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『The Cosmic Wheel Sisterhood』感想:選択型アドベンチャーの新機軸!!取り返しのつかないタロットが全てを決める超傑作アドベンチャー!!

何から何まで、全て自分の責任で物語が進むからこそ、体験したことの無い没入感。心を掴んで離さないシナリオ。そして頭を悩ませる物語。
クリアした後に思わず「凄いゲームだった……」と呟いてしまった、とにかく夢中になると同時に、衝撃を受けたゲームでした。

開発したのは『The Red Strings Club』を開発したチーム。
『The Red Strings Club』の哲学的であり悩ませる選択肢のうまさに完全にやられた身として、非常に期待していた作品でした。
結果として、期待を大きく大きく上回る、最高のアドベンチャーゲームでした。

主人公は魔女のフォルトゥーナ。1000年の流刑を受け、小惑星で生活しています。

彼女がその罰を受けた理由。それは、タロットカードでの占いで、魔女たちのコミュニティ『コヴン』の崩壊を予言してしまったからです。
これによりコミュニティには絶望が広がり、フォルトゥーナを頼る人が続出。

コミュニティの長である絶対的な権力者の魔女エイダーナは、それを良く思いませんでした。フォルトゥーナを、1000年の流刑と罰したのです。

そして200年が経った頃。
彼女は、禁忌の魔法を使い、化け物や悪魔と形容できる不気味な存在、ベヒモスという生き物と契約します。
ベヒモスはその禁忌、種族のようなもののようで、フォルトゥーナが呼び寄せたベヒモスの名前は「エイブラマー」。

フォルトゥーナが流刑となった際、タロットカードは取り上げられてしまいましたが、ベヒモスであるエイブラマーとの契約で、フォルトゥーナは自ら占い用のカードを作成することが出来るようになります。

ここから、一大スペクタクルな物語が始まります。

占い用のカードを作ることが出来るようになったフォルトゥーナ。
カードは、背景の「スフィア」、主役の「アルカナ」、そしてその2つの構成に魔力を付与する「シンボル」の3つで形成されます。
それぞれの要素を選び、オリジナルのカードを作成していきます。

各要素にはエネルギーコストという、その要素をカードに組み込むためのコストが存在します。
コストは火、水、土、空気の四元素からなり、必要なリソースを使うことで、希望する要素をカードに組み込むことが出来るのです。

出来上がったカードは、3つの要素それぞれに使用されたエネルギーコストを内包するものとなっています。

そのため、例えば火のエネルギーコストを多く必要とする背景や主役を選ぶと、おのずと出来上がったカードは火の元素が強いカードになりますし、また水のエネルギーコストを多く必要とする要素を選びカードを作れば、それは水の元素が強いカードとなります。
コストに制限されるものの、どのようなカードを作るかはプレイヤーの自由となっているのです。

それを繰り返し、徐々に増えていく自分のカード。構築されるデッキ。
これこそが、このゲームの最大の特徴であり、選択型アドベンチャーとしての新機軸を感じたところでした。

フォルトゥーナが流刑を受けている小惑星の自宅。ここに、様々な人が訪れます。

魔女の友人や、秩序を守る裁定者、そして全く関わりの無かった魔女など。
彼女らは、フォルトゥーナに対し、自らを占ってくれと頼みます。
それはちょっとした悩みから、過去現在未来のことについて。
簡単な相談から、今後の生き方を変える重要な相談まで。
フォルトゥーナはここで、自分で作ったカードたちを用いて、占いを行います。

ランダムに選ばれる、自分が作ったカード。
カードから読み取れる占いの結果を、フォルトゥーナは選び、相手に伝えます。
ここが、選択型アドベンチャーであるポイントです。

フォルトゥーナの占いは強力。
ここで伝える占いの結果が、占った相手のその後を決定づける予言と言っても過言ではありません。だからこそ、慎重に何を伝えるかを選ぶのです。
伝え方は、デッキからランダムに引かれたカードをもとに、そのカードの解釈を選択すること。
そしてこの部分がゲーム性となっています。それはつまり、占いの結果をどう使えるかが、非常に頭を悩ませる選択肢であるということです。

