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『Terra Nil』感想:荒れた土地を森や動物でいっぱいにして、最後に「立ち去る」。シンプル&コンパクトな"逆"都市開発シム

昔からある都市開発フォーマットなのに、人生で初めての快感。
都市を開発せず、自然を豊かにする。
そして、「立つ鳥跡を濁さず」な、穏やかな切なさ。
落ち着いて没頭できる、面白さと癒しの作品でした。



よくある「都市開発系ゲーム」のような手触り

私が初めて都市開発系のゲーム、シミュレーションに触れたのはおそらくスーパーファミコンのシムシティ。発電所、電線、住宅地、商業地、工業地……徐々に街が育っていくのはワクワクしたものです。

その後はシムシティ2000が家にありました。あとはA列車も遊んだし、一番最近はCities: Skylinesですね。

これらのゲームと、この『Terra Nil』の手触りはかなり似ています。

何もない土地に、まずは電力。
そして電力で動く建物を建て、そしてどんどん土地を開発していく……。
経験したことのある手順がベースになっていたので、丁寧なチュートリアルと合わせてゲームにすぐ馴染むことが出来ました。



荒れた土地を緑でいっぱいに

このゲームで行うことは、自然を生み出すこと。
荒れ果てた土地は毒素の染みこんだ土地、海で覆われています。

一番最初のステージを例に出すと……、まず初めは風力発電タービンを建造します。

あ、言い忘れましたがこのゲームの建造物リソースは……なんか自然ポイントのようなものです。初めに一定のポイントが与えられ、それを元に建造物を設置していきます。(画面左上)

風力発電機を設置したら、電力が届く一定のエリアが表示されます。
そのエリア内に、今度は「毒素除去装置」を設置。
すると、今度はその「毒素除去装置」のエリア内が浄化され綺麗になります。綺麗になる、つまり植物が育つようになるのです。

その綺麗になった土地に、今度は水を撒く機械である灌水機を設置。
これで緑が育ちました。ここで緑が育った土地分、自然ポイントが復活し、また別の建造物を設置するリソースになるのです。

それだけではなく、水路に水を流す機械、発電機を設置する岩盤を設置する機械もあります。はたまた、一度育った緑を意図的に焼くことで、焼け跡を森林生成の土壌とすることもあります。

しっかりした樹木を生成するには一定のプロセスを経る必要があり、場所の計画を考えたり機械の設置場所を考えるという部分は、比較的簡単なこのゲームでもあまり無計画に機械を設置してはいけないという厳しさであり、ここがゲームとしてのメリハリを生んでいました。

育った植物を、わざと焼く

さて、先ほど育った緑を意図的に焼くことで、森林が育つ土壌になると書きましたが、緑を焼く効果はそれだけではありません。

単純に言って広範囲の火事が発生するわけですので、気温が上昇します。
ステージによっては、気温上昇が自然回復にとって必須条件なこともあります。そりゃあ、氷点下ではなかなか植物も育ちません。僅かでも緑をどうにか育て、そして燃やすことで気温を上昇させ、それによりまた新たな、より多くの植物が育つ。

つまり、単純に建設のリソースを気にするだけではなく、気温や湿度についても意識する必要があります。この辺り、渋滞や公害、犯罪や教育を気にする都市開発ゲームではなかなか無い項目だと思いますし、あったとしてもゲームの主軸になる要素ではないと思います。

これこそ自然あふれる世界を目的とするゲームだからこそ重要性が強い要素。また、「そうか、気温(湿度)が高いとこういうメリットがあるんだ」といった気づきも得ることが出来たのは、新鮮な体験でした。

気候の変化でどのようなオプションが発生するかも見える



生まれる動物たちに感動

自然が増えるにつれ、動物たちが少しずつ増えていくのですが、それがまた嬉しい。
自分が増やした自然はただのジオラマではなく、生き物の生活の場であるということが理解できると、思わず笑みがこぼれます。

渡り鳥が飛びはじめたその嬉しさ。鹿や熊、クジラなど、ステージによって数種類の動物がおり、それぞれが自由に、自分が計画して生み出した自然で悠々自適に暮らしているのは、まさに達成感でした。

都市開発系のゲームでも、計画して作った街に人が住んだり、予想通りに道路や電車を使ってくれると嬉しいですよね。それに似た嬉しさがありました。

この動物の出現もまた、それぞれ一定の条件があるので、やりこみ要素の一つと言えます。コンプリートする必要は無いですが、それでももっと動物を見つけたくなる。プレイ欲が強くなるいい要素でした。


「立ち去る」というエモさ

そしてこのゲーム最大の特徴が、自然を豊かにした後に「立ち去る」というところ。

一定の自然を回復すると、ステージクリアへ向けた最終段階が解放されます。そのエリアから離れるためのエアシップ等が解放されるのです。

つまるところ、十分に自然を豊かにし、動物の生活する場を作ったら、あとはその作業は不要。やることが無い場所にいる必要はなく、仕事が終わったから家に帰るように、そのエリアから立ち去るのです。

立ち去るために作られたエアシップ。しかし、そのまま立ち去ることは出来ません。

自然を増やす作業をしていた自分達が立ち去るということは、自然を増やすために設置した「建造物」も不要になります。
ゲーム序盤で設置した、毒素除去装置や発電機など、あらゆる人工物を回収する必要があるのです。

このゲームにおける各ステージの最終作業は、自ら設置した建造物を無かったことにする。そのエリアを、完全に自然のみの場所とすること。

この作業がエモい。愛着の沸いたエリアから離れることも、今まで自分が作用をしてきた軌跡である建造物を回収するのも、一抹を寂しさを覚えます。
しかし、それがそのエリアの動植物にとって最善の行動であることは明らかです。

回収用のドローンを使用し、全ての建造物を回収(リサイクル)。
最終的に、自分が自然を豊かにしたという痕跡は抹消され、そのエリアを立ち去るのです。そして、ステージクリア。

クリア後にエリアを鑑賞すると、自然豊かな土地と自由に生活する動物たち。達成感と少しの切なさを覚える、心地よい体験がそこにはありました。



終わりに - 終わりのある都市開発系シミュレーション

なるべく多くのゲームを遊びたいと思う今、あまりゲームをトロコンするなど、やりこむことは少ないのが現状です。
特に、やりこむ以前に終わりが無さそうな都市開発系のゲームはあまり食指が伸びなくなっていました。

ただ、このゲームは明確な終わりが存在すること、つまりステージごとのクリアがあることがとても良かったな、と個人的には思います。
スタッフロールまでおそらく4-5時間。1ステージ1時間ちょっとで遊べるボリューム感。

だから、大規模な街づくりに気持ちよさを覚える人にはちょっと向いてないかもしれないけど、でもそういったゲームに時間を割くのが難しい人には本当にお勧めです。

やはり、こういうタイプのゲームにおいて珍しい、ちょっとしたエモさ、切なさを感じられるところが本当に魅力。シンプルでコンパクトなところはまさにインディーですが、その小ささをステージクリア型という形、そしてステージを去るという起承転結な物語としても伝わるシステムとしたのが素晴らしい。

UIや翻訳も困ることはなく、幸い詰むことも無かったので、非常に良い体験が出来ました。

自然を増やしていくことで癒しを感じ、そしてそのエリアから自分の痕跡を残さずそっと立ち去ること。動物たちから感謝されることもありませんが、その感情の距離感もまた良いように思えます。

『Terra Nil』、興味がありましたらぜひ。PCと、ネトフリアプリ経由で遊べます。自然とともに、気持ちも豊かになるゲームだと思います。


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