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『POOLS』感想:物語も説明も敵も味方もBGMもないのに、鳥肌が立つくらい不気味。無機質な室内プール的建物の中をさまよい続ける「The Backrooms」系ゲーム

急に大きい音が出るとか、化け物が画面いっぱいに現れるとか。
ゾンビ犬が急に窓を割ってびっくりさせてくるとか、そういった演出は一切無し。それなのに、「何かがあるんじゃないか」という気持ちで思わず鳥肌が立つ。

ホラーではないかもしれないけど、それでも怖い。不気味。
そんな尖りまくったゲーム『POOLS』、面白かったです。

このゲームの説明……と言っても、正直ほぼ伝えるべきことがありません。もはや、この記事のタイトルで記載した内容が全てなんです。
ゲームは一人称視点の3D。謎の「室内プール的な建物」で、主人公は目を覚まします。

歩き回ってみても、そこにはプールと通路。階段があったり通路があったりするものの、そこはやはり室内プール的な建物としか思えません。よくある白いタイルで形成された壁、床。人工的な明かり。

物語も、説明もなく。プレイヤーは、ただただ歩き続けます。

歩いているうちに、同じ場所へまた辿り着き。
あれ、またここか……。他に通路あったかな。そんなことを思い、またぐるぐると同じ通路。どこに行けばいいかもわからない。彷徨い続けます。

とは言え、迷うことはあまりありません。迷路や謎解きという要素は無く、一部行き先が分かりにくいところもありますが、ほぼほぼ先に進むことが出来ます。
ここはどこなのか、自分が進んでいるのは正しい道なのか、果たして進んでいるのか戻っているのか。
とにかく、歩き続けます。響くのは、ただ自分の足音のみ。

このゲームは6つのチャプターに分かれており、1つのチャプターにつきプレイ時間は10-30分程度。私自身、最初は戸惑い、1チャプター目はおそらく30分弱かかったと思います。一方、後半は慣れてきたのでどんどんチャプタークリアの時間が短くなり、6チャプターすべてクリアした時点でのプレイ時間は約90分でした。

いや、それにしても90分も彷徨い続ける中にはドラマもありました。
もちろん、敵も味方も物語も説明もありません。
一体だれが何のために作ったのか。出口はあるのか。目的はなんなのか。
何もわからないまま彷徨うプレイ。ただただ、不気味。それでも、その歩みがドラマに感じてしまうほどの魅力が、このゲームにはありました。


このゲームはいわゆる「The Backrooms (バックルーム)」がモチーフとなっており、その特徴である「同じような空間が延々と続く」という不気味さを見事にゲームとして再現しています。

「何もない」だからこその「何かあるかもしれない」という不気味さ。
Backroomsでは化け物がいましたが、このゲームでは何もいません。
その代わり、ときおり「何らかの音」が聞こえたりもします。でも、それが何かはわかりません。

不気味なのは、確実に「何もない」のに、「何かがいそう」な演出。
このウォータースライダーは何のため?
この像は何のため?
トイレは?
サウナは?
カラフルな浮き輪は?
一体何のために、誰が準備したのか。

そして、真っ暗な通路の先には何があるのか。

そこには「何もない」はずなのに、生理的な緊張で思わず鳥肌が立つ。
この絶妙なホラー加減が素晴らしかったです。

私自身、ホラーは苦手で。
ホラーゲームに限らず、ホラー映画やお化け屋敷も苦手で。
もちろん生理的に嫌なのもありますが、何より嫌なのがびっくりさせられること。

大きい音や映像で急に驚かされることがとてもストレスに感じるので、そういったゲームは避けてきました。
そんな私にとって、絶妙な不気味さ、ホラー感を楽しめたのがまさに本作。

気持ち悪い生き物や精神的苦痛があるわけでもないのですが、ゴールも目的もはっきりしない中、閉塞感のある空間を彷徨うのは緊張感を伴うというか、「現実との違和感」を常に持ち続ける、居心地の悪さを感じます。

早く元々自分が知っている世界に戻りたいのに、建物の中だからこそ、出口が近いのか遠いのかもわからない。

知らない土地で迷ってしまったような不安や焦燥感が、常につきまとう体験が延々と続きました。

それこそ、ところどころ「もしかすると何らかの意味があるのかもしれない」と思わせる物体が配置されているからこそ、不気味さを際立たせていたのかもしれません。

言い方を変えれば、説明不足、ユーザーに不親切、雰囲気ゲー。そんな評価をされてしまうかもしれない本作ですが、しかしSteamの評価は「圧倒的に好評」。

それはおそらく、どこを切り取ってもアートになるような建造物の作り込み、ナビゲートが無くとも次に行くべき通路が目につく絶妙なデザイン、プレイヤーに先を予想させない展開(どこかSuperliminal的な体験もあり)、様々な要素が組み合わさって生まれたのだと思います。

物語やキャラクターがないということは、逆に言うと体験で魅力を圧倒的に表現しなければいけないということ。
そしてその尖った勝負、賭けに買ったのがこの作品。
The Backroomsという下地はあれど、それをゲームに落とし込んだ見事な作品では無いでしょうか。

物語が無くても、美麗な映像では無くても、キャラクターがいなくても、荘厳なBGMが無くても、人の感情は動かすことが出来る。
実験的と言ってもいい作品でありつつ、シンプルな宝玉のような完成度。

『POOLS』、お勧めです。


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