海外プロダクトの採用情報から読み解く、UXリサーチャーに求められる2つスキルとは?
こんにちは、UXデザイナーの古里です。
ここ最近、「UXリサーチャー」という職種をよく耳にするようになりました。
昔からユーザーインタビューを始めとした定性調査の方法論はいくつもありますが、専門的に定性調査を行うUXリサーチャーの価値が認められてきたのではないか、またUXリサーチャーの需要が高まってきたのではないかと考えています。
自分の経験からしても「UXリサーチャーの需要が高まっているではないか?」と感じています。
昨年は、Housmartにてプロダクトマネジメントしながら、アプリ改善を目的とした課題抽出やインタビュー設計やログ解析を行ったり、新機能の価値検証を行っていました。
また、先日あるSaaSプロダクトのデザインマネージャーと話していて、デザインシステムのおかげで作業コストは下がっているものの、「PMとデザイナー間のすり合わせコスト」が非常に高いという課題を聞きました。
つまり、UXリサーチを開発プロセスに組み込めていないので、意思決定者(PM)と設計者(デザイナー)の間で認識の齟齬が発生している。
How to Use UX Research to Guide an Agile Process
UXリサーチができるだけではなく、開発プロセスに組み込める腕力のある「UXリサーチャー」を採用したい、というお話もお聞きしました。
こういった経験から、UXリサーチャーの需要は高まっているのでは?という仮説を持っています。
UXリサーチャーは何をする人なのか?
0→1の立ち上げ、1→10のグロースの2軸で整理すると、
プロダクトや新機能の立ち上げ時では、解決すべき課題を特定し、プロダクトの価値検証を行います。
メリットとしては、サービスリリース後の初速が早くなり、定着率の向上やチャーンレートを抑えることができます。
競合がいる場合は、より早くユーザーを囲い込めるというメリットがあります。
UXリサーチャーは、プロダクトや新機能の立ち上げ時だけでなく、グロースフェーズでも有効です。
グロース時では、プロダクトの改善点を特定し、改善案の有効性を検証できます。
上記のように整理しましたが、これだけでは不十分に感じたので、海外プロダクトの採用情報を調査し、求められるUXリサーチャー像をより明確にしていきます。
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日本でも知られている、海外発の3つのプロダクトを調査
Linkedinにて「UX Researcher」 で検索したところ、アメリカだけでも約800件の募集があったので、2つの条件で絞り込むことにしました。
1つ目は、日本でも知られているほど知名度が高いこと。プロダクトが大きくなるにつれて組織も大きくなり、UXリサーチャーの数も比例して多くなる可能性が高い。UXがリサーチャーが多い組織であれば、どのようなスキルや経験をもったUXリサーチャーが活躍するのか?、どのような組織設計をすればうまく機能するのか?が検証されているはずだと仮説を立てました。
2つ目は、UXリサーチ「グループ」や「チーム」が含まれていること。これも1つ目の条件と関連しますが、同じスキルを持った人材が多くなると部署横断型の組織が作られます。例えば、デザイングループやエンジニアグループのような部署横断型の組織が代表的です。
この条件に当てはまるプロダクトで、特によく推敲されてた採用情報はInstagram、Netflix、Lyftの3つでした。
では、さっそく見ていきましょう。
Instagramの採用情報
Instagram, UX Researcher (Mixed Methods)
Instagramの興味深い点は、Mixed Methods(混合研究法)と記載している部分です。
私たちの主な研究は、量的調査、日記研究、綿密なインタビュー、文脈調査などのアプローチを使用して、形成から評価までに及びます。このポジションでは、混合メソッドのバックグラウンド(定性的および定量的メソッドの両方の専門家)を持ち、さまざまな洞察のソースを統合する方法を理解できる個人を探しています。(※Google翻訳)
では次にNetflixの採用情報を見てみましょう。
Netflixの採用情報
Senior Product UX Researcher, Creative Production
Netflixでは、シニアプロダクトUXリサーチャーというタイトルで募集されており、よりハイレベルな人材を求めていることがわかります。
・ 革新的な市場参入の成長戦略を定義して通知する
・ 現在および将来の会員の動機付けと満たされていないニーズを評価して、定着率を改善する
・ 定量的および定性的研究方法の経験を持つ混合法研究者
・ 調査結果を戦略的なビジネスの推奨事項に翻訳することに情熱を傾ける
・ 革新的で説得力のある方法を試して、カスタマーエクスペリエンスに新たな光を当て、ビジネスの戦略的意思決定に役立つようにします。(※Google翻訳)
では次にLyftの採用情報を見てみましょう。
Lyftの採用情報
インコンテキストインタビューや、定量データにコンテンストを与えるなど、「ユーザーの文脈を重要視していること」を伝えようとしていますね。
・ ユーザビリティ/ユーザーテスト、調査、インコンテキストインタビューなどの定性的および定量的方法の両方を含むUX調査研究を行う製品組織での5年以上の経験
・ 定性的データを確認、分析、伝達して、戦略的な洞察と、製品とサービスの決定とユーザーの設計改善を導く適切な推奨事項を作成します。
・ 定量的UXおよびデータサイエンスパートナーと連携して、定量的洞察の定性的コンテキストを提供します(※Google翻訳)
上記3つの募集を分析していくと、ある2つの傾向が見えてきました。
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Mixed Method(混合研究法)
まずは、Mixed Method(混合研究法)です。定性調査だけではなく、定量調査を含めたUXリサーチのスキル・経験が求められています。
混合研究法はあまり聞いたことがないワードなので、調べてみました。
混合研究法とは?
