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#319 増加するカスタマーハラスメント。企業やマネジメントはどう向き合うか? (2/2)

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

昨日からお送りしている「カスハラ」に関する記事の後編となります。

前編では、厚生労働省やパーソル総合研究所の調査結果をご紹介しながら、近年カスハラ相談件数や実例件数が上がっていることを指摘し、特に福祉職、宿泊サービス、受付・秘書、医療職で、相対的に高い被害件数があることを示しました。

カスハラ被害者は、20代、30代の男女に多いです。加害者は男性に多く、特に40代以降で年齢を重ねていくに連れて上昇している結果も出ています。

カスハラ被害に対して、企業の現場側で適切な応対ができているとは言えず、カスハラの相談を受けても我慢することを強要されたり、相手にしてもらえないという「セカンド・ハラスメント」により、さらに従業員を追い詰めている実態もあることを示しました。

今日は、同調査をもとに、カスハラに対する組織やマネジメントの取り組みについて、データを示しつつ、私の考えも述べていきたいと思います。


組織への信頼資産が、カスハラへのレジリエンスを高める

同調査では、組織への信頼資産を「同僚への信頼度」「会社への信頼度」「上司への信頼度」と定義付けていますが、これらの信頼度が高いと、カスハラ発生時の従業員への心境の変化に対して、プラスの影響を与えていることが分かっています。

出所:パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」 以下同様
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/customer-harassment.html

例えば、上図の通り「何かあればいつでも同僚に相談できる」という「同僚への信頼度」が高ければ、ストレス反応がマイナスに。「会社は助けてくれる」「会社のことを信頼している」という「会社への信頼度」や「何かあったら上司にいつでも相談できる」という「上司への信頼度」が高ければ、転職意向やストレスを下げる影響があることが分かっています。

そして、何が「組織への信頼資産」を高めるか、という点は、下図の通り「組織文化」が大きく関連しています。
「自由闊達・開放的」で「チームワーク志向」が高い組織文化であれば、信頼資産は高く、逆に「顧客意向の尊重」が強く「何を」よりも「誰が」言うかが重視される「属人思考」が高い組織では、信頼資産が低いという相関関係があることが分かっています。

先日、日本の「権威主義・責任回避」な「組織文化」の弊害として、従業員への「はたらく幸せ実感」を下げていることを指摘する記事を書きましたが、カスハラに対するレジリエンスにも影響があると言うことで、「風通しの良い組織文化」を形成することの重要性を改めて感じています。

他にも、カスハラに対する「会社の対応への知識」や「社内で相談できる人数」が多いほど、組織に対する信頼資産が高い結果となっています。
これらは、社内でクレームやハラスメントの事例共有をしたり、管理職向け研修機会を作ることで、プラスの関連があることが分かっています。

「上司への信頼度」の観点では、「部下の成長や育成への関心が高い」「メンバーの意見に耳を傾ける民主性」「分け隔てなく接する平等性」などのマネジメント行動が高い上司は信頼度が高く、逆に「顧客や売上を優先する顧客志向」が高い上司は「上司への信頼度」が低いことも分かっています。

「会社への信頼度」は、カスハラ後の対応により変動します。
下図の通り、カスハラを会社が認知しているのに対応がない場合は「会社への信頼度や相談しやすさ」を弱めるきっかけとなり、逆に何らかの対応がなされた場合は、「会社への信頼度」を高めるきっかけとできることが示されています。

カスハラ後の会社対応の影響

職場のカスハラ対策の現状

従業員は、自分の組織でカスハラ予防・解決策は「実施されていない」との認知が43.0%となり、未だ半数弱の職場でカスハラ予防などの具体的な取り組みがなされていないと認識されています。

「実施されている」は37.0%で、具体的な取り組みの実態としては「社内に相談窓口が設置されている」が47.0%、「クレームやハラスメントの事例が社内共有されている」が39.5%、「クレームやハラスメントに対するマニュアルが作成されている」が33.8%となっています。

社内での研修やマニュアルに含まれている内容は、「ハラスメント該当行為の説明」が65.2%で最も高く、被害にあった職員への対応方法や具体的なロールプレイ・お手本の提示といった実践的な内容は含まれていることが少ないようです。

また、従業員からのカスハラ対策に対する期待と会社の対応のギャップを見ると、「電話応答での自動録音」や「対外的な方針・態度の公表」にギャップが大きく、現状の対策が十分なものとなっているかというと、そうではない現場の方が多そうです。
従業員の期待事項としては、「カスハラを受けてから職場の中に相談できる場所があること」だけでなく、「そもそもカスハラを受けないようにするための対策」が求められていると理解できます。

私が考える予防と対策

カスハラが発生しても社内に相談しやすい組織風土があることは大事ではありますが、そもそもカスハラを牽制する取り組みがより必要というのが私の意見です。

いくら相談先があったところで、「いつカスハラを受けるか分からない」という職場では、従業員が安心して仕事をして高いパフォーマンスを発揮することは期待できません。

より当たり前にしていく必要があると考えるのは、顧客や取引先との契約書類の中に「カスハラに対する会社のスタンスを明記した文書」を入れて、内容に合意してもらうことも含めて取引条件に入れることです。法人営業職でもカスハラ被害が少なくないですから、特にB2B取引において、一定の効果があると考えています。

先日述べたパワハラ件数が減少傾向にある背景には、マネージャーが「いつ指摘を受けるかわからない」という心理的牽制が働いているであろうことを考えると、やはり高圧的な態度や暴言などが契約違反に該当するケースがあることを認識してもらうことが必要だと感じます。

また、電話での自動録音が最も期待されている結果から見ると、顧客との打ち合わせをレコーディングすることも一定の牽制効果が見込まれると考えます。特に、最近ではリモートツールを使ったオンライン会議も一般的になってきましたから、証拠を残すことが一定の牽制に繋がるかなと。

通常の事業活動では、自分たちが発注先になることがあれば、発注元になること=カスハラをする側に回ることもあるため、「何がカスハラに該当するのか」の従業員教育は、引き続き必要でしょう。
TVニュースに取り上げられるような、タクシーで暴力を振るう例みたいなのは極端で分かりやすいですが、よりグレーなラインのところで「カスハラヒヤリハット」みたいな事例は少なくないでしょう。

現場のマネジメントとしては、こうした「カスハラに対するメンバーとの議論の場」を定期的に持つことで、メンバーとしても一定の安心感が得られると考えています。

既存の取引先を失ったりもめたりする可能性もあるため、カスハラに関する思い切った対策が現実的に取りにくい事情もあるとは思いますが、究極的に問われているのは「従業員を尊重する組織か、顧客を尊重する組織か」という組織のスタンスです。

一時的な顧客はいなくなっても、従業員が残れば次のより良い顧客が見つかるかもしれませんが、従業員は失ってしまったら戻ってきません。その点で、真に守るべき対象は明らかです。

下請法のような「弱い立場の人を守る」法整備と並行して、各企業・現場でもボトムアップ的に「従業員を守る」ための取組がより加速することで、サービス提供側と顧客側がお互いに尊重し合う社会風土の醸成にも繋がるはずです。

綺麗事ではなく、人手不足対策という実利に基づく対策なので、組織やマネジメントは真剣に向き合って対応していかないと、「良い人材に選ばれない組織」となり、より競争力を失っていくことになるでしょう。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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