接触効果」です。

初めのうちは興味がなかったものでも何度も見たり聞いたりするうちに、次第に良い感情が起こるようになってくる効果のことを言います。CMとかがそうですね。

映画が海外ドラマ的に作られることで、続きが気になる状態から始まるので、この【好き】がリセットされにくいのです。

(※「単純接触効果」は、恋愛には適用されないのと、否定的な感情を抱いている人に対してはマイナスに作用してしまいます)


今回、MCUの第22作目であり、物語の大団円となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』を見て、Filmarksで僕は過去最高スコアをつけました。

これはもうスコアを高く付けざるを得なかったんです。過去に積み重なってきた【好き】があったから。

特にこの一ヶ月間は毎日のように見ていたこともあり、物語の登場人物たちのことがもう大好きでたまらなくなってるんです。

『エンドゲーム』を見終えた次の日でさえも、主人公たちのことを考えていました。


■Amazonがホールフーズを買収した理由

少し話が逸れますが、これはビジネスでもすごく重要なことです。

例えば、Amazonや楽天は「購買頻度の高い商品」を売り込もうとしています。

なぜAmazonがホールフーズを買収したかというと、

「お客さんが毎日行くから」

です。

毎日行くとロイヤルティ(信頼、愛着)が生まれます。頻度の低い商品を扱っている会社は、頻度の高い商品をM&Aすることによって、お客さんとのロイヤルティを高めているのです。

お客さんとの「接触頻度を上げる」ことで活性化したコミュニティを作りたいからです。

シャンプーは月1回とかしか買わないけれど、そこに日用品、食べ物を置くことで、継続してシャンプーも買ってもらえるようになるのです。


■キャラは関係性で立つ

さて、話を戻します。

MCU作品と他の映画の続編との違うところは、「一作一作単体で見ても面白い上で、海外ドラマ的な続きを意識した作り方をしていること」以外に、

「主人公がチームで動いていること」

が挙げられます。


キーワードは、

「キャラは関係性で立つ」

です。

よく編集者が「マンガで最も大事なことはキャラだ」とか「キャラが立っていない」「キャラが弱い」などと言ったりしますが、

実は、キャラは一人のキャラクターだけではかなり立ちにくいです。魅力的な主人公には、他のキャラクターが必要なのです。


例えば、僕はお笑いが好きなのでお笑い芸人で例を出しますが、

NON STYLEの井上さんが当て逃げ事故を起こす前、相方・石田さんのキャラはどうな感じだったか覚えている人はいますでしょうか?

おそらく世間的には「相方と比べてキャラが薄い」「エピソードトークが弱い」といったイメージだったかもしれません。

しかし、事故以来、NON STYLE 石田さんは、何度も何度も相方のイケてない話をすることで、今までになかった前のめりさが出てきて、漫才だけでなく個人としても評価されていきます。

「NON STYLE 石田」から「当て逃げ事故を起こしたイケてない相方を持つNON STYLE 石田」になることで、ぐっとキャラが引き立ったのです。

石田さん自体はほとんど何も変わっていないのに、です。これは一人ではできなかったことです。


お笑いコンビ「インパルス」もそうですね。

(また不祥事の話になってしまいますが)相方の様々な不祥事によって、板倉さんは「腐り芸人」としてキャラを立てることができ、テレビに頻繁に出るようになっていきました。

それまではどうしても相方である堤下さんの方が目立っていたのにです。

仮に不祥事前から腐っていたとしても腐り芸人としてブレイクしていたかと言われると、僕はかなり怪しいと思います。

様々な不祥事を起こした相方を持つ板倉さんだからこそのキャラクターだったのです。

このように、キャラは一人では立たなくても、他の人物との関係性によって、キャラを立てることができるのです。


MCU作品以外の映画の続編は、前作の主人公が引き続き出てくるのは当たり前ですが、どこかチーム(他のキャラクター)がうまく機能していないことが多く、そのため物語やキャラクターに深みが生まれきっていないような気がするんですよね。

例えば、僕の大好きな『ミッション:インポッシブル』は、最初は「THEトム・クルーズの映画」として「トム・クルーズを見て!!!」という感じでしたが、だんだんとシリーズを重ねる毎に明らかにチームとして見せるようになってきました。長く愛され続ける作品にするために、おそらく意図的に変えていったのだと思います。

それが功を奏したのか、続編が作られる度に「シリーズ最高傑作!」と言われるようになっていきました。(名ばかりではなく、本当に面白さが前作を上回っていってるので本当にすごいです)


■『アベンジャーズ/エンドゲーム』は続編と知られていた

また、細かい話を書きますが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、「何年も続いたMCUシリーズの最終章である」ということがわりと広く知られていました。(※正確にはフェーズ3の最後から二番目)

公開当初、見ていなかった僕でも知っていました。

だからかなり話題になってたとはいえ、今までを見てこなかった人が、間違って『エンドゲーム』だけ見に行ったりしなかったはずです。

たまに、続編やドラマの劇場版と知らずに見てしまって「よくわからなかった」と低評価をつけている人がいますが、続編とわかっていればそういうレビューが無くなり、必然的に評価も高くなります。


■なぜ『アベンジャーズ/エンドゲーム』は全映画の中でNo.1なのか?

