🍥燻製麻婆豆腐🍥
摂取することによって顔中から汗が噴きだし、口の周りがわなわなと痺れ、体調によっては胃腸にも禍を齎し、Exitを通過するその時まで凶暴さを失わない。
食事でありながら劇物としての側面を持ち、恐ろしいまでの依存性まで孕んでいる蠱惑の液体。
それが、麻婆豆腐だ。
こんな反社会的なお汁には、灸を据えてやりたくなるのが人情というものである。
しかし、実際に灸をして麻婆豆腐の血行が促進しベキバキと活力が漲り、人類に更なる暴虐をふるう可能性もあった。
ここは灸を焚かずに、ミズナラを焚いて煙責めの刑に処することにしよう。
熱燻で火通しもする方法もありだが、香りの強い料理の場合は燻香が埋没してしまう傾向にある。使う用途によって燻製方法を分けるのが良いだろう。
そして、燻製硫黄島唐辛子で辣油を作っていく。
太白ごま油にネギ頭、生姜、にんにく、花椒、鷹の爪を投入し、弱火で煮出していく。
え?分量だって?
それは…その、アレだ…長年の経験則だ。
しっかりと油に風味を移し、揚げガラを取りだす。
粗挽きのミルにかけた燻製硫黄島唐辛子に焦げ防止の水を少々混ぜ込み、熱々の油を注ぐ。
唐辛子に油を注ぐ作業は屋外で行った。部屋でくつろぐ妻子をカプサイシンの瘴気から守るためだ。
前記事でも触れたが、硫黄島唐辛子のスコヴィル値はハバネロの4倍とも言われている。
たとえばあなたが出掛けるとき、靴のサイズが4倍の大きさになっていたら「悪い夢ならどうか醒めてくれ」と思うだろう。
それと、同じことだ。
ん?何を言っているかわからないだって?
問われても答えようがない。私にだって解らないからだ。
諸事情によりレシピは省くが、大人が本気で作った麻婆豆腐の仕上げに、燻製辣油をたっぷりと回しかけ、すり潰した花椒をぺぺっと撒く。
おお…なんだこれは…
麻辣地獄じゃないか。
ひと口含むと、あまりの刺激に「初恋」と脳裏に浮かび、そして消えていった。
せっかく苦労して作ったのだ。初恋で終わってしまうにはあまりにも勿体ない。
もうひと口に含み、強烈な麻と辣のなかを探訪していくと、この一品のなかに込められた複雑玄妙な味わいを感じる。その味の坩堝のなかに、煙も一味として機能しているのが燻製家としては嬉しいところだ。
おっと…味を追うのはここまでにしておこう。
ここからは、汗も拭わずに麻辣に溺れる時間だ。
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