初めて彼氏ができた話④
こんな恋人ごっこ、さっさと終わりにしたい。
けれども、初めて彼氏ができた私にとって、お別れするときはどんな言葉をかけたらいいのか、わからなかった。
そんなこんなで、もうすぐ付き合って3ヶ月になりそうだった。
長引かせるほど、情がわいて別れにくくなるような気がして、早くこの状況から抜け出したかった。
その日も、惰性でデートへ行った。
ランチだけしてすぐ帰る・・・はずだった。
ランチの後、彼は突然、”ラブホへ行ってみたい”と言い出した。
一度も行ったことがないそうだ。
残念ながらファーストキスは奪われてしまったが、それ以上の”初めて”をこいつに捧げたくない。
”明日仕事だから、早く帰りたい”と告げるも、ニートの彼には響かず。
話しながら歩いていると、とうとうラブホの前まで来てしまった。
”何もしないですぐ帰るから”
そう念を押す彼。
私は必死で断り続けるものの、彼はいっこうに諦める様子がない。
このままでは、平行線をたどるだけ・・・
私は困り果てていた。
すると、彼は突然、1人でラブホの中に入っていってしまった・・・!
目の前で起きている出来事が、にわかに信じられなかった。
たぶん、今の私だったら、彼を置いて1人で帰っていただろう。
しかし、当時の私は、恋愛経験もほぼなく、1人ぼっちでラブホの前に立たされているだけで心細く、罰ゲームのようだった。
私はとっさに中に入り、彼の元へと行ってしまった。
彼はにこやかに私を迎え入れ、
”一番安い部屋は空いてないねぇ~”
ここでも倹約ぶりを見せつけた。
もうどうすることもできずに、部屋へ。
初めてのラブホは、狭くて薄暗くて、たばこ臭かった。
扉を締めた瞬間、カチャッと鍵の閉まる音がしたのが気がかりだった。
ベッドを勧められ、
”せっかくだから、ね♡”
と、寝そべるよう誘導される。
男の言う”何もしない”ほど当てにならない言葉はない。
それは万人の共通理解事項だったらしい。
ゴムをつけるのに恐ろしく手間取り、ろくな前戯もなく、突然挿れようとしてきたものだから、びっくりした。
(絶対にこいつとするのだけはごめんだ!)
とっさに、
”痛い!”
と大声を出して、中断させた。
幸い、洋服は着ていたので、全裸を見られずに済んだことは良かった。
この日の出来事を境に、私の中で何かがプチッと切れた。
ニートで継続性もなく、キスはべとべとで気持ち悪い、食事中の咀嚼音がうるさい、そもそも全くもってタイプではない。
いくらデートを重ねても、好きになる兆しは全くなかった。
これ以上お付き合いするのは無理だ。
デートのお誘いが来ても、”予定がある”と断った。
そうこうしているうちに、私は別な人から告白された。
あの一件以来、彼とは会うこともなく、電話口でお別れを告げた。
引き止められもせず、とてもあっさりだった。
情が移ったのか、なぜか私の方がえんえん泣き出してしまった。
そんな私のことを、彼は笑っていた。
こうして私の初めての彼氏とのお付き合いは、あっけなく、幕を閉じた。
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