見出し画像

西んソバ

ちょっと古い話になるけれど、昨年のはじめに書いた子供の冬休みの宿題のこと。お雑煮と正月料理について調べる課題があった。

次男の冬休みの宿題に、お雑煮と正月料理について記録しましょうというのがあった。昨年とちがって、わたしの実家に帰省しているのでしっかり記録できる。この課題が今年でよかった。昨年はお雑煮をつくってもいない。

2022年1月9日付け拙note「年末年始は白昼夢のように」より

お雑煮は全国津々浦々で年始に食べられる国民食。それだけに地域色が豊かなので、毎年のようにその違いがどこかで紹介されている。

首都圏には全国から移り住んだ人が多いからなのか、こうした宿題には各家庭のルーツが反映されていて興味深い。

昨年書いていたように、わたしの実家のお雑煮は白味噌仕立て。次男のクラスメートにはほかに白味噌のお雑煮の家庭はなかったようだ。

わたしは生まれこそ瀬戸内だけど、小学校〜高校の十数年を過ごした滋賀県大津市を自分の故郷として認識している。父がおなじ滋賀県の彦根市の出身なので、白味噌のお雑煮は彦根のレシピかと思っていた。どうやら白味噌ベースのお雑煮はそこまで限定的ではなく、京都と滋賀あたり一帯のものらしい。

なお母の出身の岡山県倉敷市はすまし汁タイプ。瀬戸内海に面しているだけあって海の幸がふんだんに入っていたとか。それも美味しそうだ。

年末年始に一般的な食べ物としては、年越し蕎麦もあげられる。こちらはシンプルだからかお雑煮のようには比較されないようだけど、とうぜん地域差はある。

わたしの実家の年越し蕎麦はにしん蕎麦。薄口醤油のおつゆにニシンの甘露煮と三つ葉ののったスタイルだ。

noteのネタになるかもと思いたち、食べ始めてから撮影した年越し蕎麦。

年越し蕎麦を食べつつふと気がついた。東京ではまだ鰊蕎麦を食べていないかも?!

なんとなく年越し蕎麦のイメージしかなかった鰊蕎麦、別に普段から食べても良いんだよなぁ・・・と気がついた。

そう思うと無性に食べたくなるものだ。さっそくその週末に食べることにした。

帰省から戻ってすぐ、買い物に出た先で蕎麦を買った。売られていたのは東北地方の蕎麦。そしてスーパーで見かけた身欠きニシンの真空パック。

蕎麦を茹で、付属のおつゆを希釈する。ざるそばならそのまま、かけそばなら○○ミリリットルの水でと書かれてあったので気持ち多めに。真空パックを開封してなかのニシンを放り込む。ああ、三つ葉を買い忘れていた・・・ので、冷凍保存していた薬味のネギを添えてみた。

作ってみた鰊蕎麦。蕎麦のセットにニシンを放り込んだだけ。

・・・なんか違う。美味しいのだけど、何かが違う。

わかっている。おつゆの出汁だしが違うのだ。おおきくわけて東日本は濃口醤油で西日本は薄口醤油。だから希釈したのだけれども、東西の味の差は濃度の差ではない。味そのものが違う。

そんなときこそネット検索。出雲そば本田屋さんのネット記事がヒットした。

関東のそばつゆの場合はしっかりと醤油が利いており、醤油の濃厚な風味がポイントに。

一方関西のそばつゆの場合は、昆布だしの利いたマイルドな味わいがポイントではないでしょうか。

出雲そば本田屋「関東・関西でみる「そばつゆ」の味の違い」より

昆布だし!

そう、本田屋さんによると「もともと関西圏では昆布がよく食べられていた背景もあり、鰹節と昆布でだしをとり、薄口醤油で味付けするそばつゆが主流となっていったようです」とある。

わたしは関東風の出汁を薄めただけではないか。それでは旨味が足りていない。まったく足りていない。かろうじてニシンの甘露煮の甘みが貢献してはくれただろうけど、昆布出汁はどこからもやってこない。

関西で売られている蕎麦についてくるおつゆはすでに昆布出汁がきいているのだろう。ところが文化の異なる関東で売られているおつゆは鰹出汁と醤油。「なんか違う」の正体はここにあった。

次は昆布出汁をとるところからやらなくては。

上に引用した「東京ではほとんど見かけない」というわたしのツイートには続きがある。

Wikipediaには鰊蕎麦は北海道と京都府の名物料理と紹介されていて、そのほかに「京都市に近い滋賀県大津市をはじめ、飛騨高山、JR福井駅とJR立川駅の立ち食いそばなど、他地域でも個別のそば店では提供している例がある」との記述があったため、どのくらい限定的な存在なのかが気になった。

追加ツイートしたように、職場に長浜出身の同僚がいる。湖北に位置する長浜市は大津とは離れているけど、彦根からは近い。

わたしが訊くまでもなく、その同僚をふくめた数名が年越し蕎麦について話していた。そこにわたしも同席していた。やはり長浜でもにしん蕎麦。関東出身の同僚たちは一様に鰊蕎麦の存在に驚いていたから全国区ではないことは明らかだ。

東京では鰊蕎麦は食べられないのだろうか。

そこでふたたびネット検索。ほんとうに便利になったものだ。きちんと鰊蕎麦を提供するお蕎麦屋さんが表示される。

そんな貴重な店舗のひとつがなんと職場の近所にあった。手打ちそば 御徒町 吉仙きちせんさん。

ここにはお昼に行ったことは何度もあるのだけど、冷やし蕎麦を注文することが多くて、鰊蕎麦にまでたいして注意を払っていなかった。江戸前の二八せいろそばを売りにしているようだけど果たしてお味は?

幸いにして吉仙さんに行く機会はすぐにおとずれた。

吉仙さんの京都にしんそば

メニューには京都聖護院と書かれてあった。おつゆはたっぷり。色は薄く、明らかに東京の蕎麦とは違う。もちろん味は甘み旨みがほどよくからむ上品さ。これだ。これこそ鰊蕎麦。鰊蕎麦には関西のおつゆ。

蕎麦そのものの味を引き立たせる関東風のそばつゆだと、ニシンの甘露煮には合わないのかもしれない。

関西は蕎麦文化ではなく、うどん文化だ。うどんのほうが一般的で、ビジネス街では立ち食い蕎麦よりも立ち食いうどんのほうが多い。うどんには、飲み干せるような薄い昆布出汁のおつゆのほうが合う。

鰊蕎麦は珍しく京都に根付いた蕎麦だけど、ニシンの甘露煮は昆布出汁のうどんつゆとの相性が良かった。そういうことなんじゃないかと思う。

Wikipediaによれば鰊蕎麦は北海道の名産でもあるという。ニシンの産地だからだ。わたしは北海道にはあまり縁がないのだけど、訪れる機会があれば北海道の鰊蕎麦も食べてみなければと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?