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外から聞こえてくる音の正体

プッシュー

家に居ると時折聞こえる音。
普段の生活では忘れてしまうことが多々あるのだが、タイミングよく聞こえると
そうだったと思い出す。

ちなみに、わたしの大好きなあの350ml缶のタブを引っ張った音、ではない。


最近はまだ暑さは残るものの、真夏に比べると少しばかり涼しくなってきたので窓を開ける機会が増えた。

朝起きてから、まず窓を開ける。
最近の朝は曇り空が多く青空はチラ見せしてくれる程度なのだが、心地良い風が部屋の中にひゅうっと入ってくるのが清々しく、気分が良い。

この家を購入するときに周辺状況はチェックしていた。
人通りはどうか。
交通状況はどうか。
近所にどのような店があるのか。
近所にはどのような風貌や世代の人がいるのか。

車が行き交う表の道路は片側1車線で、混雑することは滅多にない。
この道の先の先にはイベントが催される人気のエリアがあるため、イベント時には渋滞が起こることもあったが、それもごくたまにだ。

住宅街とはいえ、すぐ近くにコンビニや薬局や郵便局がある。
ここで言う”すぐ近く”とは徒歩5分圏内だ。
15分も歩けばスーパーや商店街やカフェ、ショッピングモールや駅、小学校、幼稚園がある。


わたしの家は、その表通りの一本裏の筋にある。しかもその筋の先は行き止まり。
この筋の住民しか通らないため治安が良く、家の前で子供たちが遊んでも危なくない。
一本裏ということで窓も開けやすく洗濯物も表通りには見えないし、宅配の荷物を置きっぱなしにしてもある程度は大丈夫。
いや、とはいえこのご時世、危ないのである程度、ということにしているが。


日中も夜間も静かで、特に外の様子は気にならない。
かといって、シーンとした人気のなさも感じない。


家に居ると時折、表通りの車の音が聞こえてくる。

ブォォォォーン!という、一体どんな車乗ってるん、というような爆音や
救急車の「がんばれっ。。!」と思わず拳を握りしめてしまうような音。
どんな天気でも決まった時間に聞こえてくる清掃車の陽気な音楽や
スクールバスから降りてくる幼稚園児の明るい声。

どれもちゃんと聞こえるのだが、
頻繁ではないためか生活していて全く不便には思わない。
爆音だけは、頻繁だときっと不快なのだろうけど。

わたしは生活しやすいこの環境にとても満足している。


夏休みのある暑い日。
子供たちの歯医者を予約していた。
夏休みは毎日猛暑が続いていて、その暑さに慣れたといえば慣れたのだが
歯医者まで自転車で20分。ちょっと気合を入れる必要がある。
そこであの「プッシュー」の存在を思い出した。

そうだ、その手があった。

この家に住んで6年ほど。まだ一度も利用したことのないその「プッシュー」は
よく考えると非常に便利なのではないかと思った。
それは家から1分。表通りに出てすぐのため、目と鼻の先だ。

なぜ6年間もそれを利用しようという思考回路に至らなかったのか、と不思議に思うのだが
それはきっとわたしの人生であまり機会がなかったから。
電車の駅から近い距離に住むことが多かったので、子供の頃から基本的には電車か自転車移動。
休日は父、現在は夫の運転での車移動だ。
お出かけの移動手段を考えるとき「プッシュー」の選択肢が頭に浮かばないのだ。

しかし、家から音が聞こえるほどの距離。
そんな便利なものを利用しない手はない。


早速スマホで時刻表を調べてみる。
すると、わたしが頭に浮かばない理由がもう一つ分かった。
本数が少ないのだ。
駅に向かう別の路線は本数が多いようだが、わが家の近くのそれは駅とは反対方向の更なる住宅街の方へ向かう。
朝は例外として、基本的に一時間に一本。15時台に至っては一本も走っていない。

なるほど、それで「プッシュー」の音が気にならなかったのか。

その存在を忘れるほどに、それはタイミングが合わないと聞こえない音なのだった。


「今日の歯医者さんはバスで行ってみる?」
わたしの提案にこどもたちは目を輝かせた。

急いで準備をしてバス停に到着する。
ちょっと早く家を出すぎたかな。
なんせ徒歩1分の距離なのだ。あと5分くらい待ちますか。

今まで数えるほどしか乗ったことのないバスは、こどもたちにはとても新鮮なよう。
長男は大きな窓から外を眺め「久しぶりや」とニコニコしている。
同じく久しぶりにバスに乗ったわたしも
長男のように、大きな窓の外をぼうっと眺めたくなった。
車よりも車高が高く大きな窓は目線の高さも変わり、いつもの景色が違うものに見える。

わたしはいつもバスに乗ると「ミステリと言う勿れ」のようなバスジャック的なものをどうしても思い出してしまうのだけれど。
それは完全にドラマの観すぎだ。

そんな母の気持ちをよそに
嬉しさをおしゃべりで表現する次男を「小さな声でね」と少し落ち着かせて。

たまにはいいな、バス。


プッシュー


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