名古屋大学大学院医学系研究所の樋口倫代氏の「現場からの発信手段としての混合研究法ー量的アプローチと質的アプローチの併用」によると、医療業界では新しい第3の研究方法として注目されているようです。
混合研究法は、一つの研究の中で、量的・質的研究を用いてデータの収集と分析を行い、結果を統合して推論を導くという研究法。今まで混合研究法が認められなかった理由としては、お互いの哲学的背景の違いだそう。
量的研究は「実証主義」、質的研究は「構成主義」の哲学的背景があり、論争がしばしばあったとか。しかし両者が哲学的論争に疲れてしまい、そもそも研究をするという自分たち役割を果たしていくことに関心を持つようになったとのこと。
これは、プロダクト開発の現場でも活かせる教訓です。
デザイナーやエンジニア、マーケターなど、手法や自分たちの肩書に固執すると非生産的な議論しか産みません。自分たちの役割と達成したいミッションに立ち返り、その都度手法を組み合わせたり、改善しながら、行動していくことが重要です。
解くべき課題に合わせて、自分の強みを活かしつつ、手法を組み合わせたり、他の強みをもったメンバーとコラボレーションすべきという点では、Plaidさんの「Issue採用」が参考になります。
Issue単位でメンバーを募集するという方法をとっており、非常に興味深いです。このようなIssueベースの採用がこれからのスタンダードになるかもしれませんね。
Strategic insight(戦略的洞察)
戦略的洞察は理解しづらい言葉なので、2つに分割して調べてみましょう。
戦略とは?
戦略は、一般的には特定の目的を達成するために、長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・応用科学である。(wikipedia 「戦略」より)
短い言葉ですが、重要な3つのキーワードが含まれています。ここで説明すると長くなるので、関連するものを貼っておきます。
「特定の目的」「長期的視野」を深堀りするには、失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)をおすすめします。
「複合思考」から、先日見たGoodpatch代表の土屋さんのツイートを連想しました。
では次に「洞察」を見ていきます。
洞察とは?
ヒトないし動物がある困難な情況に直面したとき,突然,解決手段を見いだして,その情景の目的にかなった行動をとるような場合の心的過程を説明する 概念で,ゲシュタルト心理に由来する。(コトバンク「洞察 世界大百科事典 第2版の解説」より)
主として問題解決の場面で解決の鍵となる行動を、人および動物が見通すことを意味する。
外見的には突然新しい行動の方向が生じ、解決がなされるようにみえる。
ドイツの心理学者ケーラーのチンパンジー回り路(みち)実験では、たとえば柵に遮断されて、手を伸ばしても直接バナナをとれない場合、動物が、檻の中に置かれた棒に気づいてこれをとり、柵の間からバナナをかき寄せることに成功した。バナナをとった経験と棒を握った経験とを適切に結び付けることが解決の鍵で、洞察は経験の再構成、構造転換などがポイントになる。(コトバンク「洞察 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説」より)
経験の再構成という表現は、非常にわかりやすいです。
余談ですが、デザイナーの「思考のジャンプ現象」はよくあることで、過去に自分も、思考のプロセスを一気に飛び越え、課題解決の方法が導き出されるケースがありました。
デザイン思考では「反復」「リフレーム」という言葉がよく使われるため、デザイン思考の基本は洞察なのかもしれません。
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では、「戦略」と「洞察」の意味が理解できたところで、「戦略的洞察」に着地させます。
プロダクトにおける「戦略的洞察」とは、データから重要成長要因を見出し、正しい意思決定に貢献すること です。
調査結果をまとめるだけのUXリサーチは不十分であり、正しい意思決定に貢献しなければ意味がありません。
海外プロダクトの採用から読み解く、UXリサーチャーに求められる2つスキルは、「混合研究法」と「戦略的洞察」です。
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着地したとはいえ、UXリサーチャーに興味がある方からすると、少し遠い内容になっているかもしれません。
なので、UXリサーチャーへの第一歩になるように、明日から試せる2つのTipsをご紹介します。
「仮説」と「So What」を意識しよう
①仮説
仮説を立てずに調査しようとすると、どこまでデータを集めたらよいのか?どのような切り口であればインサイトを得られるか?が全くわかりません。
混合研究法は「実用主義」とも言えるので、仮説を立てて検証するという目的を意識しながら、データの収集・分析を行うことをおすすめします。
1点注意が必要なのは、誘導尋問してしまうことです。無意識に仮説の正しさを証明しようするバイアスが働きます。インタビューの質問にバイアスがないか、他のメンバーからのチェックを入れながら設計しましょう。
②So What
「So What」は、収集・分析したデータに対して「だから何?」を繰り返し、要因を見出すことです。論理思考とも言えます。
最初から頭で構造化して考えるのは、非常に難しいので紙に「ロジックツリー」を書きながら因果関係が正しいか検証しながら、要因分析を行いましょう。
論理思考を深堀りしたい人は、イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」は名著なので、是非読んでみてください。
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最後に
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!UXリサーチの機会やUXリサーチャーを増やしたいと考えています。イベントやお仕事でも何か貢献できれば幸いです。
お問い合わせは、TwitterのDMでも大丈夫ですし、ウェブサイトからでも。
では、ありがとうございました!
※この記事のイラストはicon8より
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