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書評 #44|最後の証人

 交差する二つの事件。その二つが交差する旅路が柚月裕子の『最後の証人』だ。隔たる距離。歩みを進めるかのように、その距離が縮まっていく。

 社会に秩序をもたらす法の番人たち。どんな組織にも多少の不条理は存在する。人を裁く意味。そこに真の罪はあるのか。それはまやかしか。社会的な立場や地位によって歪む正しさ。それが本著の核であり、鈍い熱を読者へと放ち続ける。

 「法より人間を見ろ」という言葉は太陽のような存在感を醸す。「人間」とは人の心を指す。物的証拠や事実は心を映し得るが、具現化したものではない。振り返ってみれば、本著を開いてから閉じるまで、僕自身も語られ、披露される事実らしき事柄の数々を陪審員として眺めてきたのだと理解する。

 『検事の本懐』を先に読んだが、『最後の証人』では佐方貞人の揺らぐことのない信念と成熟に触れた。検事として相対する庄司真生が彼の過去を映しているとは思わない。しかし、よりしなやかに人間を見つめる佐方の姿が描かれている。飽くなき探究心と行動力。手に職を持つ者であれば、その姿に心が動かされるのではないだろうか。


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