八代亜紀「夜のアルバム」(2012)
今週は八代亜紀さんの訃報が届きました。
我々世代にとっては演歌の女王という印象の方。そして個人的にはハスキーで歌が抜群に上手い美人演歌歌手とのイメージしかありませんでした。
ところがX(旧ツイッター)のタイムラインを見ていたら、彼女が元々はクラブシンガーで、ジャズを愛していたこと、たまたま演歌というフィールドで成功を収めただけだったということが分かり、更にnote仲間のマグさんの記事を拝見、彼女がジャズ・アルバムも発表していたことを知りました。
松田聖子も「SEIKO JAZZ」というジャズアルバムを発表してますが、こちらは甘口過ぎて、松田聖子好きの私でも、ちょっと残念と感じましたが、八代亜紀さんのこのアルバムは、どうなんだろう。
タイトルからして、魅力的ですよね…。そしてこのジャケット…。更に私の興味を引いたのはプロデューサー。誰であろう、なんと小西康陽!
これはチェックせずにはいられない…。
まず聴いた第一印象が激シブ…。これもまた好き嫌いが分かれるであろうアルバムと感じました。
ということでまずは本作中、一番聴きやすい⑫「虹の彼方に」をどうぞ。
まず申し上げたいのは、このアルバムは絶対に夜に聴いて欲しいこと。このアルバムの良さが分かってくると思います。
この「虹の彼方に」、何も情報がなく一聴すると、歌っているのが「八代亜紀」とは分からないかもしれません。ハスキーなジャズ・ヴォーカリストという感じ。そして失礼ながらも意外に英語が上手いし、とにかく(当たり前ですが)歌が抜群に上手い。間奏のギターも味わい深いですね。
本人はもともとこの曲は自分には合わないのではと思い、歌うのを躊躇っていたとのこと。それを小西さんの強い推しで収録が実現。実に彼女のヴォーカルにピッタリ合ってますよ。
本作はスタンダードジャズのナンバーと昭和歌謡曲がバランス良く収録されてますが、個人的にはやっぱりスタンダードジャズが好みです。
アルバム・トップはあまりにもスタンダードな①「Fly Me To The Moon」。彼女は本作発表の翌年、なんとニューヨークの名門ジャズクラブ「バードランド」でライブを行ってます。その時のダイジェスト映像をアップしておきます。最初に「Fly Me To The Moon」が歌われてますが、実に堂々と、しかも楽しそうに歌ってますね。そして次はなんと「雨の慕情」のジャズバージョン。ちょっとボッサな感じが実にいいんですよ。
そしてこの映像、3曲目にはなんとヘレン・メリルが登場!
八代亜紀さんはヘレン・メリルに憧れていたらしいのですが、そのヘレンとの共演が実現。曲は「You'd Be So Nice To Come Home To」。この時へレンは82歳。ヘレンのヴォーカルも凄いが、それに渡り合っている八代亜紀のヴォーカルが更に凄い。是非、このシーンはチェックしてほしい。
ちなみにこの後の「舟歌」も圧巻です。
八代亜紀さんの故郷である熊本県に伝わる子守唄の「五木の子守唄」と、1965年の映画「いそしぎ」のテーマ曲として書かれたポピュラーソングをメドレーとして繋げた④「五木の子守唄~いそしぎ」。
如何にも小西康陽が考えそうなアイデアが素晴らしい。この2曲、出だしが同じらしい。それに着想を得て、見事に繋げてしまったもの。
イントロの仰々しいオーケストラ、何か始まる予感…、アコギをバックに「五木の子守唄」、そして1分辺りで「いそしぎ」へ…。見事なメドレーです。
ジョージ・ガーシュウィン作、洋楽ではジャニス・ジョプリンが歌ったことでも有名な⑤「Summertime」。
ヴィブラフォンが夜の音楽のムードを醸し出してますね。間奏のギターもジャージー。渋いです。このムーディーな中にあって、彼女のハスキーヴォイスが闇夜に響く…という感じです。
メキシコの作曲家、パブロ・ベルトラン・ルイスの作品の⑦「Sway」。
メキシコのスタンダードポップスですが、1954年にディーン・マーティンがカバーしたことで、世界的に有名になった曲。
ラテン・ジャズって感じですよね。ちょっと怪しげな感じもするナンバーですが、こちらも囁くような、それでいて感情がストレートに伝わってくるような八代亜紀のヴォーカルが素晴らしい。
八代亜紀さんといえば、やはりマーティ・フリードマンとのメタルコラボが有名ですね。アップした映像では「Fly Me To The Moon」も歌ってました。
八代亜紀さんがこれほど多彩な方であったとは知りませんでした(皆さん、既にご存じだったのかもしれませんが)。またかなり天然でお茶目な方。ジャズを歌っても魅力的で素敵な方だったんですよね。
様々な訃報が届く今日この頃、素敵な音楽を聴きつつ、気持ちを穏やかにさせていきたいものです。
八代亜紀さんのご冥福をお祈り申し上げます。