やがて、その占いの結果は占った相手に影響を及ぼします。
それが良い結果なのか悪い結果なのかは、全てフォルトゥーナの占い次第。
取り返しのつかないことになる可能性もありますが、ランダムに選ばれたカードの結果であり、選ばれたカードから読み取られる解釈および提示される選択肢に、何ら介入することは出来ません。

そう、このゲームでは占いの際、カードを選ぶことと、選んだカードから生み出される選択肢には、介入できません。

端的に言えば、選択型アドベンチャーの「選択肢そのものには介入できない」という仕組みそのものということです。提示された選択肢から選ぶしかない、根本的な仕組みです。
これは、選択型アドベンチャーの代表作である『Life is Strange』や『Detroit Become Human』と同じ。選択肢の先は分岐するものの、選択肢そのものはゲームが提示するもの。選択肢をいじることは出来ません。

そこで、このゲームです。
前述の通り、選ばれたカードによる選択肢。これはいじることが出来ません。また、どのカードが選ばれるかのランダム性。これも介入できません。

しかし、考えてみると、その最終的なアウトプットである「占いの解釈という選択肢」は、占いで引いた「カード」の解釈の結果です。
そして、ランダムに選ばれた、選択肢のもととなるそのカード。それは、もとはと言えば「プレイヤーが自分で作成したもの」なのです。

ここが、このゲームがアドベンチャーゲームとして一つ大きな壁を破ったと感じたところでした。



プレイヤーが自由に作成したカード。
それは、デザインの仕方で火・水・空気・土の四元素のバランスが変わります。
それぞれの元素には特徴があります。火の元素は争い、土の元素は安定、など。
その元素のバランスを考え、作成した結果出来上がったのが、フォルトゥーナの操るカード。
それぞれの元素の割合によって、提示される選択肢も変化します。
カードをデザインする時点で、最終的に占い相手に伝える選択肢まで影響しているということなのです。


つまるところ、プレイヤーとして、ゲームから提示された選択肢を選ぶというのはまさにアウトプットの最終部分であり、プレイヤーが関与するゲーム性の部分です。その選択によって、占い相手のその後に影響を与えます。

カードのデッキからランダムに1枚選ばれ、その解釈を相手に伝える。それはゲームが自動で行うので、プレイヤーの入る余地はありません。
いわば、ここまでが通常のゲームなのです。

このゲームが凄いのは、さらにそれよりレイヤーが上……、つまり、「選択肢を提示する元となるカードそのもの」を作ることが出来るということです。
一般的なゲームが選択肢を選ぶことだとすれば、このゲームはそこにランダム性を加えました。そしてそのランダムに選ばれたカードそのものという更なる上位の仕組みを、プレイヤーに自由に作らせたのです。

つまりは、一般的な「ゲームに用意された選択肢を選ぶ」のではなく、「プレイヤーが自分で作ったカード(に内包される元素)をもとに用意された選択肢を、プレイヤーが選ぶ」というシステム。そこには、ゲーム側が用意する予定調和なものは、全くありません。

だからこそ、「こんな選択肢選べないよ」という気持ちにプラスして「でもこの(選択肢の元となる)カードを作ったのは、俺か……」という、今までに体験したことが無い気持ちになったのです。

どのようなカードを作るか、そしてどのような元素が多いカードとなるのか。そしてその結果、選択肢に影響を与える。
ここが今まで経験したことの無いプロセスでしたし、このように全ての選択肢がプレイヤー自身、自分の決断の結果だという事実が、物語の「この選択をしたら後戻りできない」という気持ち、そして「どの選択を選び、占いの結果がどうなっても、全責任は(占いに使うカードすら作った)自分である」という気持ちを強くしました。

不思議なもので、ただ提示された選択肢を選ぶより、その選択肢のもととなる要素(カード)を作ったこのゲーム、非常に没入感が強いんですよね。
それは単純にシナリオ、セリフ、演出の上手さもあるかもしれませんが、確実に選択肢のもととなるカードを作った、ということも原因であると思います。

