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ショートカット。

年下が苦手だった。
なんとなく気を使うし、どっちかと言えば恋人には甘えたいタイプだと思ってたから。


彼は3つ年下の大学生だった。
会社の同期が大学時代の後輩ということで飲み会に連れてきた時が初めましてだったと思う。


如何にも''大学生''という感じで、けたたましい声が飛び交う大衆居酒屋にその''大学生感''がとてもマッチしていたし、高校卒業から今の会社にいる自分とは年齢3年分以上の距離を感じた。もしかしたら距離を無理矢理作ってたのかも。


彼を連れてきた同期曰く、彼は年上好き、落ち着いた人が好き、ショートカットが好き、らしい。

帰り際、ショートカットじゃない私の連絡先を何故か執拗に聞いてきて根負けする形で教えた。

「次は2人で飲みに行きましょーね!」
かなり酔っ払っていたからか別れ際に大声でそんな事を言っていた気がする。
その声を背中で受け止めて返事はしなかった。

次の日から毎日連絡が来るようになった。

いつ暇ですか?

年下って苦手ですか?

凄く良い子なのはわかる、顔も垢抜けてこそないけど嫌いな顔じゃない、私の事を好意的に思ってる事もわかってる。このままじゃきっと私も好意的に思ってしまう事も。

たまたま予定が合ってしまったから2人で飲みに行く事になった。
年下なのにお店も選んでくれたし、2人で話すと思いの外落ち着いて心地良いリズムで喋ってくれるし、トイレに行ってる間にお会計も済ましてくれてた。


器用にこなすというよりは、必死に、でもこなしているように見せるように見えた。


このままホテルにでも行くのかな、それならそれでもいいかな、なんて思っていたら終電から2本早い電車に乗せてくれて「次は映画でも観に行きましょー!」なんて言ってた。


呆気に取られたし、少しだけ寂しい、かも。


そこから水族館にも行ったし、映画にも行ったし、私が好きな作家さんの個展にも行った。彼は興味ない筈なのに。海にも行ったかな。


たぶん、きっと、もう私は好きになってた。一度も手を出してこない年下の男の子の事が。

いつ告白してくれるのかなぁ、なんて思う事がもどかしくもあって、でもそれが幸せで。


ある時から少しだけLINEの返信が遅くなった。予定も合わなくなった。

前まで一度も私から連絡した事はなかったのに、気づけば私からばかりになってた。

髪を短くしてみた。

特に意味はないけど。

もう会わなくなったし意味はないけど。


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◎写真提供:🥀 彩 .

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