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わたしの人生に夢中でいたい

付き合って1年と半年。同居人のいる恋人の家に住み着くようになって1年。一人暮らしをしていた家を引き払い、3人暮らしを始めて半年。3日後、わたしは3人で暮らしている家を出る。

恋人の浮気が分かったのは、4か月前。わたしがちゃんと精神科で鬱の診断をもらった時だった。仕事、恋愛、友人関係、ぜんぶのバランスが取れなくなった。夜の徘徊を始めて、オンラインツールでネット上の友人をたくさん作った。でも、いくら歩いても、だれに会っても、なにを食べても、わたしは満たされず、泣くこともできず、絶望の毎日をただなぞることしかできなかった。散歩の途中に川をのぞき込んでは、「溺死が一番しんどい」という友人の言葉を頭の中で繰り返した。「このまま川に飛び込もうかな」と恋人にLINEで送ると、「探すのが大変だからやめて」と言われた。0時になって家に帰ったとき、恋人はわたしの言葉を冗談半分で受け止めていたのか、携帯ゲームをしながら横目に一言「おかえり」と言ったきりだった。あの時すでに、もう浮気は始まっていたのかもしれない。なんてことを考える回数が増えて、自分が嫌になった。三人暮らしの家に帰ると、吐き気がするようになった。わたしの居場所は、会社にも、家にも、どこにも、なかった。

恋人と離れない理由を考えたとき、「でも同棲を始めたばかりで、今どこかに移動するお金なんてないし・・・」という言葉が真っ先に浮かんだとき、別れることを決意した。でも、本当に次の居場所なんてなくて、別れる準備をしながら、ずっとわたしは次の居場所を探していた。
居場所はたぶん、どこかや誰かではなく、今の自分を受け止めること、わたしの心に正直に、好きも嫌いもちゃんと大事にできることだと思った。飲みの回数を増やし、色んな場所に色んな人とお酒を飲みに行った。お金が、と言い訳をして買わなかった本をたくさん買った。あきらめていたライブやフェスに行った。また今度会うことにしていた人に会った。ずっと落ち着かせていた髪型を大きく変えた。

相変わらず、わたしは恋愛をすると盲目になる、と別れが近づくたびに気づかされる。仕事も、恋愛も、のめり込んで盲目になる。突然イトが切れて、絶望する。でも、結局ほかのイトがわたしを助けてくれて、というよりは最初からあって、ただわたしが気づいていなかっただけで。視野が広がったとき、わたしはまた強くなったふりができる。

決心したその日、わたしは恋人に別れを告げた。
そのあとすぐ、新しい恋人ができた。

本気の恋愛だ、とはいっても都合がよすぎるタイミング。了承してくれた相手のことも、この決断をした自分のことも、信じたいのに信じきれなくて、ずうっと夢の中にいる気持ちだった。3人暮らしの家が耐え切れなくて、家を出るタイミングで新しい恋人と暮らすことにした。付き合って1ヶ月もたたないうちに物件探しが始まって、家が決まって、引っ越しの手配が進んでいる。

‘元’恋人と別れることを決めた日から、なにも見ないように、マイナスな感情に飲まれないように、前だけを向いた。元恋人の顔を見たくない日は外で寝泊まりして、疲れた日は外から電気が消えたことを確認して帰宅し、布団にもぐりこんだ。それでも元恋人は一緒に眠っていた時の癖が抜けなくて、わたしの存在を感じると体温を確かめるかのようにぎゅっと体をだきしめて眠る。わたしが帰ってこなくても、元恋人は3人分のご飯を作って冷蔵庫に入れてくれていた。乱雑に置いた洗濯物もきれいに畳まれて、ベッドはいつも半分空けてくれていて。お休みの日には二人が大切にしていた趣味を一人で楽しんで、わたしの分までお土産を持ち帰ってきてくれる。元恋人のやさしさと、愛に気づきたくないのに、抱きしめられた手を振りほどくことができず、泣きながら眠る。

こんなことを、こんな感情を、整理してしまうと今の恋人に失礼になる。そう思って蓋をしていた感情が、引っ越し3日前になって急にあふれだしてしまった。目を背けていた自分のこと、押し返しきれなくなった。もう帰ってこない家、もう会うことのない元恋人、もう過去にしなければならない記憶、いろんなものが「まだ」整理できていなくて、そのまま前に進んでいる、本当にこれでいいのか。整理しないことで、わたしは強くなれるの?

