見出し画像

『デンパトウ』感想:テレビ番組オリジナルゲームだからと言って侮るなかれ、短編エモアドベンチャーとしてとても良作な「テレビ」のゲーム

「東京パソコンクラブ」という番組があります。
私もがっつり追いかけているわけではないのですが、乃木坂46の方がプログラミングを学ぶ番組のようです。(あまり乃木坂46には詳しくないのですが、ときどきラジオ「沈黙の金曜日」を聞いていたので、弓木さんは存じ上げていました)

本日(2024年5月19日)時点で、番組ホームページからいくつか最新回を見てみましたが、マイクラでプログラミングを活用したり、東京ゲームダンジョンで撮影されていたりと、結構本格的にプログラミング&インディーゲームへと取り組んでいるようで驚きました。
ゲームが趣味と言うと怪訝な目で見られる時代を過ごしてきた身からすると、アイドルがゲーム展示イベントに参加するなんて、凄い時代になったなあと、つい感慨深くなります。

また、インディーゲームの盛り上がりもどんどん過熱してきています。
まさに本作、『デンパトウ』が、BSテレビ東京株式会社から発売されているというところもそれを象徴しています。つまり、ゲーム事業を行っていなかった会社がゲーム事業に参入する。
事業として展望が見えたからこその参入であると思いますし、特にインディーゲーム市場への視線は熱いものがあると感じています。

さて、そんな中で発売されたこの『デンパトウ』。
冒頭に書いた番組、BSテレビ東京の『東京パソコンクラブ~プログラミング女子のゼロからゲーム作り~』オリジナルゲームです。
乃木坂の方たちが積極的に参加したというよりは、講師の方の新作インディーゲームという捉え方が正しい、ということでおそらく良いのかと思います。(番組を追いかけていなかったので、正確なところはなんとも……)

ゲームはレトロなドット絵のアドベンチャーゲーム。
色彩もセピアな感じで統一され、落ち着いた印象です。
ゲームは、なんらかの事故に遭うシーン。そして主人公が、見知らぬベッドで目覚め、「テレビに話しかけられて」ゲームが始まります。

テレビではバラエティ番組が放映されています。
明らかに『笑っていいとも!』のパロディであることは間違いありません。

そんな番組を見終えた後。
流れてきたニュースに、主人公の少年は目を奪われます。

自分は誰なのか。なぜここにいるのか。
気になるニュースが流れてきたものの、番組は途中で終了してしまいます。
困惑する主人公に、テレビは話しかけます。

テレビを見るには「デンパ」が必要であると、テレビから教えられます。
そしてここから、少年とテレビによる「アンテナ農場活動」が始まるのです。

テレビを見るためには「デンパ」が必要です。
では、どのようにしてデンパを集めるのか。
そのためには、「アンテナ」を育てる必要があります。
アンテナを収穫することで、「デンパ」そして「アルミニウム」を得ることが出来ます。
アンテナは「アンテナの苗」から育ちます。アンテナの苗は、アルミニウムを使い作ることが出来ます。
また、アルミニウムは、収穫の効率を上げる道具の強化に使用することが出来ます。
アンテナを育てるには、手持ちのパラボラアンテナで空中の電波を集め、それをアンテナに吸わせて育てるのです。

ざっくりですが、できる行動は下記の通りです。
①アルミニウムを手に入れる
②-1 アルミニウムをアンテナの苗に変える
②-2 アルミニウムを道具の強化に使う
③アンテナの苗を植える
④デンパを集める
⑤集めたデンパでアンテナを育てる(このとき、集めたデンパの量に応じて報酬的にアルミニウムももらえる)
⑥収穫したアンテナがあれば買い取ってもらい、アルミニウムを手に入れる
⑥-2 収穫により多くのデンパが発生するので、そのデンパを用いて新たなテレビ番組を見ることが出来る
①にもどる

アンテナ農場の仕組みは細かく教えてくれます
苗を植えて、育てて、収穫する

育成シミュレーションとして、ベーシックでありながら独自の色もある、小粒だけどとても良いサイクルが、このゲームでは形作られているなと思いました。
重要なのは「アルミニウム」です。このアルミニウムをどう使うかで、ゲームの進行はかなり変わると思います。
いわゆるジレンマ。アンテナの苗にアルミニウムを使えば、その分多くのアンテナを育てられる。一方で、道具にアルミニウムを使えば、多くのデンパを集めることができ、それ以降効率よくアンテナを育てられるようになる。

期日までに一定数のアンテナを育てるという目標も提示されるため、限られた行動時間、限られたアルミニウムをどう使うかが考えどころであり、基本的でシンプルながら、リソース管理に頭を悩ませる良いバランスでした。
難易度としては難しいわけではありませんが、しかし適当にプレイしていたらバッドエンドになります(私は1周目、バッドエンドでした)。ちゃんと頭を使わないといけないあたりの難易度、絶妙でした。

ゲームの大半の時間は、上記④にあたるデンパ集めに費やします。

身につけている道具を強化するほど、長い時間、多くのデンパを集められるので、それこそ後半から終盤はかなりの時間、デンパ集めに費やしていました。
これは割と左右に歩くだけだったので、ちょっと退屈に感じることも。また、おそらくコントローラーに対応していないゲームだと思いますが(PCにPS4のコントローラー接続ではプレイできませんでした)、出来れば対応してもらえると嬉しかったです。キーボードを押し続けるのはやや疲れるところがありました。

