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プロバンス号からの招待状 | Go Ahead -僕の描く夢- 第3回

人生におけるターニングポイント。まさしく、そうだと思う。九年前の春、学級文庫から取り出した一冊の本。わたしのヒーロー好きはここから始まったのかもしれない。当時、まだウルトラマンにも、アルフィーにも出逢っていなかった。すべての始まり、今回はそんな「アルセーヌ・ルパン(作:モーリス・ルブラン)」の話をしていきましょう。

「アルセーヌ・ルパン」をヒーローと捉えるか、アンチヒーローと捉えるかは人によって様々だと思います。わたしは、南洋一郎さんの訳されたポプラ社版の印象が胸に焼き付いているので、「アルセーヌ=ヒーロー」という図式が強いんです。

そもそも「アルセーヌ・ルパン」って、怪盗ものとしては異例の導入なんです。いきなり主人公が逮捕されちゃう。普通の怪盗ものなら、主人公の盗賊の自己紹介がわりの活躍を描く作品を第一作に持ってくるものですが、もう一度言いましょう、いきなり逮捕されちゃう

このルパンが逮捕される話は「ルパン逮捕される」というタイトルで、短編集「怪盗紳士ルパン」の第一作としてテレビドラマで言う「第一話」の役割を果たしています。この「怪盗紳士ルパン」には、逮捕されたルパンの獄中の話、脱獄の話、シャーロック・ホームズ(※1)との出逢いなど、序盤シリーズの核となる要素も多く詰め込まれていて、これから「ルパンを読み始めるぞ!」という方にはイチオシの作品です。

それまで、わたしはまったく小説を読んだことがありませんでした。小学校のときの国語の成績はそこそこでしたが、授業はとてもつまらないものだと感じていたのを覚えています。でも、これは単純に面白い物語というものを知らなかっただけだったんですね。このルパンシリーズとの出逢いが一種の開眼というか、自分を小説の世界に引き込むきっかけになった。ほんとにこれは大きかったし、そこで感じたもの、手にしたものは、かけがえのないものになりました。

今でも、日本の小説より海外の小説の方が好きだったりします。いわゆる“訳もの”なんですが、いつか原文で読むのがちょっとした夢です。そのために、少しずつフランス語を勉強していたりもします。やっぱり、学ぶきっかけを作るというときに、好きなものの存在は大きいんですよね。友人も似たようなことを言っていましたが、推しのためならなんでもできる、というか。(......それは言い過ぎでしょうか?汗)

まあ、さっきの話は一度放り投げるとして。

わたしが最初に読んだのは、南洋一郎さんが訳されたポプラ社版のものなのですが、出来るなら、皆さんには原書に忠実な全訳版を読んでもらえたらなぁ...と思っています。

ポプラ社版なら読んだことがあるという方も多いかもしれませんが、あの訳って、他の会社のものと全然違っていたりするんです。もっとも顕著な例は「813」でしょう。なにしろ、二冊の本を一冊に圧縮していますからね。他にも圧縮しているものは多くて、「三十棺桶島」や「虎の牙」などもそれにあたります。

圧縮しているだけならまだ良いのですが、「ルパンの大作戦(原題:オルヌカン城の謎)」などはストーリーそのものが大きく変わってしまっています。これはびっくりしました。てっきり、原作でもがっつりルパンが活躍しているものかと......(これ以上のネタバレは避けておきますね)

まあ、そんなこんなで、いろいろ書きましたが、結局のところ、一番読みやすいのはポプラ社版なんです。すべての世代にわかりやすくリライトされていますから、このシリーズで概要を叩き込んで、ストーリーをある程度理解したところで完訳版を読むのも良い手だと思います。実際、わたしはこのやり方でシリーズを読み通しました。

唯一残念なのは、「女探偵ドロテ」や「ルパンの大財産」など、シリーズ番外ものやシリーズものでさえも、現在は気軽にリライト版を読めない作品が出てしまっていることですね。「ピラミッドの謎」やボワロ・ナルスジャック作のパスティシュ作品なども読んでいたのですが、今はシリーズに関係なく、そもそも作者がルブランではないということで、全集から除外されています。もう一度読んでみたいとは思うのですが、高校生の懐ではむずかしいところです。

最後にはなりますが、やっぱり、ルパン三世が好きな方には、アルセーヌの方のルパンの方も読んでいただきたいな......と強く思います。「カリオストロ伯爵夫人」や「青い目の少女」など、劇場版やアニメ作品に大きくリンクした要素が含まれている作品も多いので、また違った視点から作品を楽しむことができるはずです。ちなみに、「ルパン三世 カリオストロの城」に登場するクラリスは、アルセーヌの方ではルパンの婚約者だったりします。(もちろん別人ですけどね...)

ルパン愛が高ぶって、かなりの長文になってしまったことをお詫びいたします。また、このエッセイをきっかけに、少しでもアルセーヌ・ルパンのファンが増えてくれることを心から願っています。

今日もどこかで、あのプロバンス号と同じような事件が発生しているかもしれません。でも、ご安心ください。きっと各国の“警部たち”が“ルパン”を捕まえてくれますから。それでは、良い旅を。Au revoir...

※ 1 ) 海外版では著作権の都合上、「エルロック・ショルメ」もしくは「ハーロック・ショームズ」として登場しています。助手のワトスンも「ウィルソン」です。日本ではほぼ「シャーロック・ホームズ」表記ですが、森田崇さんの「アバンチュリエ」という漫画では「ハーロック・ショームズ」という表記で登場しています。森田崇さんの漫画シリーズはシリーズが連続ものとして展開されていくので、とても読みやすく、初めての方にもオススメです。

【今回紹介した作品】


2019.01.22
Yuu

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