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お別れの言葉は言っても言っても言い足りない

お別れの言葉は言っても言ってもいい足りない—。

無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記/山本文緒

山本文緒さんの著書「無人島のふたり-120日以上生きなくなちゃ日記」を読んだ。あまりにも素晴らしい本だったので、今急いで感想を書くことにした。

本当のところ、タイトルに惹かれ、なにか旅をテーマにしたお話なのだと思った。装丁が美しくて、あらすじも読まずに買ったのだった。少し前に読んだ「自転しながら公転する」はとても面白かったな、と思いながら。

ここ最近はあまりまとまった時間が取れずに、1冊の本を少しずつ読み進めていたのだけれど、夕暮れ時に一気読みをした。

そしてこの本が、余命を宣告された著者がつづった日記だったと知った。読み始めると、想像していたものと全く違うものであることに気づき、軽い気持ちで本を手にしてしまったことを、ちょっとだけ後悔をした。

山本文緒さんは、こうして出版するつもりで書いていたのだと思うけれど、それでも、どうにも言葉がストレートでありのままの想いを受け取った。受け取った想いをどうしようか、と思いながらわたしはここに記している。

読み終えて、本を閉じ、隣の部屋にいる夫を、実家の両親を、友だちのことを、考えた。

頭に浮かんだのは、ちゃんと生きよう、ということだった。よく、生きよう。ちゃんとって、よくって、なにか分からないけれど。それは誰のためでもなくて、でも自分のためというのもちょっと違う気がした。

やろうと思えばできることなのに、なんとなく忘れてしまうこと。明日でいいかな、今はやめとこう、黙っておこう、と思ってしまうことが毎日たくさんある。なにを恐れているのかも分からずに。そういうことを後回しにしないこと。それが今思いつく、わたしのちゃんと生きる方法かもしれない。

今、やらなくてもいいこともたくさんあるし、今、やったほうがいいこともたくさんある。その優先順位はきっと人それぞれで、だから難しい。

優先順位が目に見えて分かれば楽なのだろうけれど、そうはいかない。いつもわたしたちは何が一番大切なのか、自分たちで決めなければならない。そしてさらに、それはいつも変わっていく。刻一刻と。

優劣をつけていく作業はすごく残酷だと思うし、そんなことをしなければならないなんて、生きていくのって本当に大変だなと思う。

いつもひとつの答えにたどり着くことはきっとできないし、自分の本心を知ることは至難の業なのだろう。それでもやっぱり思うのは、正直な自分でいたい、ということ。月並みな言葉だけれど。正直素直、それが最強だと分かりつつ、歳を重ねるごとに少しずつ容量が良くなってきて、遠ざかっていたような気がする。

まだまだできない。しかし、そうしたいと思う。山本さんの本を読んでより一層、そう思った。すぐにはできないけれど、心から強くそう思えたことがわたしの進歩だった。

きっと人は、自分の人生に「もう満足だ」と生きている間に思える日は来ないのだろうと思った。もう十分、なんてきっとない。仕事も、恋愛も、友情も、いつだってもっともっとわたしたちは満足をしたい。もっともっと自分の夢や理想を叶えたい。そして、もっともっと、と思うことは悪いことではない。読みながら、悲しかったのに、温かくて、安心する本だった。

山本文緒さんの生きなくちゃ、の想い。素敵な本を世に残してくれてありがとうございます。

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