ここまで書いてきて、『アベンジャーズ/エンドゲーム』が☆4.5という過去最高にしてぶっちぎりのスコアが出た理由に輪郭が帯びてきました。

「マーベル・コミック」を原作としたスーパーヒーローの実写映画化作品を、同一の世界観のクロスオーバー作品として扱うMCUシリーズは、2008年の『アイアンマン』から始まり、2019年の『エンドゲーム』までに22作品もの歴史が、10年以上の月日の重みがあります。

『アイアンマン』はあの人と見に行って、『アントマン』は彼女と、『スパイダーマン』は一人でいったっけ、とお客さんのいろんな思い出も積み重なってくるわけです。

ずっと見てる人の【好きの積み重ね】はものすごいことになっているのは言うまでもありません。

しかも、最後は〝全員集合〟するんです。
(ネタバレすみません)

「キャラは関係性で立つ」ので、たくさん登場人物がいるとそれだけ物語に厚みが生まれていきます。

もうこの時点で、ずっと見てきている人からしたら【好き】という感情の爆上げが誕生するのです。


まとめると、

●海外ドラマ的な作り方をした長く続く作品だったため「好き」が積み重なっていた

●主人公がチームで動き、キャラがそれぞれうまく立つことで、物語に深みが生まれた

●エンドゲームは続編であることが周知の事実だったため、間違って見に行った人がいなかった

そして、何より、

●ぶっちぎりに面白かった

この4点から、前代未聞の☆4.5が出たと僕は考えました。



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さて、ここまでは公開当時に考えていたことだったのですが、『エンドゲーム』の公開から2年近く経ったおかげで、この仮説を検証することができました。

どういうことかと言いますと、冒頭で☆4.4以上の映画はたったの3作品しかないと書きましたが、

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残りの2作品はこちらです。

『劇場版ヴァイオレットエヴァーガーデン』(2020年)
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年)


『エヴァンゲリオン』は言わずと知れた名作で1995年にテレビアニメとしてスタートしました。

『劇場版ヴァイオレットエヴァーガーデン』はもともとアニメで、アニメの最終話はしっかりありますが、さらにその最終話のような回が劇場版として公開されました。
(僕は今まで見た映画の中で一番泣けました。ばちぼこオススメです)

つまり、☆4.4以上は全てシリーズ物だったのです!

3作品とも【好き】が積み重ねられてきた作品だったため、スコアも高くならざるを得ないということだったのです。


となると、映画と違い、余裕で2時間以上見ることとなるドラマで、☆4.4以上の高評価な作品がたくさん存在すれば、僕の立てた仮説は正しいことになるはずです。

映画よりドラマの方が視聴時間は長く、主人公にそれだけ感情移入する時間も伸びるからです。


ということで半年前に始まったばかりのFilmarksの有料会員となり調べてまいりました!

結論から言いますと、映画だと☆4.4以上はたったの3作品しかなかったのに対して、ドラマだと40本以上ありました。

例えば、海外ドラマだと

『愛の不時着』
『ストレンジャーシングス』
『シャーロック』
『ゲームオブスローンズ』
『ブレイキングバッド』

日本のドラマだと、

『池袋ウエストゲートパーク』
『アンナチュラル』
『あまちゃん』

などなど

Filmarksに登録されている映画は全部で95169本に対して、ドラマは14552本しかないのにです。

以上のことから、説、立証とさせていただきます。


最後は少し「単純接触効果」の検証のようになってしまいましたが、人は見れば見るほど好きになっていくことは正しく、そして、

『アベンジャーズ/エンドゲーム』はどの映画よりも多くの人に愛され、どの映画よりも【好き】が積み重ねられた作品だったのです。

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今まで散々映画を見てきましたが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を見終えたとき、まだこんな映画体験が残されていたのかと驚愕と感嘆で思わず心が震えました。

まだ見ぬ感動をありがとうございました。

そして、僕も必ず、素晴らしい作品を作ろうと思えたのでした。

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映画感想文

大学生の頃、初めて便箋7枚ものブログのファンレターをもらった時のことを今でもよく覚えています。自分の文章が誰かの世界を救ったのかととても嬉しかった。その原体験で今もやらせてもらっています。 "優しくて易しい社会科学"を目指して、感動しながら学べるものを作っていきたいです。