まあもちろん、そういったやや辛いところがあるからこそ、「もっと効率的にデンパを集めたい」と思ったのも確か。アンテナの苗にアルミニウムを使いたいものの、どうしてもプレイヤーとして身体の楽さのため、より効率的にデンパを集められる道具にアルミニウムを費やしたこともしばしばありました。

また、アンテナの苗も個性があって良いんです。

育ちやすいアンテナから、デンパの収集を助けてくれるアンテナ、さらには育ちにくいものの特殊な番組を受信するアンテナなど。
それぞれに出荷タイミングというものもあり、どのアンテナをどのタイミングで植えるかもまた、悩みどころです。

育ったアンテナのビジュアルも良い

さて、アンテナを育て、収穫すると、その集まったデンパを使い、テレビを見ることが出来ます。
もう、30代~40代くらいは思わず懐かしくなるテレビ番組、「ああこんな番組あったなあ」と思わせられる演出がなされ、笑みを浮かべました。

懐かしい……

番組の種類は多く、どのような番組が受信され、(テキストでの表現ですが)テレビで見ることが出来るかは、ゲームを進めるモチベーションとなりました。
ここはかなり新鮮で。育成シミュレーション、リソース管理シミュレーションはそれ自体がゲームの目的となりがちですが、その副産物として、ストーリーに関係する、または関係しない特別なイベントが発生するのはとても魅力的でした。

このゲームのゲーム性、アンテナ育成自体はシンプルで、見方を変えれば単調で飽きやすいものであると思いますが、このようなテレビ演出、ストーリーに関わる演出をそこに組み込まれていることは見事。
主人公は誰なのか、ゲーム冒頭の事故はどういう状況だったのか、そして主人公の目的は何なのか。それらが、デンパを集めた末に見ることが出来るテレビではっきりする。そのためにはアンテナ育成を効率的に、しっかり考えないといけない。
まさに、ストーリーの求心力に背中を押されているように、ゲームにのめり込みました。

ゲーム内のテレビ番組もそうですが、驚いたのがそのテキストの量。
ゲーム内での会話は、主人公と、農場を管理しているテレビとの会話がほぼ全てとなります。
その他、資料的に見ることが出来るものが少し。
しかし、それらの会話や資料が、正直予想を超えるボリュームでした。
また、会話に対する選択肢も発生しており、物語や世界観の部分でも飽きさせません。

とにかく、なんとなくで想定している以上のテキスト量なので、物語がどのように変化し、どのような真実が待ち構えているかは、決して説明不足ではない状態で楽しむことが出来ます。

丁寧な伏線回収もあり、またミスリードもあり、アドベンチャーゲームとしても良作。「普段ゲームをやらないけど、なんとなく遊んでみたい」という人にはぴったりじゃないでしょうか。

また、細部へのこだわりも素晴らしい。
思わず「おお……」と声をあげてしまったのは、画面の見せ方。
先ほど書いた「資料」ですが、これ、見てわかる通りやや文字の表示が湾曲しています。
これ、いわゆるブラウン管のテレビですよね。
もはや今はほとんど見ることも無くなったブラウン管のテレビ。走査線もいい味を出していますが、それ以上にこの湾曲具合でテレビを表現したのは、まさにこだわりだと思います。
そのちょっとした工夫が、ゲームそのものの丁寧さをより強くするとともに、プレイする側としても気持ちが高まるものでした。

終盤は大きな展開があり、また真実も明かされます。
驚きの展開と、驚きの解決法。
そして迎えるスタッフロールは、すっきりとしながらも確実に余韻が残る、寂しくもすがすがしいものでした。
「ああ、いいゲームだったなあ」と、心に残る作品でした。

個人的に思うのが、同じインディーゲームの『before Your Eyes』、『メグとばけもの』など、心が温まったり感動するインディーゲームはSteamで人気が高いと思うので、多言語対応を行い海外展開を行うと良いのではないかと思います。
変に捻り過ぎず、シンプルに物語を楽しめる、優しいゲーム。
世界で受け入れられる気がします。

まあでも、そうなると「昔放送されていたテレビ番組」というエモくてメタな演出が難しくなりますね。でも、そこも海外用に変えてでも世界展開していいゲームだと思います。

「どうせテレビ番組から生まれたゲームだし、大したことないだろう」と、失礼ながら思っていた部分はあります。
しかし、予想以上の丁寧さ、テキスト量、考えられたゲーム性に夢中になり、1日でクリアしました。
1周遊んだ際はバッドエンド、2週目は真剣にプレイしトゥルーエンド。
1周およそ3時間ちょっとというところでしょうか。じっくりやると4時間くらいだと思います。

とても良いゲームでした。まさにインディーゲーム。
テレビやテレビ番組がゲームの中の重要コンテンツであることも、テレビ番組発のゲームとして素晴らしい。

繰り返しになりますが、甘く見てました。
テレビ番組発=ゲームが本業でない会社発のゲームということで、ちょっとブームに乗ったレベルのゲームかと思ったら、想像以上に濃厚で、細部にまで気を使っていて、エモさもある作品。
ゲームを普段遊ばない人にも最適な、カジュアルに遊べる良作です。
東京パソコンクラブも見てみたくなりますね。

非ゲーム会社であるテレビ局、テレビ番組から生まれた『デンパトウ』。
Youtubeや配信がスタンダードになった今、「テレビだからこそ」のひねりもある、そしてテレビを見たくなる、とても良い作品でした。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?