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君がいなくなった後の教室【終】

◯海望高校・教室(昼)
   公一と、公一の友人の川谷庸介(18)が、話しをしている。庸介、パンを食べている。
公一「なんか、ずっとお前パン食べてたよな」
庸介「(パンを食べながら)金、貯めたいから」
公一「フェンシング辞めなかったね」
庸介「うん。まだまだあるけどさ」
   公一、パック牛乳の牛乳を一息で飲み干す。
公一「学費高かったよなー。私立」
庸介「(笑って)どうしたんだよ? 親みたい」
公一「結局、フェンシングもボートも縁がなく、卒業かー」
庸介「お前、将棋強いらしいじゃん」
   公一、目を上げる。夏美と光希、話しをしている。公一、直ぐに目をそらす。
庸介「卒業したら、どうする?
公一「とりあえず旅行したいなー。この辺不便だし」
康介「あ、それ良いかも」
 公一、立ち上がる。教室の外に出ていこうとする。
庸介「(公一の背中に向かって)たまには楽しくやろうぜ!」

◯海望高校・自販機前(夕)
   公一、自販機の前で、コーラを買おうと思い、小銭を数えている。
光希「(急に現れて)あっ?」
公一「……ああ」
光希「F組のひと?」
公一「……そうだよ。一応」
光希「友だちが多いひとだ」
公一「三年近くいれば、増えるよ」
光希「そうだよね」
   公一、二百四十円を財布から取り出して、コーラを二本買う。
公一「(コーラを光希に差し出して)コーラとか飲む?」
光希「えっ? 貰っちゃって良いの?」
公一「良いよ。大丈夫、別に」
   光希、コーラの缶をしばらく眺めて、嬉しそうにプルタブを開ける。
光希「(手を止めて)この学校、珍しい部活多くない?」
公一「フェンシングとか? F組だったら、川谷がフェンシング部だよ」
光希「ボート部もある」
公一「(考えながら)……そうだよね」
   光希、立ったまま、コーラを飲んでいる。
光希「コーラ美味しい」
公一「そう? 暑いからね」
光希「フェンシング見たいな。この近くだったりする?」
公一「やっていると思うけど――見れないよ。入れないと思う」
光希「そうだよね」
   光希、空になったコーラの缶を、公一に渡す。
光希「(にっこり笑って)捨てておいて」
公一「ああ……」
   光希、何も言わずに海望高校の外に出ていく。公一、コーラの缶を二つ回収のゴミ箱に捨てる。
公一「(独り言を言って)ふーん。そういう人」

◯海望高校・教室(昼)
   浅田、数学の授業をしている。
浅田「ここの式に代入」
夏美「難しくない……やば、全然分かんない」
   夏美の独り言が、教室の中に響く。教室の中の緊張が緩む。
浅田「今難しいという声が聞こえたけど。(チョークで黒板を叩きながら)入試に数学がある者は、今理解しておかないと、まずいぞ」
   公一、考えている。庸介、真剣にノートをつけている。
夏美「あっ、凄い雨だ」
   窓の外に、雨降り始める。

◯海望高校・廊下(昼)
   廊下で、夏美と光希、立ち話をしている。
夏美「難しいよね。数学」
光希「うん――最近、全然分かんない」
   公一、庸介と一緒に、夏美と光希の前を通り過ぎる。
光希「(公一の姿を見て)あ、田辺君、こないだご馳走さま!」
公一「えっ? うん」
   庸介、公一に話しかける。
庸介「佐奈田さんと、なんかあった?」
公一「いや、ないと思うけど」
庸介「ご馳走さま、って言ってたぜ」
公一「何か勘違いしてるんじゃない?」
   庸介、公一から離れて、海望高校を出て行く。
庸介「お前は良いよな。俺はフェンシングもあるし」
   公一、ゆっくりと歩いて海望高校を出て行く。

