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大坂秩加さんの個展『ささやかな今日のおわり』を観た(2018/3/31)

両国駅東口から徒歩約5分、高架下を抜けた所にあるGALLERY MoMo Ryogokuの扉を開くと、場末のスナックであった。部屋の壁は深紅に染まり、一瞬にして真夜中になってしまった。

以前にも同じ大坂秩加さんの個展『おおさかるた』で伺った事があるけれど、同じ大坂秩加さんの個展でまさかここまで室内が様変わりするとは思わなんだ。

天井にはミラーボール、テーブルもソファーも完全にスナック。
しかし不自然に散乱する日めくりカレンダーの存在と、話し声とカラオケのBGMが聞こえるのに無人の店内というのが、偶然重なりあってしまった並行世界に迷い込んでしまった様であった。

版画作品の展示され方も斬新で、テレビの様に掛けられて字幕や切りとられた画がカラオケの映像の様なものや、テーブルの上に塩の筒が置かれていて、ナメクジのように溶けていく女性が刷られた用紙が何枚も何枚も連なって次第に薄くなっていくもの、テーブルの上にムール貝の殻に囲まれた作品は殻に閉じ籠もった女性。そしてそれぞれの作品の足元にはやけっぱちな言葉が裏書きされた日めくりカレンダー。

日めくりカレンダーの裏書きはスナックのママが書いたその日の客が酔いに任せて吐き出していった言葉という設定のようで、カウンター内側にある机には今日の日付のカレンダーが裏返されていた。

しかもカレンダーの裏に書かれた文字は全て手書きではなくリトグラフという拘りよう。徹底的に現実ではない空間である事を演出している。

作品中の背景も人々も日々吐き出される言葉も、全て何かずれていて荒れていて地獄絵図に近いものを感じる憎悪の掃き溜めなのに、作品中の女性の肉付きの良さと肌の艶やかさは天女の様にも見えてくる。この絶妙なバランスで保たれて生まれるコミカルさは一体何なんだろう。

スナックのママという菩薩の視点によって、人の悩みはちっぽけで、汚い感情も劣等感も全て愛すべきものと言っているようでもあった。

会場:GALLERY MoMo Ryogoku
期間:2018年3月24日~4月21日
入館料:無料

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