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僕たちの「ライカはローリング・ストーン」はなにか。 | 20世紀生まれの青春百景 #45

 わたしは作詞家・松山猛さんをもっと知ってほしいとずっと言っている。

 おそらく四十代以上の方にとっては「POPEYEやBRUTUSの編集者」と言った方が通りがいいんだろうけれども、ザ・フォーク・クルセダーズやサディスティック・ミカ・バンド、一連のソロ作品など、加藤和彦さんと共に創り上げた作品群は今も色褪せない魅力を放ち続けている。

 そんな加藤さんとの仕事の中で、わたしがもっとも好きな作品に挙げたいのが2002年のザ・フォーク・クルセダーズの新結成時に制作されたアルバム『戦争と平和』の中に入っている「ライカはローリング・ストーン」だ。

 2000年代に入ってからの“ふたつの再構築”にも松山さんは作品を提供した。この「ライカはローリング・ストーン」とともに、木村カエラさんをヴォーカルに迎えた2006年のサディスティック・ミカ・バンド(Sadistic “Mikaela” Band)にも「Big-Bang,Bang!!(愛的相対性理論)」を提供しているが、そちらも良い作品なのでぜひ聴いてほしい。

 話を戻すが、「ライカはローリング・ストーン」の鍵になるのが“憧れ”という言葉である。ライカ、マーチン、カルティエ、パートナー(作中では“ワイフ”)などが例に挙げられるけれども、そこには松山さんの言語感覚がふんだんに取り入れられている。カルティエを取り上げたパートは松山さんの時計愛好家としての偏愛が垣間見えるようなフレーズが並ぶが、過去の実際のエピソードを忠実に振り返った作品ではないのに、あの頃(すなわち70年代)のメンバーや情景が活き活きと浮かんでくるのは松山猛さんの作詞家としての凄みだ。

 そもそも、曲名自体がボブ・ディランの『Like a Rolling Stone』にオマージュを捧げたものだが、ザ・フォーク・クルセダーズの中心的存在であり、この楽曲の作曲を手がけた加藤和彦さんはアメリカから楽譜を直輸入するほど、音楽家になるきっかけのひとつとしてディランの存在を挙げている。カヴァーを含め、力作が並んだアルバム『戦争と平和』の中でもひとつの山場としてこの楽曲は据えられた。

 わたしがもっとも好きなのは、長年連れ添ったパートナーに感謝を述べる最後のパートだ。加藤さんがここを歌うと、どうしても安井かずみさんの光景が思い浮かんでしまうが、作中のパートナーのことを松山さんは「アンティーク」と表現している。

 高度成長期が永遠のものと思われた時代、その末期を飾ったのがフォークソングの季節である。ザ・フォーク・クルセダーズは革命的存在として音楽シーンに登場し、幼少期に憧れていたモノや様式を手に入れていった。2000年代に入り、これらの出来事が歴史として語り継がれていこうとしている時、この楽曲の登場は本人たちによる一種の回顧としても、特別な意味合いを感じられるし、当事者のひとりである松山さんが綴ったからこそ、より大きな説得力を持つようになった。

 そして、わたしたちは「ライカはローリング・ストーン」の主人公のように、何かや誰かに憧れているのだろうか。すべてを掴み取ったような気になっていないか。転がる石のように時代は変わっていくが、その中で何ができるのか。あらためて、自問自答しながら歩んでいきたい。

【筆者について】
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 2024.5.17
 坂岡 優

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