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【今でしょ!note#82】 地域の人手不足問題はどれくらい深刻か?

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

日本全国で人手不足が叫ばれており、特に人口減・社会減が進む地方部では、人手不足が深刻です。
全体的に人手不足というのは何となくイメージしやすいですが、どの業界がどのくらい不足しているか、という具体的なデータにあまりアクセスしてきませんでした。

日本の状況をより解像度上げてみるために、人手不足に関して解説されている2023年6月の内閣府のレポートがありましたので、少しまとめておきます。

参考URLはこちらです。

https://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2023/0630/topics_072.pdf


成長の足枷となっている人手不足問題

2023年5月、新型コロナウイルス感染症の位置付けが2類相当から5類へと変更にになったことを受け、日本経済も景気回復の方向に向かいつつあります。
一方で、従前から問題となっていた人手不足問題が再び成長の足枷となっています。少子高齢化が進む人口動態の観点から、この労働供給側に制約がかかる傾向が今後ますます進んでいくことはもはや不可避でしょう。

日銀が四半期ごとに公表している日銀短観では、雇用の過不足感を聞いていますが、「対個人サービス(▲48)、「宿泊・飲食サービス(▲67)」となっており、大幅な人手不足感が高まっています。
(例えば「対個人サービス」では、人手不足と回答した事業所の割合が過剰と回答した事業所の割合より48%多い、という意味)

「対個人サービス」および「宿泊・飲食サービス」で、特に人手不足感が高まっている

労働力人口の全体推移

2012年以降、全国的に女性・高齢者の労働参加が進んだことと、東京都を含む「南関東」では、東京一極集中による人口流入が進んだことで労働力人口は大きく伸び続けています。

「南関東」と「近畿」で労働力人口増加が継続する一方で、その他地域では2019年をピークに労働力人口が減少に転じています。

「南関東」と「近畿」以外は、労働力人口は減少傾向

コロナ禍の影響で都市圏から地方部への人口流出が進むというような話もありましたが、2012年以降、累積転入超過数は堅調に伸び続けていることがわかります。

南関東(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の転入超過数の推移

労働供給側の量的な制約を把握するには、「未活用労働力」の数を把握することが肝要です。当レポートでは、以下の3つの合計と定義しています。

①失業者:就業しておらず、1か月以内に求職活動を行っており、すぐに就業できる者
②潜在労働力人口:非労働力人口のうち就業ができる者
③追加就労希望就業者:就業時間が週 35 時間未満の就業者のうち、就業時間の追加を希望しており、追加できる者

性別・地域別の「未活用労働力」の分析によると、2022年の男性の「未活用労働力」は全国平均で2.8%で北陸と四国は2%未満で少ない傾向が出ています。
女性は全国平均で3.43%で北海道・北陸・中国・四国で少ない傾向です。

下図の「女性の労働参加率の地域比較」では、結婚や出産期に労働力率が一時的に下がるM字カーブの傾向が北陸で最も解消が進んでいることがわかりますが、実態は非正規雇用で補われている面も多く存在しています。

下図に示す「女性のL字カーブ」問題が示している通り、「25〜34歳」のところで女性の「正規雇用」の割合がガクッと落ちる傾向がわかります。

女性の正規比率の地域間格差(2022年)

本筋から外れるのでここでは深追いしませんが、いわゆる「106万円の壁」と呼ばれる制度上の歪みによる傾向でもあります。年収が106万円以上となると社会保険の適用対象となり可処分所得が減ってしまうため、全国の20〜69歳の配偶者のいる女性の6割以上が就業調整をしていると回答しています。

産業別の労働人口推移

まず、全国での産業別就業者数変化を見ていきます。

2012年から2022年の産業別就業者数推移を見ると、男性では「情報通信」で55万人増加(31%増)、「医療・福祉」で51万人増加(29%増)で就業者数の増加傾向が出ています。
女性も「情報通信」で28万人増(57%増)、「医療・福祉」で148万人増(28%増)となっており、全体的に就業者数増加の傾向が分かります。

「宿泊・飲食サービス」では、2019年まではインバウンド需要拡大もあり、就業者数が大きく増加していましたが、感染症拡大後は需要減少に伴い就業者数も減少に転じています。


地域別に見ると「情報通信」の就業者数増加は、大部分が「南関東」ですが、「医療・福祉」の就業者数増加と「宿泊・飲食サービス」の就業者数変化は、全国的な傾向です。

これらの推移から、2012年以降の景気拡張局面では、女性・高齢者の労働参加が進み雇用が拡大したものの、その多くは「宿泊・飲食サービス」などの対人サービス業と「医療・福祉」などの労働集約的な部門で進み、地方部でその傾向が強かったことが分かります。

また、感染症拡大後に「宿泊・飲食サービス」などの対人サービス業を離れた就業者は「医療・福祉」に吸収された可能性が高いと分析されており、対人サービス業の事業再稼働後に必要な就業者確保の動きを圧迫していると考えられます。

対人サービス、医療・福祉分野の課題

対人サービスや医療・福祉分野では、需要の高まりにより労働生産性が自然と高まる面は一定ある反面、ある水準を超えたら追加的な需要増加に対して「ICT化などの資本装備率向上」と「業務効率化による生産性向上」が求められます。

下図の通り、これら分野では労働生産性が低いことが分かります。
これまでは、需要増加に対して女性や高齢者などの労働参加により、労働投入量を増加させることで対応を進めてきましたが、特に地方部の供給制約問題によりそれが限界に来ています。

本来は、投資や業務改革による生産性向上が求められる局面ですが、非正規雇用を中心とした労働参加でごまかせてこれた部分も一定あったのだと考えられます。

これら分野の生産性向上に向けて、2023年に内閣府が示している方向性は主に次の2つです。

  • IT技術活用などによる現場の生産性向上

  • 企業の新陳代謝活性化、企業の統廃合による産業構造改革

後者は平たく言えば、比較的小さな企業が多く分散している業界であるため、投資体力と経営効率化を図るために、大きな事業体に統合させていく、ということを指しています。

特に地方部では都市圏に比べて企業の新陳代謝(開業率・廃業率)が活性化しておらず、産業・労働投入変革が遅れていることが指摘されています。

また、労働者調査結果によると、35~54 歳の有配偶者女性で特に「勤務時間・休日などが希望とあわない」ことを理由に仕事につかない人の割合が高いです。
子育てや介護と仕事の両立が可能な勤務環境がまだまだ整っていない企業が多いと考えられます。

地域の人手不足解消に向けた政府の方策

政府見解では、予約サイトや接客サービス用タブレットなど、各業務プロセスでのIT活用、およびM&Aなどで規模の経済性を働かせ、コスト削減と過当競争回避案を提示しています。

これら方策には、事業者の収益力・資本力、経営者の経営スキル、デジタルリテラシーが求められます。

地方企業がこのような変革を単独で進めるのは困難が伴うため、人材やノウハウを有する地域金融機関がその変革支援を行う役割が期待され、2021年の銀行法改正で銀行の業務範囲が拡大されました。

各地域の地銀でデジタル化を支援する取り組み、各自治体でミスマッチ解消に向けた取り組みが始まっていますが、実態としてどれくらい実効性のあるものなのか、正直よく分かっていません。

このあたりは、もう少し情報収集してみて、別途整理したいと思います。

それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
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