フォルトゥーナの占いにより、占った相手の未来に影響が生じる。
それにより、いい結果も、悪い結果も生じる。
それが全て自分の責任であるというプレッシャーが、いつの間にか圧倒的な求心力を持っていました。

こういったアドベンチャーゲームとしての新機軸、特殊性もさることながら、このゲームの魅力はそのシナリオ部分にも強く存在します。
やはり『The Red Strings Club』を生み出した開発チーム。哲学的な話もありつい考えさせられると同時に、ただただキャラクター同士の会話を見ているだけでも、自分はどう考えるか改めて見つめ直したり、また感銘を受けてしまうような魅力的な文章の数々で溢れていました。

そして、そこから醸成させる圧倒的なストーリー展開と、各章の「引き」
ここにがっつりやられました。

ストーリーはネタバレしないようにしますが、いわゆる占いをベースに、様々な人との交流が主軸になっていきます。

会いに来てくれた人に頼まれて占う。その結果、カードのどんな解釈を伝えるか迷いながらも決断する。
序盤はそれを行い、キャラクターとの交流を深めます。
確かに面白い選択型ゲームだけど単調なゲームなのかな。そう思った直後の、物語の大きな転換。
私は約5時間強でクリアしましたが、本当に飽きる暇がありませんでした。
選択肢、登場人物、ゲーム性、そして大スペクタクル。

物語自体の盛り上がり方も異常な上手さです。派手な演出やイベントで無理やり気持ちを盛り上げるのではなく、静かに、しかし一歩一歩階段を上るように着実に盛り上がっていく物語。そして盛り上がると同時に重大になっていく選択肢。

さらには、フォルトゥーナの過去の回想も非常に上手に差し込まれ、それが現在と繋がるのもまたうまい。
物語の魅力が非常に強いシナリオでした。

そして何より、その魅力を何倍にもしているのが、物語の「引き」です。

このゲームはいくつかの章に分かれているのですが、各章の終わりには本当に驚かされます。こんな引きを見せられて、止められるわけがないじゃないかと。

先が気になって止まらない海外ドラマを見ているような、首根っこを掴まれて引き込まれるような圧倒的なストーリー展開。
そして全く飽きさせないゲーム性の展開。
もう気が気じゃないくらい夢中になりました。


あらゆる選択肢の根源となるカードを作り、それをランダムに引いて、そして自分で解釈するという、完全に自己責任な選択型アドベンチャー。
そしてそのシステムだけではなく、物語の面でも、驚かされ虜にされる展開にグッと心を奪われます。
それぞれの要素のクオリティの高さはもちろん、何か一つが尖った面白さであとの要素はそれなり、というわけではなく、それぞれが尖っていながらも完成度の高いバランスで成立して一つの芸術品が出来上がったような印象です。

他の要素とすれば、当然非常に細かく質の高いドット絵、そして物語の盛り上がりに大きな役割を担っている音楽。これらも正直、非の打ちどころがありません。

翻訳も高クオリティ。ごく稀に脱字等が見受けられましたが、大勢には影響ないレベルなので没入が削がれることはありませんでした。


クリアしてみれば、ただ一言。とにかく凄い。
本当に、凄い凄いと口に出しながらプレイしたゲームでした。
やはりアドベンチャーゲームの性質上、ネタバレを回避してここまで書いてきましたので、一番美味しい、面白いところは伏せている状態です。
ぜひこれはご自身でプレイしていただき、楽しんでいただければと思います。

プレイ環境はPCとSwitch。ゲーミングPCは持っている人がまだ限られると思いますが、Switchならお持ちの方も多いかと思いますので、ぜひぜひ遊んでみてほしいです。

特に、物語重視のゲーム、アドベンチャーゲームが好きな方は騙されたと思って絶対に遊んでほしいです。
現在2023年8月ですが、今年No.1アドベンチャーゲームはこれで決まりではないかと思っています。

とにかくアドベンチャーゲームにおける傑作。
この開発チームの次の作品が今から楽しみです。
圧倒的な魅力が凝縮された『The Cosmic Wheel Sisterhood』、ぜひぜひ体験してみてください。

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