◯田辺家・リビング(夜)
   公一、リビングでテレビを観ながら、数学の教科書を眺めている。
友妃子「ねえ」
公一「(興味がなさそうに)ああ」
友妃子「兄さん、最近輝いていない?」
公一「はっ? 馬鹿じゃないの」
友妃子「いいや。そう思う」
   公一、教科書を閉じて、立ち上がる。
公一「何にもないからさ」
   友妃子笑う。公一、友妃子を置いて、二階へと上がって行く。

◯田辺家・公一の部屋(夜)
   公一、光希にラインの電話をかける。
公一「もしもし」
光希「あっ、田辺君?」
公一「そう」
光希「今、夏美と電話してたとこ。終わったから丁度良かった」
公一「安斎さんと電話してたんだ?」
光希「うん」
   公一、窓をカラカラと音を立てて開ける。
公一「すっかり涼しくなったね」
光希「うん。秋だからね」
公一「夜って良いよね」
光希「分かる。分かるかも」
   公一、ソファに座る。
公一「卒業わりと近いね。佐奈田さんと仲良くなれて良かったかも」
光希「夏美と同じこと言われた」
   光希、電話越しで笑う。
光希「今ね。絵見てた」
公一「(聞き返して)えっ。絵?」
光希「あたし、絵が好きなの。前は、美術系の高校にいたからかな」
公一「へえ。そっか」
光希「レンブラントって知ってる?」
公一「いや――全然知らないな」
   光希、再び電話越しで笑う。
光希「卒業したら、ここからデンマークに行くの」
公一「なんか言ってたね」
  光希、電話口で嗚咽し始める。
光希「(泣きながら)川谷くんとも、夏美とも仲良くなれたのに、酷いわ」
公一「デンマークのどこ?」
光希「コペンハーゲン」
公一「そっからでも、みんなに電話してよ」
光希「ええ。そのつもり」
   一階から、友妃子、公一を呼ぶ。
公一「またすぐに夏が来るよ」

◯海望高校・教室(朝)
   海望高校。冬。浅田、教室に入ってくる。
「ああ。さっむい、さっむいと……」
   黒板に、佐奈田光希さんありがとう、と大きく書かれた白い字。
浅田「知っていると思うけど、佐奈田さんは、ご家族の都合で、海外に行かれるそうです」
   夏美、話しを聞いている。庸介、唇を噛んで下を向いている。
浅田「佐奈田さん、最後にF組のみんなに挨拶して」
   光希、黒板の前に出る。
光希「短い間でしたが、海望高校は本当に――楽しかったです。私は、コペンハーゲンっていうところに住みます。どっちかっていうと、不安な気持ちの方が大きいです」
夏美「光希!」
光希「夏美と、友だちになれたのに――本当にさびしい」
   庸介、光希の前へ出る。
庸介「これ――F組のみんなからだから」
   庸介、光希にプレゼントを渡す。
光希「(袋を開けて)これ――ボートの模型……」
浅田「佐奈田さんが、ずっとボートを見たがっていて、なかなか見る機会がないから、みんなで決めたみたいだよ」
   光希頷く。夏美泣く。

◯街(夜)
   光希を追いかけるようにして、公一歩いている。光希立ち止まる。
光希「ここでお別れ」
公一「コペンハーゲン――気を付けて」
光希「ええ。そのつもり」
公一「ボートの模型のプレゼント、実は川谷の案なんだ」
光希「えっ?」
   公一、光希を抱きしめる。
公一「(光希を抱きしめながら)水に浮かべてみて」
光希「うんうん」
   公一、光希を放す。
公一「佐奈田さん、光希、さようなら」
光希「(涙を流して)ええ、さようなら」

   (終)


シナリオか戯曲を書いてみたいと思い、実験的にチャレンジしてみました。
書き方が分からずに、何度か調べながら、追記で直しました。
つまらないですよね、気分を害されたら申し訳ないです。
また、色々なことに懲りずにチャレンジしたいと思います。
始めたことなので、最後まで頑張ってみました。

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