なんて考えて、やっと、わたしは過去を置き去りにすることで目の前の恋人のことも、今のわたしのことも全然見ようとしていないことを知った。失礼だと思った。悲しいと思った。今を生きろって、言ってるけどさあ、わたしは今を見ているわけではなくて今を見るしかなかったんだね。全然わたしは強くなかったんだなあ。

好きではないとか、都合がよかっただけとか、そんな気持ちは一ミリもなくて。本当に恋人のことが大切で、自分が大好きなわたしが、自分よりも大切にしたいような存在で。でも、それでもまだ、わたしは過去を捨てきれていなくて、目の前の恋人を大切にできていない。

わたしの負債。心のストッパー。4月に気づいた浮気のこと。鬱の大きな要因になった仕事のこと。どっちも整理しないまま、都合よく解釈して、解釈のまま放置。元恋人に別れを切り出すことで環境は変わったけれど、心の負債は取り切れていない。仕事に対する疑いも、お給料が必要だから、今の環境にもいいところがあるから、と、いいところ探しでごまかしている。

やだなあ、見たくないなあ、苦しいなあ。
好きだった、人のことをいきなり嫌いになれるわけなんてなくて、
好きだった、仕事のことをいきなり否定できるわけなくて、
好きだった、人との記憶をすべて思い出で片づけられるわけなくて、
好きだった、仕事をちゃんとしている自分をことを捨てられるわけなくて、

決断を無視して苦しくなっている自分のことがいやで。
進んでいるのに、苦しいまんまだ。

ずうっと、夢中がいいんだ、人生。
自分に夢中でいたい。自分の生き方に夢中でいたい。
元恋人との関係が続くことは、自分にとって格好悪かった。苦しんでいる自分を無視して、できない言い訳をたくさん並べて、愛があるから、と受け身になっているわたしのことがかわいそうだった。悔しいのは、お前のせいで苦しんだ、お前のせいでこうなった、と言い切れないぐらい、元恋人のことが大切だった、自分のこと。格好悪いぐらい、ちゃんと大事だったんだ、くそー。

喫茶店で夢中になってipadに文字を書き込んでいるおじさまがいた。あの人はなんの仕事をしていたんだろう。それとも趣味だったのかな。なんにせよ、今のわたしにはあれほどのめり込めるものはない。あっても、ほかのことを言い訳にして、できない自分を選択する。なんて恰好悪いんだ。

「キャリアは最初が重要で~」と語る毎日。きれいなオフィスで、それっぽい化粧をして、高速でキーボードをたたく。理想のキャリアウーマンになるのは簡単だった。上司も、同期も、部下も、関係を作り始めるのは簡単で、継続しようと思った瞬間にいやなことがたくさん。それでもギリギリを攻めて、またいい顔をする。お休みをもらって、お給料をもらって、偉い人の機嫌をとって、「いい」仕事をする。できてしまう。
これって、わたしの夢中になれる人生なのかな。
「やりたいことのために、やりたくないことをする」
いまのわたしって、やりたくないことをした先のやりたいことって、一体なに?

自分らしさを追求した人たちの仕事の本を読んだり、
一人で仕事をしている人に会いに行ったり、
世間から受け入れられない生活をしている人に興味を持ったり、

そういう、自分の素直な興味の先が、わたしにとって「夢中」の原点なんだろうな。

恋人との新居。レイアウトは恋人に任せている。わたしの時間がちゃんと取れるように、と恋人がわたしが一人になれるスペースを作ろうとしてくれている。愛について、苦しんで始めたnote。わたしは少し愛について知った気がしている。

社会人になってすぐ言われてから抜けない
「あなたには自己愛が足りないね」という言葉。

まだわたしは、わたしを大事にするのが苦手らしいです。
はやく、わたしの人生に夢中になってわたしに毒されていたい。

さようなら、元恋人を愛していたわたし。

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